算数(五)

 ラカルジ・ラジーネの情報に基づき、ウストレリ側が、四万から五万の兵を[バナルマデネ]平原に集めても困らないように、鉄仮面は打つべき手を打った。

 鉄仮面は手持ちの兵をいくさ場へ総動員することにしたので、遠西州に応援を頼み、オルコルカンの守備用の兵を出してもらった。兵を率いて来たのは、サントリ候[ルンシ・サルヴィ]であった。

 「藪蚊の親分(※1)が来てくれるとは、頼もしいな」と鉄仮面が世辞を言うと、候は「まだまだ、若い者には負けんよ。まあ、何があっても、帰る場所は用意しておくから、安心しておけ」と答えた。


 鉄仮面がもう一つ、手を打っておかなければならなかった、ファルエール・ヴェルヴェルヴァ対策だが、こちらはずいぶんと心もとないものになった。

 ダウロン三兄弟の生き残りであるノルセン・ダウロンはもういいとして、ヴェルヴェルヴァを援護する小刀使いの少女がじゃまであった。

 そこで、赤陽隊の中から、腕の立つ者を五人選抜して、彼女に当てることにした。おそらく死ぬことになるだろう者たちだったので、因果を含ませて、その後の家族の生活については、グブリエラ家が責任を持って養うむねを伝えた。

 鉄仮面の側近が五名の名簿を持って来た時、「この中に、ノルセンと仲の良い者はいるか?」と彼女がたずねると、側近が首を縦に振ったので、その者は外すように命じた。ノルセンには情緒を常に、安定的なものにしておいてもらわなければならなかった。だから、彼の「友達」は外させた。

 それだけでは不十分だと感じた鉄仮面は、古参兵の中で火縄[銃]の扱いの上手い者を五名選び、ヴェルヴェルヴァ退治専任とした。


 このような準備の果てに、新暦九三三年晩冬[三月]の大いくさは始まった(※2)



※1 藪蚊の親分

 ルンシ・サルヴィが塩賊(藪蚊は蔑称)の大頭目であったことを指している。


※2 新暦九三三年晩冬[三月]の大いくさは始まった

 後世、第七次バナルマデネの戦いとして名を残す。

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