第143話
「んで、これ結局どうするの? やる?」
「やらないよ。そのための許可は取ってないし」
あくまで今日は基本能力の確認が本命で模擬戦やら何やらはナシだ。
僕が全力で暴れればこの建物はおろか街全てを飲み込んで破壊することが可能だとダンジョンが証明してしまったから仕方ない。
地上では制限がかかってるんだ。
何ならダンジョンでも制限をかけないとダメだと思う。
むしろダンジョンなら本気出してもいいですよという空気がいまだに抜けてないあたり、迷宮省側の配慮が伺えた。
「魔力の動かし方、後は君らの出力を測るくらいかな」
「魔力量は?」
「僕が提供してるから必要ないよ」
「なるほど。では私からやらせてもらうか」
一歩歩み出た香織が測定機へと足を向ける。
用意して貰った機材は僕が外で使用したアレと一緒だ。
わざわざ石切場まで持ち込んでその場でセットアップするだけで使えるのは便利だけど、本来ならそんなことをする必要は一切ない。二人に供給してる魔力量的にとんでもない事にはならないだろうと思っていたからだ。
「どう使えばいい?」
「えっとね。これ握って魔力を出せばそれでいいよ」
「わかった」
どこか楽しそうな雰囲気でホースのようなものを握り、香織は魔力を手に集中させる。
僕は最大火力を出すのに溜める必要が無いけど、これは一般的じゃない。
普通は火力を上げるには相応の溜めが要る。
これは一級でもそうだし、宝剣くんでもそうだ。
ただし魔力操作の熟練度によっては差異が存在し、上手なら上手なほど溜めの時間は減っていく。
人間の身でそこまで高められるんだ。
ていうかまあ、僕は昔から特に変わってないのでやろうと思えば誰でもこの領域になるんだろう。それこそ『異世界』で魔力に馴染んでる人達なら余裕だと思う。
つまり何が言いたいかというと、モンスターの身で復活した二人はおそらく、卓越した魔力操作精度を誇るという事だ。
「──タイムラグはほぼ無し。やるね」
僕と殆ど差はない。
ビー!! とけたたましい音を上げた計測器は香織の能力がどれだけ優れているのかを示している。
評価シートで言えば魔力出力はA。
確か毛利くんがB+なので彼よりも上。
魔力操作に関してはA+で測定上限値って所だ。
魔力量はA-なので、不知火くんと同じくらい……
「……とんでもないな」
勿論本人の技量はあるが、五十年前と比べて弱体化どころか強くなってる。
元々魔力技術が発達してない時代で、僕らは人間としての機能を高めるしか強くなる手段が無かった。だから身体能力に関しては懸念する事は何もない。あの頃の香織に僕と変わらない魔力操作能力が付いた、か……
そして香織はそんな速度で魔力を操れた事、そして出力の高さ、それら諸々を叩き出した計測器をじっと見たまま動かない。
「かお……」
「勇人、勇人ちょっと」
「なに?」
「……今は少し待ちなさい」
香織に声をかけようとしたが、澪に止められた。
「全く、こういう所の鈍さはダメなままなんだから」
「それは……ごめんよ。正直何がダメなのが全くわからない」
「まあ、あんたが察するのは無理なのはしょうがないから今回はいいけど。ちょっとだけでいいから待ってあげて」
「わかった」
考えてみれば、香織や澪が自由に身体を動かせるようになり、自分の意志で魔力を扱うのは初めてだ。
そりゃこうなるか。
僕だって久しぶりに地上に出て思わず言葉を失ったし、その後の精神が安定しなくなった。それくらいの衝撃は察するべきだったな。
大体三十秒ほどじっと待つと、彼女は手を離してこちらに振り返った。
「いや、すまない。少し……思う事があった」
「大丈夫かい?」
「問題ない。次は澪の番だ」
「よーし、任せてよ」
隣に戻って来た香織に変な様子は見られない。
「失礼を承知で申しますが、羨ましいですなぁ……」
「そう言わないでくれ。これはな、私達の悲願だったんだ」
「ええ、ええ。わかっておりますとも。それは儂にとっても同じ事がゆえ」
寂しそうに笑う頼光くんと、彼とは対照的に嬉しそうに笑う香織。
……僕だけ察せてないのか。
頼光くんでも理解できることってなんだ?
これに関しては僕が鈍いとかじゃないだろ多分。澪もわからなくてしょうがないって言ってたし、ヒントはそこにある気がする。
「当の本人はこんなんだが、だからこそ余計願ったものさ」
「苦労しましたな」
「悪い苦労じゃなかったよ」
僕を置いてけぼりにして交わされる会話に匙を投げ澪に視線を向ければ、彼女もまた、ほぼタイムラグ無しで最大出力を放つことに成功している。
香織よりも多い、A+の値。
鬼月くん並みかそれ以上って事だ。
「ま、こんなもんよね」
割と異次元な数値を出した澪はあっさりした雰囲気で戻って来た。
スケルトン時代に彼女の能力はある程度わかってたから驚きはない。ていうかあの頃の戦闘力が残ってるなら、この娘はかなり僕に近いレベルに居るんだけど……
「んー……それはどうだろ。勇人が相手だから動けてただけだし」
「……ああ、そういう。僕の思考が駄々洩れだったって事か」
「そういう事。だから初見で、例えば例のデュラハンなんかと戦えば苦戦すると思う」
とはいえ、実力は折り紙付きだ。
不知火くんとバチバチにやり合えるってのは嘘じゃない。
二人が十分すぎる程に戦力になる事が確定したから、これで僕らのパーティーは問題なしだ。あと今日の内に考えておきたいことは──うん、これだな。
「霞ちゃん」
「ひゃ!? は、はい、なに?」
なんだか心ここに在らず、といった雰囲気だった霞ちゃんに話しかける。
確認しておきたいことの半分は終わった。
事前に相談してたパーティーの問題は解決できたと言っていい。
後は、彼女がどうしたいかを聞くだけだ。
「これからの事について聞きたいんだけど、いいかな」
「これから……?」
「うん。僕らは三人で組んで、全国を回ろうと思ってる。その中には霞ちゃんも入って欲しいんだけど……」
一度区切る。
あくまで焦らせないように、冷静に彼女が考えられるようにだ。
「君は姉である紫雨くんが見つかっただろ? これ以上ダンジョンに潜って命を賭ける必要は無くなった」
「…………」
「僕らはエリート討伐を目的にしてる。もちろん、霞ちゃんが付いてくるなら鍛える事は約束する。君のポテンシャルには今でも期待してるからね。どうする?」
「着いてく」
即答はちょっと、想定してなかった。
思わず言葉が詰まった。
「邪魔なのはわかってる。でも絶対に着いてく。いずれ役に立って見せるから、どうか私を連れて行ってください」
「最初から見捨てるつもりなんてないよ。これからもよろしくね」
「はい! ……あの、お二人共。私みたいな小娘は邪魔かもしれないですが、余計な事はしないので、どうかよろしくお願いします」
「ちょっとちょっと。私達そんな事言うように見える?」
「勇人の恩人なんだ。邪魔なんてそんな事言う訳ないだろう」
霞ちゃんはいい子だからね。
香織も澪も気に入ると思う。
僕も気に入ってるんだから間違いないよ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます