第144話


 それからエリートによる被害も特に起きず、九州地方在籍は満期終了を迎えた。


 どのダンジョンも普段通りの稼働率からブレず、そしてエリート自体も気配を見せず、全国的に平和な日常を過ごしたと言えるくらいだ。


 僕らはその間以前の一級二人と霞ちゃんに香織と澪を加えた六人組でパーティーを組み、戦闘技能や連携の練習を行った。


 やはりと言うべきか、香織と澪の戦闘力はすさまじかった。


 五十年前時点で現一級の仲間入りができるぐらいには強かったのが、モンスター化による影響で根本的な出力上昇した結果不知火くんや鬼月くんと同等のポテンシャルを得た。

 それに加えてあの時代を生き抜いた経験があるんだ。

 そりゃあ爆伸びする。


 今の所不知火くん以外はやれなかった稲妻纏いと身体強化の同時使用も問題なく、それに加えて肉体の修復も出来た。

 やっぱり僕の仲間は凄い。

 僕が出来たんだから出来るとは思ってたけど、息をするようにやるんだから誇らしいよ。


 なぜかその姿を見て霞ちゃんが白目を剥いていたが、あの子もあの子で独力の回復を身に付けてるんだから理不尽の塊ではあるんだけどね。


 そんな霞ちゃんは九州在籍中に探索者試験を受けて、見事三級に合格。


 毎日ダンジョンで手合わせをやりつつ魔力操作も磨き学力もつける、多忙な日々だけどまだまだやり足りないと奮起してるのもいい。

 もっともっとあの子は伸びる。


 そして今日。

 僕らはこの地を立つ。


 来るときも世話になった空港で、周囲に人だかりを集めながら話していた。


「長いようで短かったなぁ」

「予定通りだけど前半に事件が集中してたからね。後半はやる事やれて良かったよ」


 主に霞ちゃんの強化とか。

 香織や澪の案件は急に湧いて来たトラブルみたいなものなので、当初の予定的には完遂したと言っていい。

 トラブル分を含めれば最高の結果じゃないか?

 エリート二体の討伐に、一級最高戦力に比肩する戦力が二人。

 しかも今の所スペック的には不知火くんを超えうる二人が人類側に生えて来たのだから文句なしだ。


「私も良い経験になりました。雨宮三級に追い抜かれないよう精進していきます」

「はは、あんまり思い詰めないようにね。頼光くんにも忠光くんにも恩があるし、君個人にも助けられた。何かあったらすぐ駆けつけるよ」

「頼もしいです」


 瀬名ちゃんもかなり強くなった。

 魔力関連の基礎的な部分は伸ばしようがないが、素の戦闘能力が向上したのが大きい。香織や澪というある意味この時代では味わえない死線を幾度となく潜り抜けた猛者が適度な鍛錬を行えたのが大きい。

 本人は自覚してないが殺す気ではないとはいえ、香織と澪のタッグを相手に普通に一時間近く耐えれるのは異能に近い。


 今ならエリート相手でも問題なく生き残る事が出来るだろう。

 鯨級じゃない限りはね。


「それで九十九ちゃんは残るんだっけか」

「はい! まだ学べる事がありそうなので無茶言いました!」

「無茶を言うのは若者の特権だ。たっぷり享受するといい」

「そうします!」


 おお、毛利くん。

 君が先日送って来たメッセージはそういう事なんだろう?

 僕には止める権利はないんだ。

 一番無茶を言っているのは誰かで考えると僕の発言は矛盾するが、そこら辺のみ込んで受け流してくれるあたり流石だ。

 霞ちゃんだったら微妙な顔をして僕を見るに違いない。


「……? なに?」

「なんでもないよ。九十九ちゃんみたいになれるように頑張ろうね」

「えっ、うん」


 この子は既に己のパワーを制御するのに苦労しなくなっている。


 ていうか、それ若い頃の僕まんまだからね。

 ある程度のコツと感覚は覚えてる。

 それを彼女なりに当てはめてひたすら反復させればそのうちそれが当たり前になっていく。一ヵ月でほぼ完ぺきになったから、半年もすればカタログスペック通りの強さを発揮するようになると思う。


「君ら二人は一級だけど、まだまだ伸び盛りだ。次会う時は僕と肩を並べられるくらい強くなってる事を祈ってるよ」

「い、いやぁ……それは難しいかと……」

「あはは、頑張ります!」


 瀬名ちゃんは引き気味に、九十九ちゃんは苦笑しながら。


 リップサービスでもなんでもないんだけどな。

 極論僕は、役立たずになりたいからね。

 僕以外の皆が優秀で回るのならそれでいい。

 それってつまり、被害が生まれないってことだろ?

 理想論で現実的には難しい事はわかっているけど、それでも願うくらいのことはしていたいのさ。


「土御門さんに遠藤さんも、お元気で」

「こっちは死んでも死なん。そっちこと元気でな」

「一級なんだしまた会えるわよ。死んでも勇人がなんとかするし」

「不謹慎だな、おい」


 笑えない冗談だが皆笑ってるので笑い飛ばしていいジョークだ。


 香織と澪が復活したし紫雨くんも居るってのが大きい。被害者はゼロ人で今回の一件を乗り越えれてるのだから、これくらいの冗談は許されるだろう。

 新鮮なリッチジョークだ。


「死んでもパワーアップして蘇るんだから死に得ね! あんたたち、今の内に一回死んどくと良いわ」

「はは、死ぬときは一瞬だから苦しくないぞ」

「え、私普通に苦しかったけど」

「香織は即死で澪は失血死だからそりゃ違うよ。あの時はごめんね」

「……ま、まあ、何が言いたいかって言うと、死に方一つで気持ち良く復活できるって事だから」


 自然と地雷を踏みつけられて何とも言えない顔をしてしまったが、この話題を引っ張り過ぎるのもよろしくないのでちょうどいい。


 周囲の人間も会話を盗み聞きしてるし今もSNSに投稿してる人が多い中でデリケートな話題をするのもどうかと思ったけど、これが逆に親しみやすくなると力説されたので今回は構わずやっている。


 香織と澪は正式に特別探索者としての資格を与えられ、僕ら三人と霞ちゃんを加えた四人で活動していく事も公表した。


 結構な騒ぎになったけど、やはり現代の人達は五十年前と比べて統制が取れているというか感情を抑えるのが上手いと言うべきか。

 騒ぎにはなったけど問題は起きなかった。

 街中を歩いてたらちょっと人だかりは出来るけど、二十分も拘束されないくらいの時間で皆解散していくくらいだ。


 寧ろ、ようやく探索者としてのファンサービスを出来たことに僕は満足したよ。


「…………そろそろ時間だ。瀬名ちゃんに一つお願いがある」

「え、私ですか?」

「君にしか頼めないんだ」

「わ、私にしか……」


 こういう発言をすれば視聴者は喜ぶし周りは呆れるし香織は何故かダメージを受けるしで諸刃の剣な台詞を言ってから、台無しにする内容を口にする。


「もし頼光くんが老衰で逝きそうになったらちゃんと僕に連絡をくれ」


 僕の予想だと頼光くんは死に掛けても全然連絡してこないし、多分死んでからやっと気が付くとかそういうタイプの人だ。

 死を看取るのは決して楽しい事じゃない。

 でも、同年代のあの光景を共有できる友人が大往生するのを見届けたいという気持ちはハッキリあるからね。

 死んでも死ななそうなくらい若々しいが、あと二十年もすれば彼も寿命で逝く。


 保険だね、保険。


「はは、……畳の上で死ぬと?」

「そうじゃなきゃ困る。君は息子と孫と僕ら同世代と仲間達に囲まれてひっそりと眠るように息を引き取るべきだ」

「ではそうなるように頑張るとするか。全く、こんな老骨に鞭打つなんて……勇人さんは鬼じゃ」

「一部の世代にとっては頼光くんの方が鬼だろうさ」


 どうせこれから何度も顔を合わせるから言うのが早い気もするけど、言っておかないと忘れそうだからちょうどいい。


 そろそろ僕のメンタルもまともだって事をアピールしていかないとね。


 いつまでもメンヘラジジイで居るのは良くない。


 そしてその認識を崩していくためには、自分から動かなきゃ。


「そんな訳だから、瀬名ちゃん頼んだ」

「えっ冗談ではなく……?」


 またもや引き攣った顔をした瀬名ちゃんに笑顔で頷いておいた。


「さて、行こうか」

「あんたね……」

「おまえ……」

「勇人さん……」

「……す、すごいのね。これが勇者」


 同行する女性陣からは白い目で見られているが、僕は自分の話がうまくない事を理解しているのでここはスルーだ。


 なあに、いつかこの会話が良い感じになる時がくるさ。


 それまでは酒の席で肴にでも出来ればいい。

 頼光くんに会うたびそれをネタに出来れば、ね。


「それじゃ、また会おう」

「ええ。また会いましょう。お二人もいずれまた」

「今度は余裕がある時に来るさ。勇人と澪と一緒にな」

「つまんない話しかないけど、まあ、また今度ね」











 あとがき


 九州編の日常とかそんな感じの番外編を挟みます。

 何話になるかは未定ですがそんな長くならないです。

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