第90話 体育祭2。Dランク冒険者14


 騎馬戦は1回戦で敗退したが、1組は全般的に健闘していて最終種目、俺の出場する3学年合同リレーを前にして総合2位だった。


 3学年合同リレーは1組から8組まである各組の1年生から3年生まで、ひとつの組で2名の選手、3学年で6名の選手がチームとなる。

 今回俺は1組のスタートとなった。

 こういうのは目立ってしまうから困るけど、逆に開き直って全力出してやるか。

 例の4人組のモブのうち2人ほど、1組ではなく2組か3組の場所に立っていた。


「位置について。

 よーい」

 バン!

 スタートラインに立った俺を含めた8人が一斉にスタートを切った。


 1組の俺は一番内側からのスタートだった。

 3歩目には体一つ分前に出て、そこからグングン2位以下との差を広げていった。

 

 結局200メートルを一周して第2走者にバトンを渡した時には2位はスタート位置の反対側のトラックを走っていた。

 なんだか運動会会場が静かなんだが、気のせいではなさそうだ。


 リレーは進みすぐに2年生走者となった。

 もちろん1組は俺の作った大差のおかげで断然1位を独走中。

 その中で、例の4人組の2人はどちらも第3走者だったようで、バトンを受け取って走り出した。

 その走りっぷりは、一般人と言ってもなんら違和感のない普通の走りだった。

 1階層で半年。学校の休み全て潜っていたとしても高が知れている。そんなもんだよな。



 結局俺の作った大差を1組が守り抜き1組は1位となった。


 最後の種目での加点のおかげで、1組は優勝してしまった。

 これで、鶴田も浮かばれるだろう。

 まだピンピンしてるけど。


 体育祭が終了し、後片付けも滞りなく終了した。

 今日の体育祭で吹っ切れた。

 今後体育で手抜きはしない。



 教室に帰って着替え終わり帰宅しようと思っていたところに、俺の活躍のおかげか、鶴田たちの他にも冒険者になりたいという連中が数人俺のところにやってきた。

 具体的には和田、田中、佐藤、高橋の4人だ。

 和田たちは具体的な手続きや、試験のことが知りたいということだったので、大先輩の俺は彼らに懇切丁寧に教えてやった。


「この冬休み、挑戦するぞ!」

「ちょっと10万はきついが、受験勉強に体力は必要だ。

 なんとか親を説得してみる」

「俺もだ!」


 冒険者が増えていくことはわが国にとって有益だ。

 頑張れ若人たちよ。


「ところで、長谷川。お前Aランクなんだよな?」

「いや」

「Bランクということは1千万儲けて初めてなれるって話じゃなかったか?」

「その通りだ」

「ということは、長谷川、お前、1千万稼いだってことか?」

「稼いだな」

「たしかにAランクであれだけの走りができちゃおかしいものな」

「ある意味納得だ」

 勝手に納得してくれて俺も説明が省けるし、事態が複雑化せずに済んで何より。

 俺は何も嘘はいていないしな。


「しかし1千万かー。……」

 大方の関心は、冒険者になって運動能力が爆上がりすることより、クラスメートのこの言葉の方に移っているような感じだ。

 仕事の片面は経済活動であることは真実だ。

 人は理念だけでは生きていけない以上、金に目がくらむ。それもまたよし。



 そういった話で盛り上がったあと、俺は学校を後に帰宅した。

 珍しくというか、その日初めて途中駅まで数人のクラスの連中と一緒だった。


 実際冒険者になればダンジョン管理庁のホームページも見ることもあるだろうし、サイタマダンジョンで俺と出会うこともあるだろう。

 そこで俺の銀色のネックストラップを目にしたら、びっくりするだろーなー。



 今週の土日の予定だが、明日の土曜、学校は休日なので朝早くからダンジョンに出勤する。

 日曜日は秋ヶ瀬ウォリアーズの3人と約束なので1階層だ。




 そして体育祭翌日の土曜日。


 今日学校は休日なので7時に家を出てダンジョンセンター脇に転移した。

 いつも通り食料、飲み物をセンターの売店で購入したあと装備を整えて、渦をくぐった。

 そこから朝食用のサンドイッチを食べながら歩き、階段小屋に着く前には調理パンも食べ終えていた。


 階段小屋から30分弱で10階層にたどり着きさっそくディテクター×2を発動した。

 いるいる。

 アタリがそこらにいた。

 後はアタリを順に潰していくだけだ。


 アタリに向かって10階層を駆けまわっていて思いついたのだが、ディテクターで掴んだアタリに対して転移できれば無駄がない。

 試さない手はない。

 転移に成功すれば転移先で必ず戦闘が始まるので、クロを背中の鞘から引き抜いてからアタリに向かって転移を試みた。


 転移!


 あれれっ?

 転移できなかった。


 記憶している場所ないし見えてる場所しか転移できないか。

 確かに転移先を全くイメージできなかったしな。

 それでも見えているところに転移できるなら、視界に入る範囲で転移を繰り返していけば駆け回るよりよほど速そうだ。


 それで試してみたところ悪くはないのだが、たまに途中の分岐を見逃してしまい逆に手間取ることが何度かあった。

 それでもモンスターを目にしてからの転移は有効で、俺がモンスターの真ん中に現れたとたんモンスターの動きが止まり、後は刈り放題となった。

 10階層のモンスターの動きが止まろうがそのままであろうがほとんど差はないので、今までだって狩り放題だったから、実際のところ気分の問題。

 すなわち気の持ちようの差だけかもしれない。


 それで午前中の成果だが、245個の核。

 今日は母さんにもらった買い物用の布製手提げ袋を持ってきているので手に入れた核は、いったんレジ袋に入れて、レジ袋が一杯になったらリュックの中に入れているその袋の中に移している。

 確か前回午前中に手に入れた核は225個だったはずだから、収益が伸びてきている。

 転移が利いてたみたいだ。

 よきかな


 いつものように昼食を坑道の壁際で食べ、しばらく休んでから午後のお仕事に取り掛かった。

 結局、上がり予定の4時には午後からだけで227個の核を手に入れていた。

 クマの核も含めて午前午後合計472個。

 ウハウハが止まらない。


 急いで1階層まで撤収し、階段小屋から駆け足で渦まで戻ってセンターの改札を抜け、買い取り所の空いた個室に飛び込んだ。


「これはまた」

 俺は買い物用の手提げ袋にいっぱいになった核をトレイの上に移していった。

 その核を係のおじさんがどんどん機械の中に入れていく。

 トレイに空きができたら手提げ袋から核を継ぎ足していく。


 今日の買い取り総額は4790万8千円だった。

 そして、累計買い取り額は2億4382万3700円+4790万8千円=2億9173万1700円になった。



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