第六章 アリシアと北の大地~北部・孤児院訪問 編

第1話 アリシア、女の子の天使ちゃん採用計画を提案する

 ソフィーさん一行の救出作戦が無事終わり、わたしたちがガーランド領に戻ってから数日が経過していた。


「なるほどー。孤児院との提携の話ですかー」


 ソフィーさんが王都から連れてきていた謎の人物(おっさん)は、もちろん天使ちゃん候補ではなかった。王都で孤児院を経営するオーナーさんだったらしい。ちょっと老けてるし、天使ちゃん候補じゃないなとは思ってたんだよねー。


「大規模な雇い入れを行うには、個人でスカウトしているだけでは間に合いそうもないのよ」


 ソフィーさんの話によると、昔の馴染みの伝手を頼り、王都とその周辺の地域にある孤児院とのパイプをつないでもらったのだとか。各孤児院から、仮成人になった人たちを定期的に働き手として斡旋してもらう契約を結ぼうとしているらしい。


「それって、ちゃんと面接をしたうえで雇うかどうか決める段取りは今まで通りですよね?」


 やみくもに人数を増やせば良いわけじゃないですからね。ちゃんとお店のカラーにあっていて、清く正しく美しく働ける天使ちゃん候補を求めているわけでして。


「それはもちろんそのつもりよ。だから孤児院側の視察を受け入れて、うちの店がどんな人材を求めているのか確認してもらっているのよ」


「あー、孤児院側でも事前に選抜してくれるってわけですね?」


 ついでにうちの店で働けるような人材に育つように、事前教育も施してくれるとさらにうれしいな♪ 便宜を図ってもらえるようにちゃんと接待しなきゃ! 色仕掛けも辞さない構え!


「ええ、お互いにメリットのある話だから、先方も乗り気で助かるわ」


「規模は大きくしてもお店の質は落としたくないですからね」


「でもねえ。1つ問題があって……」


 急にソフィーさんの表情が曇る。


「なんです? お金ですか? 契約金の交渉で揉めてるとか?」


「お金ではなくてね……何人かのオーナーと話をしたのだけれど、みんな同じことをおっしゃるのよ……」


「ふむ? 何を言われたんですか?」


「男の子だけではなくて、女の子の採用も検討してほしいって」


 あー。はいはいはいはいはいはい。それはそう、よね。それはそう。まともな経営者ならそう思うのは当然だと思いますよー。


「そうですよねー。女の子はとくに変な金持ち貴族に買われて、あんなことやこんなことをされたりって話も聞きますし、そういう心配をするくらいなら、手に職をつけて働かせてあげたいというオーナーさんの親心ってやつですか? いやー、ちゃんとしたオーナーさんたちで安心しますねー」


「でもうちは代々男の子だけを採用してきているから!」


「代々? それって……いつからです?」


「……私が初代よ!」


 はーい、知ってましたー。


「ここらへんで新たな伝統作りにかじを切ると言いますか、グローバル展開というかー、ジェンダーフリーというかー、要するにもっと広い心で採用の間口を広げていくのはどうですか?」


「でも……」


「わたし、女の子1人だけでさみしいなー。ロイスが来てくれないと、わたしいっつも浮いちゃってて仲間がほしいなー」


「アリシアが浮いているのは暴力的だからでしょ」


「ま! なんてこと言うんですか! 箸より重いものなんて持ったことがない箱入り娘に対して失礼な!」


 ぶっ飛ばしますわよ?


「どうしようかしらね……。女の子の扱いなんて自信ないわ」


 ふむ。女の子を採用するのが絶対に嫌ってわけじゃなさそう? 扱い方がわからないだけならなんとか――。


「まずは幹部候補となりそうな人材にターゲットを絞って、少人数から採用してみてはどうですか? その子たちはわたしが責任をもって教育します。それがうまくいったらその子たちに教育させる形で女の子従業員の組織を広げていくと良さそうです」


「そう? それならなんとかなるかしらね……。でも心配だわ~」


「わたしだって働けてるんですから、たぶん何とかなりますよー。それに男女両方の天使ちゃんがそろっているほうが、お客様のニーズにもこたえやすいかもしれませんよ?」


 今はお越しいただけていない貴族様にも振り向いていただけるチャンスかも。


「たしかにそれもそうね……。少し前向きに話を聞いてみようかしら」


「それが良いと思います! でも慎重に、段階的に行きましょう! お店の雰囲気を一気に変えすぎると、今満足されている方が離れてしまう危険性もありますからね。慎重にお客様たちの反応を見ながら進めればきっと平気です」


 ついでにわたしのハーレム計画のためにもぜひ♡ 引き抜くぞー!


「そうね、段階的に。ただ、これから本契約となると、王都周辺にもちょくちょく出向いて採用面接をする必要があるのだけれど、その時はアリシアも一緒に来れるかしら?」


「おお! たしかにこっちに候補の子たちを連れてきて面接するよりも、わたしたちが現地に赴いて合否を出してあげたほうが、移動の手間やリスクが減りますもんね。ぜひ行きましょう!」


「そう言ってもらえると助かるわ!」


「それにわたしの馬車を使えば、わたしたち自身の移動時間も短縮できますし。面接に備えて、もっと速度が出るように改良しておきますね♪」


「あの馬車は……ちょっと驚いたけれど……そうね、あれで移動できるなら王都の良き帰りも楽になって助かるのだけど。……目立ちすぎて、なんらかのトラブルに巻き込まれないようにしたいわ……」


 ソフィーさんがミィちゃんみたいなこと言ってるー。

 

 そういえば王都にはミィちゃんの神殿があるんだっけ。王都の神殿、行ってみたいなー。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る