第27話 アリシア、ギルドに向かう

 ローラーシューズの速度を限界まで上げて、ギルドへの上り坂を急ぐ。

 と思ったけれど、わたしの速度にエリオット、セイヤー、ネーブルの3人がついて来れていないね。みんなのローラーシューズには、わたしの初号機ほどの性能は持たせてないんだったわ……。


「はやくー。急がないとおいてくよー」


 一応声をかけつつ振り返り、速度を落として追いつくのを待ってみる。


「暴君……待ってください……」


 一番後ろを走行しているネーブルが泣きそうな声を上げる。

 さすがに事務の天使ちゃんは体力、いや魔力が足りないなあ。


「しかたないなー。いっちょあっちのほうまでテレポートさせてあげましょうか?」


 わたしは坂の頂上付近で立ち止まって、3人の到着を待った。


「テレポート、ですか?」


「暴君、そんなスキルを取得したんすか⁉」


「いや、物理的に力いっぱい蹴り上げれば、ローラーシューズで滑るよりも速いかなって」


「それはテレポートとは違うっすよ……」


「私はそんなことだろうと思ってたよ……」


 先に追いついて深くため息をつくセイヤーとエリオット。かなり遅れてネーブルが到着する。


「1回やってみない? 意外とうまくいくかも?」


「やめるっすよ……。100m先で体がバラバラになったネーブルさんを見たくないっす」


「バラバラってなんですか⁉」


 まあ、そうか。

 音速に体が耐えられなかったらそういうこともありえるかな。

 でもそれならそれで治癒ポーションの実験にもなる! たぶんバラバラになったくらいなら治ると思うんだよねー。1回試してみたい!


「1回だけ! 1回だけだから!」


 わたしはネーブルににじり寄っていく。


「話は聞いていませんでしたが、けっこうです! 私は先を急ぎますので!」


 ネーブルが慌ててローラーシューズを滑らせて坂を下っていった。

 まあ、みんな目的地一緒なんだけどね。


「暴君、ふざけている場合ではないので先を急ごう」


 なーんか気に食わないなー。

 最近エリオットにちょっと子ども扱いされてる気がするー。



* * *


「ここがギルド? あらくれ者たちが集う冒険者協会?」


「言い方が……ある意味間違ってはいないと思うが」


 エリオットが苦笑する。

 でもあれでしょ? 中に入ると、「おいおい、ここはお嬢ちゃんが来るようなところじゃないぜ。さっさと家に帰ってママのミルクでも飲んでな。ベイビー」ってやつでしょ?

 そしたらわたしがギルドごと破壊して、「ゆ、ゆるしてください、アリシア様! あなたをSランク冒険者に認定します!」ってなる展開だ!

 よーし、先に建物をぶっこわすかー!


「『龍神の館』の方ですね。こちらへどうぞ」


 おっと? わざわざ外まで身なりの良い執事っぽいお姉さんが出迎えにきてくれたよ。なかなか……いや相当美しいエルフのお姉さんだわっ! 腰まで届くほどのさらさらブロンドヘアから飛び出ている耳が……かじりつきたい!


 まあ、あらくれ者が襲ってきたらいつでも建物ごと破壊できるし、美人エルフさんの出迎えに免じてとりあえず中で話をしましょうかね♪



 と、中に入ってみても、あらくれ者たちによる敵意の視線や嘲笑の洗礼などはなかった。ギルド内はきれいに掃除が行き届いているし、昼間から武器を持った男たちが酒盛りをしている様子もない。若い冒険者たちがちゃんと順番を守って受付に並んでいるだけ。なんだ、普通のところじゃないの。

 あたしゃ拍子抜けだよー。


 立ち止まって辺りをキョロキョロ見回していると、エルフのお姉さんが別室へと案内してくれた。


 別室……たぶん応接室に入り、ソファ席に案内される。エルフのお姉さんが自己紹介をしてきた。


「私はエブリンと申します。今回のご依頼の担当をさせていただきます」


 エブリンさんね。担当ってことは執事さんじゃなくてギルド職員さんなんだね? 執事みたいにパリッとした服を着ているから、案内役みたいなお仕事の人かと思っちゃった。

 あれー? でも前世の知識によると、ギルド職員って、なんていうか……お色気担当みたいな感じじゃなかったっけ? 色気で冒険者にちょっと無理めな依頼を受けさせて自分の成績を上げていくような。そしてちょっとドジっ子! いつの間にか始まる冒険者との恋!


 エブリンさんが、テーブルの上に大きな地図を広げていく。

 前かがみになったおかげで、エブリンさんの細くて長い金糸のような髪の毛が、豊かな胸へと流れ落ちていく。

 ……なんと、バストは92cmのGカップ! こ、これはお色気担当の線が濃厚か⁉ でもその執事服はイクナイ。そんなに締め付けると型崩れの心配が! 胸元ゆるゆるのメイド服にしておこう? ちょっと創り変えて良い?


「それでは順を追って説明させていただきます」


 あれ、普通に説明が始まった?

 うっかり地図を破いたり、お茶をこぼして、てへぺろ展開にならない。

 もしかして、普通に有能な職員さんなのかな?


 あ、ああ?『構造把握』してみたら、エブリンさんってば、Aランク冒険者なのね。ギルド職員って冒険者が兼任してるんだ? レベルも120かあ。ステータスはわたしには及ばないものの、わりとガチめに強そう。攻撃特化型だ。『剣聖Lv10』? スキルがガチの冒険者っぽい。


 担当ってことは案内をしてくれるだけじゃなくて、救援要請を受けてくれるってことになるのかな。Aランク冒険者がいれば安心かなー。

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