宝刀(六)

 鉄仮面が睡蓮館の応接室に入ると、北の老人[ハエルヌン・スラザーラ]はおらず、小サレと、なぜか、ウザベリ・スラザーラがいた。

 遅々として進んでいないようにウザベリには見える、ファルエール・ヴェルヴェルヴァ退たいについて、彼女が鉄仮面をなじりに詰って来た。

 興奮が極まり、歩き回りながら、同じ話を繰り返すウザベリに対して、鉄仮面はすっかり飽きてしまい、つい、部屋から見える池の蓮に目をやってしまった。それが、ウザベリの怒りに油を注ぐこととなった。それに対しても、「スラザーラ家の次期当主として再婚話があるらしいが、これに婿入りする男はたいへんだな」と、心のうちに思うぐらいで、鉄仮面の心は動かなかった。

 しかし、そんなウザベリも、父親が姿を現すと、静かになった。

 しばらくの沈黙の後、老人が、「元気そうでなによりだ」と口にした。

 その安楽な物言いに、「そう見えますか?」と、鉄仮面が心のざわめきを抑えられずにたずねると、「見えるな。苦労が足りんよ」と老人は言いのけた。

 「まあ、いい。こちらの用件の前に、何か話があれば聞くが?」と、老人が言ったので、鉄仮面は金と兵の補充の話をした。

 老人は、お菓子をねだる子供に対するように、おうようにひとつうなづくと、「わかった」と応じた。それから、鋭い目つきで鉄仮面を見ているウザベリに顔を向けて、「スラザーラ家もすこし助けてくれるか」と話を向けた。

 すると、ウザベリは抑揚なく、「金ならばいくらでも用意いたします。ですから、一刻も早く、ヴェルヴェルヴァの首を持って来ていただきたい」と言った。

 鉄仮面が深くうなずくと、ウザベリは部屋から出て行った。すると、どういうわけか老人も、「こちらの用件はオイルタン[・サレ]から話させる」と、後に続いて姿を消してしまった。


「あれは何だ」

 そのように、鉄仮面がいまいまし気に小サレにたずねたところ、「まあ、私から話したほうがよい事柄ということだよ」と言いつつ、めずらしく微笑を浮かべた。

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