第178話


 中部地方に滞在して早数日。

 ダンジョンの拡張は終わり、ある程度深い地点まで潜っても変化は見られず一度調査は中止になった。


 隣の地域ということで──決して近くはない──不知火くんが応援としてやってきたり、毛利くんから連絡があったりと動きはあった。


 いつもなら僕は現場待機なんだけど、今回は珍しく、そう。非常に珍しいことに、緊急事態であるにも関わらず、関東へと出戻りしていた。


「お待ちしてました」

「初めまして。勇人特別探索者だ。話には聞いてたよ」

「光栄です。私は魔力技術研究部署に所属しています、平岩と申します」

「よろしくね」


 メールでのやりとりはやっていたが顔を合わせるのは初めて。


 魔力技術研究部とはその名の通り魔力技術に関する研究をする部署で、僕が関係を持ったのは今から半年前……つまり、地上に出てきてすぐのことだ。


 と言っても、直接やりとりがあったわけじゃない。

 鬼月くんを通して細胞を研究に利用してもいいかと言われ、その利用先がここだった。


「びっくりしたよ。細胞使わせてくれなんて許可を取りに来るなんてさ」

「倫理的に問題がある事は承知の上でした。ご不快な思いをさせてしまい申し訳ありません」

「いや、全然勝手に使ってよかったのに」


 普通に考えて僕の肉体は貴重な戦力でありサンプルだ。

 解析するのもそうだし、この身体を弄る事で役に立てるなら是非ともやってもらいたい。というか実際にそうやってしていたんだから、何も気にしなくていいのにと思う。


 ただそれと同時に、他人に身体を弄ることに対して忌避感を持った人が研究者をやっているのは非常に喜ばしい事だった。


「覚悟はありがたく受け取らせていただきます。ここで立ち話もなんですし、よろしければ」

「ああ、行こうか」


 彼らは普段迷宮省に居るわけではなく、迷宮省の保有する大きな工場街にて研究を行なっている。

 故に今日、僕も初めて足を踏み入れた。

 年甲斐もなくなんだかワクワクしている。

 昔、まだダンジョンが生まれる前に大企業の保有する工場街を見た事があった。なんの企業だったかは覚えてないけど、かなり大きな規模だった。


 そこからスーツ姿で出てくる社会人に憧れたもんだ。


 僕にとって真っ当に働いて社会を支えてる人は等しく尊敬する人だからね。


 暫く歩いた後、ビルの中に入っていく。


「ここから先は魔力でのIDチェックになります。既に勇人特別探索者は登録済みですので、触れてくれれば問題なく入れます」

「ありがとう。便利だなぁ、魔力……」


 何より魔力によって個人情報の管理が出来るのがいい。

 やっぱりこのシステムすごい便利だよ。

 偽造不可、完全無欠のセキュリティシステムだ。

 弱点があるとすれば、ここから先技術発展することで偽造できる可能性があるってことくらい。でもそんなのは後の話だ。


 今はその利便性をありがたく利用しよう。


「他国から稀に間者も来ますが、まだどこも偽造技術は作れていません。いずれ破られる日は来るでしょうが、それまでは天下の技術でしょうね」

「同感だ。これだけのセキュリティに守られてるんだから、君らの命も重いねぇ」

「慣れました」


 自分達の命が重いことを理解してる。

 教育の行き届いた人材だ。

 ほんと、こんなレベルの人がポンポンいるのとんでもないよ。一体どうやったんだか。


 部屋の中に数個のセキュリティを介した後にようやく踏み入れる。


 中は近未来的な装飾──なんてものは一切なく、昔平成の世で何度も見たよくある事務所だった。

 ただ、それはしきりのこっち側の話。

 透明なガラスで仕切られた部屋は、正しく研究設備が集まったクリーンルームとなっていた。


「あちらの中にございます」

「……見に行っても?」

「そうして欲しいのは山々なんですが、入室の準備をせねばなりませんので少しお待ちを。サンプルを用意してあります」


 そう言って、平岩くんは机の上に置いてあった一つのフラスコを手に取った。


 中身は鮮やかな赤色をした液体。

 粘度は低く、サラサラとしてる。

 飲み物と言われれば納得できるくらいだ。


「おお……」

「こちらが、勇人特別探索者の細胞・魔力回復技術を分析して作った回復薬。わかりやすく言えば『ハイ・ポーション』です」


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【カクヨムコン9受賞】呪われてダンジョンに閉じ込められていた勇者、人気配信者に偶然解放されたついでに無双してしまい大バズりしてしまう 恒例行事 @KOUREIGYOUZI

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