第91話 Dランク冒険者15、秋ヶ瀬ウォリアーズ8


 明日は秋ヶ瀬ウォリアーズとの約束があるから大儲けはできないけれど実に順調だ。

 Sランクの壁である10億までは見た目の金額からすればまだまだだが、あと20回も10階層に潜ればなんとかなるレベルだ。


 10階層は宝の山だ。

 昔の人が豊漁や豊作なんかで神さまに感謝した気持ちが実によく分かる。

 残念ながらうちには神棚はないが、俺の部屋に小さな神棚を備えておくのもいいかも?

 ネットで売ってれば買うんだがどうだろう?


 今日もホクホクでうちに帰った俺は普段着に着替えてタマちゃんと後片付けをしたあと、スマホで神棚を売ってないか調べてみた。

 今の時代なんでも売っているようで、やっぱりちゃんと売ってた。

 それはいいのだが、少し調べたところ、いろいろやってはいけない事というかやらなければいけないことがあった。

 これは俺には無理そうなので買うことは断念した。

 その代り正月にはちゃんと初詣に行ってお賽銭をあげるとしよう。

 


 そして翌日。

 秋ヶ瀬ウォリアーズとの約束の日だ。

 待ち合わせはいつも通りセンター1階の改札前に9時。

 時間に余裕があるのでうちで朝食を食べてからセンターに出向いた。

 そう言えば、今日は秋ヶ瀬ウォリアーズの面々が俺に昼食を作ってくれると言ってた。

 まさか3人が3人ともそろって忘れることはないと思うが、それを期待して空振りしたら恥ずかしいので売店でいつも通りおむすびセットと緑茶のペットボトルを買っておいた。


 そのあと武器預かり所で武器を受け取り装備した。

 ヘルメットはリュックに入れたままで、手袋は脇に挟んでいる。

 約束の9時の10分前に改札前に到着したら、いつも通り3人が揃っていた。


「おはよう」

「「おはよう」」


「じゃあ入ろうか」


 渦を抜けた先でいつものように後続の邪魔にならないよう横にズレて、今日の作戦会議を始めた。

俺は聞いているだけだ。

「今日は真面目にモンスター狩しない?」

「いつも真面目だよ」

「うん」

「それはそうなんだけど、気持ちの問題で、今日はやるぞーって意気込みを持っていかない?」

 おっと!

 ここでも気持ちの問題が出てきたぞ。

 気の持ちようだけで世界は変わる。

 鶴田たちただものじゃないな。


「分かった。

 今日はやるぞー!」

「やるぞー!」

 なんだかちょっと違うような気もしないではないが、問題ないだろう。

 俺にはディテクター×2という強い味方があるから、斉藤さんたちの意気込みが無駄にはならないはずだ。


 さっそくディテクター×2を発動してやるか。


 ディテクター×2


 あれ?

 ディテクター×2の利きが悪くないか?

 探知範囲は2倍になっているけど、感度が悪い。

 ディテクター×3を試した時のようだ。

 なぜ?


 今までのディテクター×2と今日のディテクター×2のどこが違う?

 まず、秋ヶ瀬ウォリアーズの3人が目の前にいることが違うと言えば違うのだが、彼女たちがディテクターに影響するとはとても考えられない。


 後は何だ?

 何が違っている。

 分からない。

 取りあえずディテクター×1で様子を見るか。

 ディテクター!


 ちゃんと範囲はディテクターで、感度も今まで通り。

 残念ながらモンスターらしい反応はなかった。

 

 仕方ない。いつもの徘徊モードだ。

 俺は3人を引き連れて10分ほど歩いていたらディテクターで反応を捉えた。


 その方向に歩いていき、茂みの中で最初のバトル。

 もちろんバトルは俺は手出しせず3人が受け持った。

 バトルのお相手は俺にとって運のいいことにスライムだった。

 スライムの場合は潰れてしまえば液体になってしまうためそれ以上滅多打ちできないという特性がある。

 3人の気合の入ったエイ、ヤーであっという間にスライムは退治されてしまった。


 あれ? ここって妖精女王フェアを見つけたところじゃないか?

 確証は全くないけどそんな気がしてしまった。


 あっ!

 ディテクター×2がうまくいっていた時にはフィオナがいたけど、うまくいかない今日はフィオナがいない。

 フィオナが俺の魔術をブーストしていた可能性は大いにある。

 さらに言えばディテクター×2はフィオナが4枚羽になった後だ。

 フィオナのおかげという可能性がますます高まった。

 来週になるけど要検証だ。


 その次のアタリはカナブンだった。

 カナブンが潰れてしまうと体液というか、グチュグチュと汁が出て嫌なんだよなー。

 俺の気持ちを当然気付いていない3人がカナブンに対して攻撃を始めた。


「ストップ!」

 各人が数回攻撃したところで斉藤さんからストップの指示が出た。

「カナブンもう死んでる」

 おー。戦闘中の斉藤さんから初めてマトモな言葉が飛び出した。


 俺は久しぶりにナイフを取り出してカナブンの胸を割いて核を取り出し、渡されたウェットティッシュで手袋と核を拭いて核は斉藤さんに渡した。


 それから後のバトルでも斉藤さんだけでなく残りの2人からもバトルめったうち途中でストップがかかるようになった。

 彼女たちもとうとう一皮むけたようだ。

 核の回収担当としては喜ばしい限りである。


 午前中の成果は18個。

 彼女たちのお気持ちで成果が増えたのかもしれない。

 主観の世界の変化が、客観的世界に影響を与えた。ということではないか?

 ここにもまた、哲学的な何かを感じる。


 池から近かったので、池の縁の草木を払ってそこにレジャーシートを敷き昼食となった。

「長谷川くん、わたしが作ってきたお弁当」

「わたしもお弁当。

 作ったのはお母さんだから安心して食べていいよ」

「わたしはサンドイッチを作ってきた」


 お弁当ふたつはそれほど大きくはなかったし、サンドイッチの包みもそれほど大きくはなかったので、これなら全部食べられそうだ。

 念のために売店で買っておいた俺の分のおむすびパックはうちに帰ってからタマちゃんに食べさせればいいや。


 食べる順番で何か言われそうだったので、3つを並べて少しずつ順番に食べることにした。

 何を食べてもたいていのものをおいしく感じてしまう舌を持っている俺だ。

 3人が見つめる中、斉藤さんが用意してくれていた割りばしで斉藤さんが作ったお弁当をつまみ、日高さんの用意してくれた割りばしで日高さんのお母さんが作ったお弁当をつまみ、素手で中川さんの作ったサンドイッチを食べた。

 予想通り、どれも確かにおいしかった。

 そして、完食した。

「ごちそうさま」


「長谷川くん、それで誰のが一番おいしかった?」

「そうだなー。

 優劣をつけるとすると」

「つけるとすると?」

「うーん。

 優劣はつけられないな。

 どれもおいしく頂きました!」

「長谷川くんだから、そう言うと思った」

「いや、3人に配慮してというわけではなく、ホントの感想だからそこは誤解しないでくれ」

「そうなんだ。ならよかった」

「お母さんに報告しないといけなかったからよかった」

「うん。さすが長谷川くん。

 わたしたちの問いに対する完璧な回答だった」


 それからしばらく雑談したあと、後片付けをして午後からのお仕事に取り掛かった。


 午後からも快調だった。

 これまで、彼女たちがモンスターに対して何回くらい攻撃したらたおせたのか分からなかったんだけど、ホントに数回でたおしているような気がする。

 彼女たちの身体能力もわずかなのだろうが上がっている気がする。


 やはり、ダンジョンさまさまだ。


 今日1日を通して35個の核を手に入れた。

 総買い取り額は16万8千円で、4人で割って4万2千円。

 俺からすれば確かに大した金額ではないが、結構な金額になった。


 俺の累計買い取り額はこれで、2億9173万1700円+4万2千円=2億9177万3700円になった。


 この日も3人とハンバーガーショップに行き、ハンバーガーセットを食べながらおしゃべりをして、次の一緒に潜る予定を11月の最終日曜日、いつもの時間と場所として解散した。


 俺ってやっぱりリア充のような気もしてきた。

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