第185話 ミア3。28階層5


 今日はゴールデンウイーク最終日。

 ミアはああいった環境にいたわけなので、何かの病気にかかっている可能性がある。

 俺はまず半地下要塞前に転移した。

 バケツと漏斗を持って桟橋まで歩いていき、タマちゃんに20リットルのポリタンクを出してもらって池の『治癒の水』で満杯にした。


 バケツと漏斗もポリタンクと一緒にタマちゃんに預けたあと収穫コンテナをひとつ出してもらい、イチゴと梨、桃、リンゴ、その他をそれなりの量摘んでそれもタマちゃんに預け、忘れず銀の指輪をはめて館の書斎に転移した。


 書斎ではアインが俺を待っていた。

『マスター、おはようございます。

 食事の準備はできています』

「ミアが待ってるかもしれないから急いで食堂に行こう。

 おっと、その前に」

 食堂に行く前に昨日買った歯磨きセットとさっき摘んだ果物類を入れた収穫コンテナ、それに『治癒の水』を満杯にしたポリタンクをタマちゃんに出してもらった。

「これは歯を磨くものだ。

 食事が終わったらミアに歯磨きさせてくれ」

 使い方を簡単にアインに教えておいた。

「果物類は一言で言えば元気の出る果物だから、ミアに食べさせてやってくれ。

 この容器に入っているのは『治癒の水』といって飲めばたいていの病気は治る。

 沸かしても効果は変わらないみたいだからお茶を入れるのに使ってもいい。

 ミアが何かの病気にかかっている可能性もあるから、ミアに飲ませてやってくれ。

 このコックをひねれば出てくるから」

『了解しました』


 書斎から急いで食堂に入ったら、ミアが昨日の席に付いていた。

 俺がいつもの席に着いたら、ミアが俺に向かって「マスター、おはようございます」と日本語であいさつした。

「おはよう、ミア」

 ソフィア、やるじゃないか。ただ、ミアは俺の自動人形しょゆうぶつじゃないんだから、俺のことをマスターと呼ぶのはちょっとマズい。俺のことはイチローとでも呼ぶようあとでソフィアに言っておこう。


 俺が席に付いたところで、ワゴンが食堂に入ってきて料理の皿が並べられて行った。

 今日の朝食は、

 ハムステーキに目玉焼き。

 ベーコンとコーンの入ったホウレンソウの炒め物。

 オニオングラタンスープ。

 厚切りのトースト。バター、ジャム、そしてハチミツ。

 スプーンでハチミツをすくってフィオナ用の小皿にスプーンごとおいてやった。

「それじゃあ、いただきます」

 俺がそう言ったらミアも「いただきます」と日本語で言った。ちょっとイントネーションが違うような気がしたが違いはわずかだ。


 日々の生活の中で日本語を覚えていけば案外早く日本語でミアと意思疎通ができそうだ。


 ほとんど食べ終えたところで、イチゴが小皿に3つぶずつ出された。大きな粒なので俺が今日持ってきたイチゴだと思う。


 ミアが小さな口を大きく開けてそのイチゴを半分くらい食べた。

「$#!」

 何を言ったのか分からないが「おいしいー!」か「あまーい!」かどっちかだろう。

 おいしいだけじゃなくって元気も出るからな。

 頑張って勉強してくれ。


 食事が終わり、ミアと連れだって食堂を出て2階に上がったところでミアと別れた。歯磨きセットで歯を磨いたらすぐに勉強だな。

 ちょっとスパルタっぽいが、必ず本人のためになる。はずだ。


 俺は書斎に戻ってタマちゃん入りのリュックを背負い、書斎で待っていたアインに12時には昼食を食べに戻ると告げて専用個室に転移した。


 センターで買った2本のメイスはロッカーに置いたままクロと白銀のメイス、そしてナイフを取り出して装備した。


 冒険者証をカードリーダーにタッチした俺は28階層?の渦の前に転移した。



 まずはディテクトトラップ!

 今回も赤い点滅はなかった。

 一度解除したら当分の間罠は生き返らないようだが、当分の間がどれくらいなのかはっきりわからない以上ディテクトトラップは必須だ。


 通路に出てから再度ディテクトトラップ。

 そしてディテクター×2。


 通路にも赤い点滅はなかった。

 その代り、モンスターの反応が前回同様それなりの数あり、前回同様その中のひとつがこっちに向かってきている。

 またあの黒スライムだったら俺自身で戦いたくないからタマちゃんに頼もう。


 待ち構えていたら、やっぱりあの黒スライムだった。

「タマちゃん!」

 クロスライムが50メートルくらいまで近づいたところでタマちゃんから金色の偽足が数本伸びてあっという間にクロスライムは消えてしまった。


 金の偽足が縮みながら1本に合体して最後に俺の手の平に黒スライムの核が置かれた。

 昨日は部屋の中に入って宝箱を見つけたが、罠が再生していない以上昨日開けた部屋ではモンスターも宝箱も再生していないだろう。

 今日はしばらく通路を進んでみるか。


 通路を進んで再度ディテクターを唱えたら、モンスターが俺に気づいたようでこっちに向かって動き始めたことが分かった。

 さっきの黒スライムもそうだが、ここのモンスターは100メートルくらい先の気配を察知できるようだ。


 そして次に現れたモンスターはまた黒スライムだった。

 黒スライムが近寄ってきたところでタマちゃんに核だけ残して捕食されてしまった。

 これで野球ボール大の核が2つ。

 なかなか効率がいい。


 さらに通路を進んだところ俺に気づいたモンスターがこっちに向かってきた。

 現れたのはやっぱり黒スライムで同じようにタマちゃんに加工されて核になってしまった。これで3個。


 T字路の突き当りで左右を見たら、黒スライムが何匹もいた。

 通路は黒スライムの縄張りみたいだ。


 俺に気づいて寄ってきてくれる黒スライムを待ちつつ赤い点滅をディスアームトラップで解除していった。

 ある程度黒スライムが近づくとタマちゃんが核に加工してくれるので効率がいい。


 左右どっちに曲がってもよかったが何となく左に曲がって今までと同じように扉の並んだ通路を進んでいき、どんどんタマちゃんに処理してもらった。


 非常に効率がいい。

 これなら時速30個で核が貯まっていく。


 俺は自分の位置を気にすることもなく1時間ほど罠を解除しながらタマちゃんに黒スライムを核に加工してもらい適当に歩いていったところ、壁に扉がないまっすぐな通路がどこまでも続いているところにやってきてしまった。

 ここまで32個の核を手に入れている。


 ディテクター×2で探ったが、通路前方の探知範囲内にモンスターはいないようだ。

 この先がただの行き止まりなのか? 何か特別なものがあるのか? それともある程度まで進んだらまた今までのような迷路が現れるのか?


 念のためディテクトトラップを意識したが赤い点滅もなかった。

 今までとは少し違う。

 この先何か特別なものがありそうで期待が持てる。


 まっすぐな通路を20分ほど歩いていたら、正面に突き当りが見えてきた。

 この間罠もなければモンスターにも出会っていない。

 もう少し進んだところ少しずつ通路の幅が広がって天井も高くなっていき、その突き当りに扉が見えてきた。


 周囲を警戒しつつ10分ほど歩いて両開きの扉の正面に立った。

 扉の前の通路は幅が約15メートル、天井の高さは約20メートル。

 扉は両開きでそれ相応の大きさがあった。

 材質は青銅っぽい金属。そうとう重そうだ。

 俺の力で開くだろうか?


 俺は右側の扉板の前で若干腰を落とし、両手で押してみた。

 カギはかかっていないようで、わずかに扉は動いたもののそれ以上扉は開かなかった。

 力を緩めたら扉は元に戻って閉じてしまった。


 この扉の先が少しでも見えればよかったのだが、扉板が厚くてわずかに動いたくらいでは先が見えなかった。


 この先を確かめないとここまできた意味がない。

 何か良い手はないのか?


 そういえば、クロ板で力を増す魔法を俺は覚えた。

 力が増すことを意識すれば、魔法は発動するハズ。


 俺は力を増す魔法を意識して再度扉に挑んだ。


 感覚的には何がどう変わったわけではなかったのだが、両手に力を込めると扉板は少しずつ動き、扉の先が少しずつ見えてきた。


 まだ斜め前しか見えないが、扉の先は大広間のようで、壁際に屹立した巨人の石像が見えた。

 その巨人像はフルフェイスのヘルメットをかぶり全身鎧を着て大剣を手にしている。

 物語や映画なんかでは、こういった場所に立っている像はたいてい、ゴーレムっぽいモンスターで何かの拍子で息を吹き返して主人公を襲うのだが、まさかここでそういったことは起こらないだろう。

 それでも大事を取って、フィオナにリュックの中に入っているように言ってから、さらに力を込めて扉を押した。


 少しずつ中の様子が見えてきた。

 扉の先は縦長の大広間になっていた。

 巨人像は先ほどの1体だけでなく左右の壁に沿ってずらりと並んでいて、それぞれがてんでバラバラの武器を手にしていた。

 その並びの先、広間の奥には壁に並ぶ巨人像よりもはるかに大きな巨人の座像があった。

 その巨人だけはヘルメットをかぶっていなかった。

 巨人の髪の毛は長いので女のようにも見えたが、はっきり女と言える感じではなかった。像の性別がどっちだろうとどうでもいいけど、こんなところにポリコレ? とかつい考えてしまった。


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