A-8話 ペテス領での日々
レイモンド達が港街ディエルに到着した頃。この世界の主人公であるアーサーは未だにペテス領で冒険者活動をしていた。
「アーサー! まだ腰が引けてるぞ! もう一歩踏み込め!!」
「分かってるよ!!」
サラを探しに行くという目標は変わってないし、自分以外の転生者を見つけ出すという目標も変わってないし、ハーレムという夢も諦めていない。
しかし、アーサーは一人になってようやく少し現実が見え始めた。具体的に行動が変わった訳ではないが、ほんの少しだけ馬鹿な行動を慎むようになり、今まであまり興味なかった、ゲームに登場しないようなモブとの交流もし始めたのだ。
それはやはりダンとカイルの存在が大きいだろう。ゲーム時代に聞いた事もないキャラだったが、アーサーから見れば二人の強さは本物だったのだ。
正式にパーティを組むという事はしていないが、共に行動する機会が増えた。二人にアドバイスしてもらいながら、アーサーは少しずつ成長していく。
「お前、そのへっぴり腰はなんとかなんねぇのか? 今は大丈夫だが、ランクが高い魔物に出会うと、その踏み込めない一歩ってのは致命的だぞ?」
「分かってるんだけどね…」
アーサーはダンにそう言われて少し落ち込む。以前なら主人公だぞと反抗して、まともに話を聞く事すらなかっただろう。しかし、これまでダンとカイルと行動して、本当に自分の為を思って言ってくれている事をアーサーは理解していた。
そしてダンに言われてる事も自分では前々から分かっているのだ。サラにも何度も言われていたが、どうしても後一歩が踏み込めない。
(現代の記憶を持ってる弊害かな。日本に住んでて、命の危機に陥る事なんて滅多にないし。猟師でもなきゃ、こんな簡単に命を奪うって機会がない)
俺はまだビビってるんだろうな。そう思いながら、先程なんとか倒した熊の魔物の解体をする。これもアーサーは未だに慣れない。
流石に解体途中で吐く事は無くなったが、それでも気分は悪くなるし、精神的に疲れる。魔法鞄を持っていたらギルドに持ち込んで解体を依頼する事も出来るが、まだダンジョンにも行けてないので、確保する事は出来ていない。
「うしっ。今日はこの辺で帰るか」
「うん。付き合ってくれてありがとう」
「良いって事よ」
アーサーが素直にお礼を言う。この姿をサラが見たらかなり驚く事だろう。これもアーサーが少し丸くなった証拠である。
(まだ一人で熊に挑むのは不安だ。ダンとカイルは片手間で倒せるのに…。今の俺のレベルってどれくらいなんだろう)
三人で行動するようになって、アーサーの収入は増えた。ダンとカイルに連れられて娼館にも行って、既に大人の階段も登っている。そこそこ遊んでいるのだが、しっかり貯金出来る程度にはアーサーの生活は安定してきていた。
「ほー。近くに大規模農園を作るって噂は本当だったんだな」
「役人とか職人さんがいっぱいいるね」
森からの帰り道。ペテス領の外では職人や役人、その護衛をする騎士達が忙しなく動いていた。
少し前から街で噂になっていた大規模農園の開拓。今まで広大な領地がありながらも、魔物の脅威によって、ほとんど未開拓だったペテス領の大規模事業という事もあって、冒険者達の中でも話題になっていた。
中には冒険者を引退して事業に加わり、本格的に農家になるという冒険者もいると聞く。
(ゲームにこんなのもなかったなぁ。ゲームの時と領主が違うから、考え方も変わるのは仕方ないか。どんどん原作と違う流れになっていって、ストーリー知識が役に立たなくなっていってるよ。まあ、そのストーリー知識もちゃんと覚えてないんだけど…)
ほんとちゃんとやり込んでおけば良かった。アーサー達はそんな事を思いながら作業風景を眺める。
「俺達冒険者にも依頼が来るかもな。まあ、ランクの低い俺達に関係があるか分からんが」
「二人はもったいないよね。そんな強いのに今まで冒険者になってなかったんだから」
「中々師匠から合格が出なくてなぁ。正確には今も合格は出てないんだが」
「途中でやめたって事?」
「ん? まあ、そんな感じだ」
アーサーはこの二人の強さで合格出来ていない事に驚く。その師匠はどんな化け物なんだと。もしかしたら恩恵持ちなのかもと思い、少し紹介して欲しい気持ちになったが、二人は村を飛び出してきたと聞いている。あんまり村に戻りたくないんじゃないかと思い、紹介してもらうのを躊躇しているのだ。
「まあ、俺達の事は良いじゃねぇか。さっさと討伐部位を売却して酒場にでも行こうぜ」
「それもそうだね」
ダンは半ば無理矢理話を変えて、この後の事について話す。アーサーは三人で行動した時はいつも酒場の後に娼館に行く事もあって、それを楽しみにしてるせいもあり、あっさりとその話に乗る。
こうしてアーサーのペテス領での日々は過ぎていく。少しずつ成長していっているアーサーだが、果たしてこの先どうなっていくのか。
それが分かるのはもう少し先の話。
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