第165話 騎士とお話し


 「ほう」


 「へぇ」


 宿に来てたのは二人の騎士。

 俺も一廉の強者になったからか、その佇まいで鑑定しなくてもある程度の強さは分かるようになった。まあ、結局鑑定したんだけど、二人ともレベル150オーバーと中々の強さ。


 久々に『クトゥルフ』以外でレベル150超えを見たような気がする。思わず、騎士に聞こえない程度の感心の声を上げてしまった。


 ペテス領の高ランク冒険者にたまに居たりするんだけどね。この辺にレベリング出来る場所とかあるのかな? 今度調べておこう。


 「すみません。お待たせしました」


 「いえ。こちらこそ急に訪問して申し訳ありません」


 ふむん? もっと居丈高に接してくるかと思ったけど、中々どうして。あんな豚をのさばらしてる領地の騎士だから、面倒なのを覚悟してたんだけど。


 やっぱりアンジーが言うように、ここの領主はそれなりに有能なのかな? 部下を見れば大体その上司が有能か分かるよね。


 まあ、一部例外はあるけど。『クトゥルフ』は部下は有能だと他に自慢出来るけど、ボスはちゃらんぽらんだし。俺がデッカー領で潰した商会も商会長は無能だったけど、周りがそれなりに優秀だった。


 「それでご用件は? ある程度察してはいますが…」


 「はい。お察しの通り、昨日の大通りであった件です。私達も事態を把握したのが、昨晩の事でして。ピグー子爵はこの街に来てからたびたび問題を起こしてるので、またかという感じなのですが…。その後何か問題等ありませんでしたか?」


 「問題…ですか? 特には…。お貴族様に目を付けられてしまったので、ちょっと居心地が悪くなってしまいましたが」


 流石に昨日の今日で問題はない。フットワークが軽い系の貴族ならその日のうちに自分の私兵や、裏社会にコンタクトをとったりして刺客を差し向けて来たりするんだろうけど。


 あの豚にそこまで出来たとは思えん。いや、もしかしたらやってたかもしれないけど、もう殺しちゃったから分からないね。それなりに裏の方にツテもあったっぽいし、ワンチャンあるのかな?


 「もし、また何かありましたらすぐに警備兵にご連絡下さい。こちらですぐに対応させて頂きます」


 「ご親切にありがとうございます」


 そう言って騎士の人は帰っていった。なんか木っ端商人風情の事を気にしすぎじゃないかと思うんだけど。もしかして領地でこういう問題が起こるたびに騎士を派遣してるのかな?


 それはなんと言うか、ちょっと領主として舐められるんじゃないのって思うんだけど。そんなほいほい謝ってたら、貴族のプライド的なサムシングがね? メンツとかそういうのが大事なんでしょ?


 わざと問題を起こさせて、詫びに何かを請求するとかありそうだけど。もしかして何か裏があったり?


 「アンジー、どう思った?」


 「何か探られてる感じがあったわね。多分子爵殺しの件ではないと思うけど」


 「ふむん。この領地に来て後ろ暗い事はそれぐらいしかやってないんだけど、他に何かあったかな?」


 「さあ、それはわからないわ」


 むぅ。まあ、別にいっか。

 今日の予定は変わらん。商業ギルドに行って、空き家の確認。後は商会を回って、この地ならではの商人とかを見て回りたいな。



 ☆★☆★☆★



 「ただいま戻りました」


 「ご苦労様。どうだったかしら?」


 「只者ではないのは間違いないかと」


 「そう。やっぱりそうなのかしらね」


 レイモンド達の宿を訪れていた騎士二人は領主の屋敷に戻って、先ほどの事を報告していた。


 執務室に置いてあるソファに座り、優雅に紅茶を飲んでいる女領主。温和そうな表情をしているが、この国の海運をほとんど牛耳っている敏腕領主である。


 その女領主に促されて騎士二人もソファに座る。控えていたメイドに騎士二人分の紅茶も用意され、二人は感謝しながらも頂く。


 「しかし『狂姫』は帝国との戦争で死んだという噂もありましたが…」


 「そうねぇ。私も報告を受けてびっくりしたわ。だからわざわざ貴方達を向かわせたんだもの」


 レイモンドが不思議がってたように、あの程度の騒ぎで騎士二人が出向く事など滅多にない。ディエルの領主は街に入る時の身分証チェックで、傭兵ギルドのギルド証の名前と傭兵団の名前を見て、もしかしたらと思い、騎士団の中でも精鋭を派遣しただけなのだ。


 『レーヴァン』『アンジェリカ』


 この二つの名前は傭兵界ではそれなりに有名である。フレリア王国では知られてなかったみたいだが、パラエルナ王国の属国的な立ち位置にある小国家群の一つが、戦争をした時にレーヴァンが大活躍してるのだ。


 「まさかあの『狂姫』が商人の護衛をやってるなんてねぇ。戦場の噂だけ聞くと信じられないわ」


 「誇張された噂という可能性もありますが、あの佇まいを見ると話半分にしても信じるべきかと。それに『狂姫』と一緒にいたもう一人の獣人の護衛もかなりの手練に見えました」


 「あらまあ。その商人は何者かしらね? ちょっと興味が湧いてきたわ。あの『狂姫』を手懐けてる時点で只者ではないんでしょうけど…」


 「それとなく見張っておきますか?」


 「それはそれで問題がありそうねぇ…。とりあえず今は情報を集めましょうか。あの商人の名前は?」


 「『ルルイエ商会』商会長のレイモンドです」

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