第25話 アリシア、メンヘラパワハラ上司になる

 VIPルームに空きがあるという愚痴をこぼしたところ、なんと急きょマーちゃんがお店に駆けつけてくれた!

 わたしの女神様はフッ軽でとってもやさしいのだ♡


「我も流れ星になって飛びたいぞよ」


「ねー! だよねー! 流れ星になりたいよねー!」


 ほーら、聞いた? マーちゃんもこのローラーシューズ☆が気に入ったってさ!

 おかしいのはエリオットとセイヤーのほうだってばー。


「そんなドヤ顔で見てきてもダメっすよ。ようやく慣れてきたっすけど、あの高さで飛びながら回転するのはかなり怖いっすよ……」


「セイヤーの言う通りだな……。私も常に恐怖と戦っている……」


 2人ともビビりなんだね。もういい加減慣れようよー。連日お客様たちに大ウケじゃないのよー。


「『スターライトイリュージョンショー☆』最高なのになー。むしろロイスのほうが飛べてるのはちょっと考えものよ?」


 今日はロイスは来ていないけどね。はっきり言ってキミたち、土日はルーキーに主役の座を奪われてますよ?


「ロイス嬢は『舞踊』スキル持ちっすからね……」


「じゃあセイヤーの足からは火が出るようにしてあげようか?」


「『火入れ』スキルはそういうふうには使えないっすよ……」


「注文が多いなー。そんな細かいことばっかり言ってるとモテないよ?」


「自分、もう間に合ってるっす。これ以上はモテなくていいっす」


 セイヤーがしれっと言い放った。

 なんだこの生意気なヤツは! わたしの指導を体に刻み込む火入れでもしてやるか? おおん?


「セイヤー。それくらいにしておかないと、暴君の顔……」


「なんすかエリオット……うわっ! ごめんなさいっす……自分が悪かったっす。わ~モテたいな~! アリシアちゃんにモテたいな~」


 取ってつけたようなゴマすりだ。

 そんなんでわたしが喜ぶと思ってるのかしら? ミィちゃんじゃあるまいし、わたしはお世辞に心が揺れたりはしないんだからね!


「我は常にアーちゃんの味方じゃからの」


 マーちゃんはいっつもわたしを甘えさせてくれるから大好き♡

 もっとお酒飲んでね♡


 酒樽を取り出して、マーちゃんの席の横に設置する。


「これは何という酒なのじゃ?」


「これはねー。とうもろこしを使った焼酎だよー」


「ほう。焼酎とな」


 とうもろこしの蒸留酒だよー。

 香りがとっても良いの。飲んでみてねー。


「暴君……セイヤーはそういうつもりで言ったのではなくて。私たちは本当に暴君のことが好きでここにいるんだよ。厳しいレッスンに耐えてステージに立っているのも、暴君幼女に気に入られたい一身でして……」


 エリオットが身振り手振りを使って如何にわたしが素晴らしい人物かをアピールしてくる。言葉を重ねれば重ねるほどうそくさー。


「そ、そうっすよ! アリシアちゃんに比べたら世の中の女の子なんてカボチャっすね。カボチャ!」


 カボチャねー。


「ふ、ふーん? そんなに2人ともわたしのことが好きなんだ?」


「好きっす!」


「好きだ!」


「ふーん? じゃあ愛を誓える?」


「誓えるっす! アリシアちゃん愛してるっす!」


「私は暴君幼女アリシア様を愛しています」


 エリオットもセイヤーも胸に手を当てて宣誓している。

 演技もここまで続けられるとちょっとまいったねー。やれやれだぜー。まあ、わたしの魅力も罪よね? ここまで好かれちゃうと公私混同しちゃいそう♡


「我もアーちゃんを愛しているぞよ。とうもろこしの酒もうまいの」


 マーちゃんは焼酎が並々と注がれたコップを片手に宣誓していた。女神様の宣誓って何に誓うものなの? もしかして自分に?


「アリシア……それはパワハラって言うのよ……」


 突然、後ろから冷たい声が浴びせられた。

 わたしはあわてて振り返る。


「ろ、ロイス⁉ いつからそこに⁉」


 今日はお休みの日のはずなのになぜ⁉ 


「わりとずっと前から見てたわよ……。あなた、絵に描いたように嫌な上司ね……。2人も苦労してるわ……」


 えっと、これはそういうのじゃなくて……2人が純粋にわたしのことを好きなだけで! 仕方ないから将来わたしのハーレムに入れてあげよっかなーって思ってただけで。


「いいえ、大丈夫だ。これも大切な仕事のうちだからね」


「ソフィーさんで慣れてるっすよ~」


 なん、だと……。わたしってソフィーさんと同じ扱いなの……。

 軽く……だいぶショック……。世界の殻を破らねば……世界を革命する力を……。


「ホントはわたしのことなんて好きじゃないんだ……。かわいいって言ったのはウソだったんだ……」


 もう誰も信じられない……。

 こんな世界、滅ぼしてやろうかしら……。

 密かに設計中の超電磁砲<レールガン>でこの世のすべてを焼き尽くすか……。


「それが汝の望みか?」


「っていうのは冗談っすよ~。やだなー。ロイス嬢とジョークを言ってただけっすよ。アリシアちゃん好き好き~!」


「それもどうせ営業トークなんだ……。わたし、もうだまされたりしないもん……」


「セイヤーは何人もの女の子と遊んでいるからな。その点私は女遊びはしないから、暴君幼女一筋と言えるだろうな」


「あ、エリオット汚いっす! 自分だってただのカボチャ遊びっすからね!」


「2人とも最低ね……」


 なぜかロイスが虫を見るような目で2人を……。わたしのかわいい天使ちゃんたちをそんな目で見ないで! エリオットもセイヤーもロイスも将来わたしのハーレムに入って仲良くするのよ!


 2人がそんなにわたしのことが好きなら……やっぱり世界を滅ぼすのはやめておこうかな♪


「なんじゃ、滅ぼさんのか。……うむ、酒がうまいの」


 えへ♡ 魅力がありすぎるわたしって罪な女♡

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