第26話 アリシア、解体ショーの話をする

「しかし暇だねー」


 エリオットとセイヤーの練習を眺めながら、今日何度目かのため息をついていた。


「暇じゃないっすよ。お店も相変わらず大繁盛じゃないっすか」


 なんかこの会話、デジャヴね。


「ソフィーさんたちが出かけてから何日経ったっけ?」


「……そろそろ1カ月っすね」


 セイヤーが指を折りながら数えている。


「もうそんなに経つんだね。予定通りならもう帰ってきてもいい頃かな。だけどしばらく定期連絡きてないよね……」


 王都から帰路につくという手紙を最後に、ソフィーさんたちからの定期連絡が途絶えていた。

 まあ、連動型アイテム収納ボックスを通じて、食料がいつも通り消費されていることを確認しているし、安全面の心配はしていないんだけどね。


「わりとうまく行っていそうな連絡ばかりだったからな。予定を早めて店に戻るという話だったと記憶しているが……」


 エリオットがローラーシューズの紐をほどきながら会話に参加してくる。


「でも帰り道も寄り道してスカウトしていくって話だったはずっすから、結局帰りは予定通りなんじゃないっすかね?」


「順調ならいいんだけど、そろそろカジノの営業も開始したいし、軍人さんたちも開放してあげないといけないし」


 ガーランド伯爵は何も言ってこないけれど、やっぱり長く臨時で働かせ続けるのは良くないと思うのよね。軍人さんたちもけっこう馴染んでいるし、誰も文句1つ言わないけれど、命令でしかたなく働いてくれている人も少なくないだろうから。


「解体ショーが見たいってVIPのお客さんもけっこういるっすからね」


 解体ショーもソフィーさんがいないとできないよねー。

 やっぱりああいう伝統芸能的なパフォーマンスは、後継者を育てておかないといけないわね。

 筋肉があって、刀を回しながら踊れる器用さがあって……エリオット?


「暴君、私になにか?」


 わたしの視線に気づいたのか、エリオットが声をかけてきた。


「んー、解体ショーでソフィーさんの後継者って誰がいいかなーって考えてた」


「ああ、そういうことか。オーナーの見事な刀捌きには憧れを感じてはいるよ」


 エリオットがソフィーさんの踊りをマネするようにその場で飛び回る。おやおや、どうやら解体ショーに興味があるみたいね?


「解体ショーやってみたい? もしかして、ソフィーさんに憧れて筋肉を鍛えていたりするの?」


「いいえ、そういうわけではなく……。魔族として周りの期待を裏切らないように……」


 ああ、魔族って「筋肉ムキムキで強い!」みたいなイメージあるもんね。意外とそういうのを気にするタイプなのね。ちょっとおもしろいじゃないの。


「興味あるならやってみたらいいじゃないの。解体ショー」


「ですが、ローラーシューズショーもあるから……」


 歯切れが悪く、尻すぼみになっていく。


「どっちもやればいいでしょ! エリオットは体力自慢じゃないの?」


 アリシアちゃん特製のプロテインも飲んでるんだから、ダブルヘッダーくらい難なくこなして見せてよねー。


「エリオットがやるなら自分も一緒にやるっすかね。ついでにエデンにもやらせるっす」


「おお、いいじゃない。チームドラゴンで解体ショーも乗っ取っちゃえ♪」


 ローラーシューズショーも解体ショーも、どっちも踊りを取り入れたパフォーマンスだし、チームドラゴンがそういうのを専門にしていくのは悪くないアイディアだね!


「セイヤーがそういうならチャレンジしてみるのも悪くないか……」


 エリオットがつぶやくように言った。

 こういう時、セイヤーはイケイケなのに、エリオットはわりと慎重派なのよねー。チームとしてのバランスは良いと思うけれど、エリオットはもっと思い切って乗っても良いと思うよ?


「はい、じゃあ決まりね。ソフィーさんが帰ってきたら交渉しましょう。ソフィーさんがお店にいる時はサブ的に後ろで踊って、ソフィーさんが留守の時にメインの演舞を代わるっていう提案なら、ダメとは言わないと思うけどね」


 ソフィーさん、早く帰ってこないかなー。


 と、その時だった。


「た、大変です!」


 ベテランの天使ちゃんがホールに滑り込んできた。

 ソフィーさんがいない時は店長代理を務める人材。優秀で冷静なネーブルさん。


「ネーブル、どうしましたか? そんなに慌てちゃってー」


「暴君! ここにいらっしゃいましたか!」


 ……シリアスな顔しているし、きつめにツッコむのはやめておこう。


「はい、かわいいかわいいアリシアちゃんはここにいましたよ」


「先ほどギルドから伝令の方がいらっしゃいまして……オーナーたちから救援要請があったと」


「救援要請?」


 なんの? 天使ちゃん候補が多すぎて運べないから大きな馬車を用意してとか?


「詳しくは何も……。どうやら雪山で行方不明になったらしいと……」


「え、なに? 行方不明⁉ ガチの救援要請なの⁉」


「行方不明っすか⁉」


「状況を詳しく!」


 セイヤーとエリオットがネーブルの襟元をつかんで激しく揺する。ああ、もうブルンブルンしちゃってるからー。


「ちょ、ちょっと待ってください! 私も詳しいことは何も聞かされていなくて! ギルドに行って確認をしないといけないと、いそいで暴君に知らせに来た次第で!」


 ほら、とりあえずネーブルを放してあげて。


「報告ありがとうございます。でもアイテム収納ボックスの中の食料は一定量消費されているから、行方不明といっても無事ではあるはずよ。みんな一旦落ち着きましょう」


 それにしても雪山ってどういうこと?

 こんなに暑い季節だし……ソフィーさんのスカウト計画にそんな場所あったっけな。


「騒ぎ立てても良いことはないので、まずはここにいる4人でギルドに向かいましょう。できるだけ正確な情報を集めて、話はそれからです」


 ソフィーさんたちにいったい何があったんだろう。

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