第93話 Dランク冒険者17。ダンジョン管理庁管理局企画課


 氷川と潜った次の日曜日。

 秋ヶ瀬ウォリアーズの3人と潜ってひとり当たり4万弱の買い取り額となり、累計買い取り額は5億9908万8600円となった。


 年末の予定についてダンジョンから上がっていつものバーガーショップでバーガーセットを食べながら話をした。


「期末試験もあるし、クリスマスもあるからどうしようか?」

「年末は長谷川くんも忙しいだろうから、12月はパスして、その代りみんなで二年参りしない?」

「それいいね」

「わたし二年参りしたことないから、してみたい」

「長谷川くんはどう?」

「初詣にはいくつもりだったからいいよ」

 確かにちょうどいい。

 自分一人だとなあなあになってしまいがちなことも、約束してればまちがいなくできちゃうものな。


「よかった。

 年末近くになったら集合場所と集合時間を長谷川くんにメールで知らせるね」

「了解」


 内実はともあれ、俺のリア充度が増していくような。

 クラスの連中には秘密だ。



 12月に入り、最初の土日は連休だった。(6日、7日)

 もちろんダンジョンに潜って儲けさせてもらった。

 一度ターゲットに向かっていたら冒険者のチームに出くわしそうになったが、ハンターズかも知れなかったのでスルーして次のターゲットに向かった。

 2日間で8630万6千円。累計買い取り額は6億8539万4600円となった。

 

 次の週の土曜は半日授業があり、日曜は久しぶりに全休とした。

 こういう日もたまにはいいものだ。

 翌週期末試験なのでおさらいで教科書を見たりして過ごした。


 週が明けてその週の木、金と期末試験があった。(18日、19日)

 今回もいつも通り楽勝だった。

 週明け答案が帰ってくるのが楽しみだ。


 そして週末土日の連休。(20日、21日)

 もちろんダンジョンに潜って収入は満足いくものだった。

 これで累計買い取りは額7億4975万3600円。



 週が明けて月曜の夜。氷川からメールがあった。

『Dランクになった』

 一文だけのメールにうれしさがにじみ出てる気がした。


 俺のSランク昇格より氷川の昇格の方が断然早かったか。

 俺の高校の冬休みは25日からなので、

「おめでとう。

 25日に一緒に6階層に潜らないか?」

 とたずねたら、すぐに返信があった。

『わかった。9時いつもの場所で』

「了解」

『その日は夕食をおごるからそのつもりでいてくれ』

「分かった。ありがとう」

 俺がおめでとうでおごるのが筋のような気もしたが、本人がそう言うのならそれでいいんだろう。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 特殊空洞管理庁、通称ダンジョン管理庁ないしダンジョン庁。

 長官は大臣相当の庁ではあるが、内実はかなり小さな官庁であるうえ母体が経済産業省だったこともあり経産省の別館ビルの2フロアを間借りしている。


 そのダンジョン管理庁であるが、現代先端産業で不可欠の素材となっているモンスターの核の供給行政を一手に握っておりフロアを貸している経済産業省からも核の供給量を増やしてもらいたいと連日催促されている。


 そのダンジョン管理庁の中にただ一つ存在する局である特殊空洞管理局、通称ダンジョン管理局。

 その管理局内に企画課という部署があり、この企画課が日本のダンジョン行政の舵を取っている。


 ここは仕事納めを数日後に控えた管理局企画課。

 小林企画課長と山本課長補佐が課長席の近くに置かれたソファーに向かい合って話し合っていた。


「16歳に資格年齢を下げたのにもかかわらず、ダンジョン人口が伸び悩んでいる。

 手っ取り早いのは外国人へ免許を開放することだが、ダンジョン内であろうと米国軍人以外の外国人に武器まで持たせたくはないと政府は難色を示しているのは知っての通りだ」

「買い取り値段を上げれば当面の供給量は上がるのでしょうが、産業界から反発があるうえ、与党からも釘を刺されている以上できませんよね」

「ほかに何かいい手はないものか?」


「課長。最近庁内で話題になっている16歳冒険者のことはご存じですよね」

「もちろんだ」

「その16歳の冒険者は男子高校生らしいのですが、ランク別に設けているダンジョン階層の改札を抜けて次の改札を抜ける時間がどうもおかしいようなんです」

「どういうことだね?」

「その冒険者は何らかの能力を使い改札間をショートカットしているのではないかと思われます。

 さらに言えば、1日の核の持ち込み量が桁違いのようです」

「改札間をショートカットする能力やモンスターを簡単にたおす能力をその冒険者が持っているということかね?」

「はい。

 よく映画とかアニメで出てくる特殊能力とか、魔法とかそんなものを使っているのではないかと若い課員たちは言っています」

「本人が何をしようが規則に触れるようなことでなければ、問題ないしどうしようもないだろう?」

「もちろんそうなんですが、そういう話ではなく、もしもですね、特殊能力、例えば魔法の存在がその冒険者を通じて証明されればどうなると思いますか?」

「国内はもとより世界的な騒動になるだろうな。

 しかし、その冒険者の能力がダンジョン由来でなければうちにとって意味がないのではないか?」

「ダンジョン以外にそういった特殊な能力を得ることができるなら、人類数千年の歴史の中で魔法使いはごまんと存在したのではないでしょうか?

 それに、魔法と聞いて国民は必ずダンジョンを連想します」


「確かに、十数年前に出現したダンジョン由来と考えるのが合理的か。

 そうなるとここもまた忙しくなるな」

「忙しくなるのは仕方ないとして、その時ダンジョン人口はどうなると思います?」

「おお! 確かに絶好の宣伝材料になるな。

 特に若い世代は飛びつきそうだ」

「でしょう。

 ただ、彼がそういった特殊能力を持っていたとしても、それは彼の個人情報ですし、しかもまだ未成年です。

 ですのでわれわれが軽々にそういった情報を発信するわけにはいきませんが、本人の自由意志なら問題ありませんし、魔法の存在だけならリークの形を取ることも可能です」

「年が明けてからになるだろうが、適当な人間をアサインしてその線で出来ることをやってくれたまえ。

 くれぐれも慎重にな」

「分かりました。

 まずは魔法の確認から当たってみます。

 そうですねー、河村くんをアサインしようと思いますがよろしいですか?」

「そうだな。確かに彼女なら適任だろう。それで進めてくれ」

「了解しました」


「しかし、魔法かー。確かに夢があるなー。

 わたしも若ければなー」

「課長。こう言ってはアレですが、課長でさえ魔法にあこがれるわけですから」

「そうだな。誰でも一度くらい『魔法が使えたらなー』とか夢見るものだしな」

「わたしもそういった夢を見ていました」


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