第二十九話 〜空亡の苦悩〜

昨日の宅飲みから一夜明けて、私は部屋で目を覚ます。時間はAM4:00。今日も仕事があるからいつもの時間に起きた。


『未来よ。昨日あれだけ飲んだのに大丈夫なのか?』


 空亡が心配するように声をかけてきた。


「ん?ああ、大丈夫だよ!私もお母さん似でザルみたいなんだよねー!お母さんほどじゃないけど!翌日にも残らないから問題ないよ。」

『そうなのか…。十分だと思うがな。晴明は酒に弱かったな。そこは父君に遺伝したのかもしれんな。』


 そんな会話をしながら出勤の準備をする。私が家を出るのと同時くらい―大体4:45くらい―に長老が玄関から出ようとしているところに出くわした。


「おお、みくちゃん。おはよう。昨日は悪かったね。」

「あ、おはようございます。いえいえ。もう大丈夫なんですか?結構飲んでましたよね?」


 あの後も、普通に飲んで雑魚寝状態で朝を迎えたはずである。にもかかわらず、いつも以上にキリッとしている雰囲気であった。


「…いや、ダメだ!正直眠いし頭痛い!けど、やらなきゃならん仕事は山のようにあるからな!」


 長老は全然ダメな体調を押し殺して力んでいただけみたいだ。それでも、やるべきことはしっかりとこなそうとする姿勢は尊敬できる。


 ―そんな状態で業務をされても部下が困りますよ。―


 と私のネックレスから言葉が発せられる。それと同時に光の玉が長老に向かっていってぶつかった。


 ―酔い覚ましです。わらわを未来と一緒にいることを許してくれたお礼ですので、今回は特別です。―


 そう、昨日の夜、長老にもソラの紹介をしていた。陰陽師の使役する妖怪は基本的に陰陽省に届出をして、管理されているのが一般的なようで、空亡やソラも本来ならば届出を出して、登録されるまでは陰陽省預かりとなり、一緒にいることはまだできないはずである。しかし、空亡とソラは特例として届出は後で出すことになるが、陰陽省での預かりはなしという配慮をしてもらった。職権濫用である。それには助かったけど。


「おお!?頭が痛くねー!いいね!その力!助かったぜ!

 あ、みくちゃん!昨日の話だが、そんなに考えすぎないようにな!ダメならダメでいいから!」

「あ、はい。わかりました!相談したいことあったら連絡しても大丈夫ですか?」

「いいぞー!……、ほい!これがプライベートな連絡先だ。何かあれば連絡してくれ!それじゃまたな!」


 長老は連絡先が書かれた名刺を渡して、火車かしゃと共に帰っていった。

 私も仕事に遅刻しちゃう!?と慌てて家を出た。


 ―――――


 ―職場のパン屋―

「おはよーございまーす!」

「おう!おはよう!今日も気合い入れていくぞー!!」

「おいっす!」


 社長は朝から元気だ。とりあえず、2階までいって荷物とか置いて着替えをする。今日は空亡も連れてきている。昨日のような事態にならないとも言い切れないし、護衛の意味も込めて普段から連れて行こうという話になった。


『未来はこの仕事好きなのか?』


 不意に空亡が話しかけてきた。


「え?あ、うん。好きだよ?」


 私は思ったことを率直に答えた。


『そうか…。』


 空亡はそれから仕事が終わるまで、特になんの話もしなかった。


 ―――――


 厨房に入るとすでにパンのいい匂いが充満していた。


「今日もよろしくお願いします!」


 私は朝の恒例の挨拶を済ませて、厨房からパンの品出しを始める。今日はいい天気だから、それなりに人も来そうだなと感じた。すると…、


 ―いい匂いですね。―


 ソラが話しかけてきた。テレパシーみたいな感じで、周りには聞こえていないみたいだ。私だけ話すのも変だし黙っていたら…


 ―頭で喋りかけるように語れば、未来さんも私と念話できますよ。寂しいので、喋ってください。―


 意外とお茶目なところがあるんだなと感じながら、


 ―「あ!そうなの!?この声聞こえてるの?」―

 ―はい。聞こえていますよ。―

 ―「おおー!すごいすごい!これも何かの術なの?」―

 ―いいえ、これは神としての力「神通力じんつうりき」と言った感じでしょうか。―

 ―「そっかー。じゃあ私はできないのか。ちょっと残念。」―

 ―いえいえ、陰陽師の術にも似たようなものはあったと思いますよ?今度、お父上や長老さんに聞いてみたらどうですか?―

 ―「あるんだー!それはいいこと聞いた!ちょっと後で聞いてみようかな!?」―

 

「おーい!!未来!!なに突っ立ってるんだ?早く動けー!」


私は念話に集中しすぎて立ち止まっていたみたいだ。集中はしすぎないようにしないといけないな!気をつけないと。


「あ!すみませーん!動きます!」


 この後は特に普段と変わらない、いつもの仕事風景であった。


 ―――――


 PM5:00

 今日はいつも通りの感じで仕事を終えられた。特に問題も起こらずに帰宅の時間となった。


「じゃあ、今日はこれで失礼します!お疲れ様でした!」

「あ、ちょっと待て。これ、今日のあまりだけど、持っていきな!」

「お!いいんですか!?ありがとうございます!じゃあ、これにて失礼します!」


 私は今日は徒歩で職場まできていたので、そのまま家路に着く。すると、ずっと沈黙していた空亡が話しかけてきた。


『未来。我は考えていたが、答えが出ない。どうしたらいい。』

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