第166話 土地購入


 騎士さんとお話した後。

 俺達は昨日と同じようにディエルの港街をぶらぶらしていた。今日の予定は商業ギルドに行って空いてる土地がないか調べる事。


 最悪多少大通りから外れてても構わない。それでも空いてなかったら、いくつか商会を潰して無理やり土地を空ける事になるだろう。久々に悪役チックな事をするかもしれん。地上げ屋だな。……ちょっと違うか。


 「おっちゃん、それ三つちょうだい」


 「はいよ」


 途中屋台で焼いてる魚の串焼きを買って、三人仲良く歩く。昨日騒ぎを起こしたけど、住民が特に変な目で見てきたりする事はない。普通に知らないだけかもしれないが、とりあえず普通に歩けてる。


 「これ美味っ。前世で食べたなんかの魚に似てるな。何かは分からんが」


 「海が近い事があって美味しいわね。川魚とは少し違った美味しさがあるわ」


 やっぱりここに拠点は必要だよ。いつでも海の魚を食べれるようにしなきゃ。


 「あ!!」


 刺身も食いてぇなぁって思いながら、ぶらぶらしつつ商業ギルドに向かってると、とうとう俺が探していた目的のモノを見つけた。


 それなりに大きい食料専門の商会にひっそりと置いてあって影が薄い。その事に非常に残念に思ったけど、それでも見つけれたのは嬉しい。


 「これ下さい。後、それとそれも」


 「ありがとうございます」


 お米。日本人が愛してやまないお米。

 俺はパンとお米両方好きだったけど、異世界に来て食べれないってなると、どうしても欲しくなっちゃってた。ペテスの領主、サムスが聞いた事あるって言ってたから、あるとは思ってたけど、見つかって良かったぜ。


 「出来れば大量に仕入れたいところなんだけどなぁ。人気がないくせに結構高いや」


 「別の大陸から海で運んでこないといけないもの。輸送費込みでどうしても高くなっちゃうのは仕方ないわね」


 「にゃー。ボスが美味しいって言ってたから、どんなのか楽しみにゃ」


 お米といくつか野菜を買って、泊まってる宿に送ってもらうように手配する。


 やっぱり自分の船が必要だな。高いなら自分達で仕入れるか、こっちで作るしかない。でも、それをやるには広大な領地が必要だ。


 自分達で食べる分ぐらいなら秘密基地でも事足りるだろうが、そのうち飲食店経営とかもしたいし。ペテス以外でも傀儡領主は必要だな。何をするにも土地が足りないや。人手も足りないけど。



 「ようこそ商業ギルドへ。本日のご用件は?」


 「空いてる土地があるか知りたくて。出来れば大通りに面した場所が良いんですけど」


 商業ギルドに到着。受付のお姉さんに早速土地の空きを聞いてみる。


 「少々お待ち下さい」


 「あの受付のお姉さん。職業が狂戦士だったんだけど。レベルも結構70あったし」


 「人は見かけによらないのね」


 お姉さんが資料を取りに行ってる間に、コソコソとお話する。ほんわかしてる感じのおっとり系お姉さんみたいな見た目だったのに、びっくりしたぜ。


 「お待たせしました。大通りに面してる場所ですと、貴族街と呼ばれてる場所に近い場所が一つ空いています。しかし、貴族街に近い分、値段が高く敬遠されてますね。それ以外ですと、スラム街に近い場所しか現状は空いていません」


 「なるほど」


 これはびっくらぽん。まさか大通りに面した場所が空いてるとは。値段は高いみたいだけど、そういうの場所って大商会とかが使ってるイメージがあったのにね。


 あ、大商会が多い場所だから新規参入する商会がないのかな。ライバルが多すぎるもんね。それでも野心のある商会なら買ってもおかしくなさそうだけど。


 そこじゃなかったら空いてる場所はスラム付近になる訳だ。なんとも両極端だなと思わなくもないけど、やっぱり大陸最大の港街なだけあって激戦区って事なんだろう。


 「じゃあその大通りのところでお願いします」


 「………良いんですか? かなり高いですけど…」


 お姉さんはびっくりしてこっちを見てる。まあ、確かに高い。この世界に来て一番高い買い物になりそうだ。それにそこはライバルも多いっぽいし、とてもじゃないけど新しく参入して成功すると思わないんだろう。


 『ルルイエ商会』なんて聞いた事ないだろうしね。いや、目敏いところなら知ってるかもしれないが。所詮まだ二つしかお店がない程度の木っ端商会だし、どうだろうね。


 お姉さんは何度も念押ししてきたけど、その場所を一括で購入。一気に懐が寒くなったけど、これは必要経費だ。


 幸い二つの商会とデッカー領のスラム街の営業も順調だし、伯爵さんや、サムスに売り付けている転送箱の利益もある。お金はすぐに稼げるだろう。


 「拠点確保よーし。後はもう少し人材が育ったら、本格的に店を開けるぞ」


 「空いてて良かったわね……あら?」


 商業ギルドから出て、一旦秘密基地に帰るかーと思ってたら、アンジーがある方向を見て笑っている。


 「どうしたの?」


 「見られてるわね。悪意は感じないけど」


 「にゃ? 気付かなかったにゃ」


 アリーナと同じく俺も。さり気なく気配を探ってみたけど、それでも分からないんだが?


 「うふふ。害がないなら放っておきましょうか」


 ええ…。俺とアリーナが気付かないって、相当の手練では? そんな人材がいるなら普通に欲しいんだけど。


 「残念ながらボスが欲しがるような感じではないもの。遠眼鏡でこっちを見てるだけだわ」


 遠眼鏡? ああ、望遠鏡みたいなやつか。この世界にあるんだな。結構高級品っぽいけど、そんなのまで使って誰が俺達の事を見てるんだ? 領主の騎士ぐらいしか心当たりないけど。


 騒ぎを起こしたから要注意人物として、監視されてるのかな? それとも他に裏があったり? まあ、アンジーは害がないって言ってるし、とりあえず放置で良いか。

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