第二十八話 〜スカウト〜

大きな叫び声と共に飛び起きたお父さんと長老。

 一体、ソラは何をしたのか。


「ねぇ、ソラ。何したの?」

 ―大きなカナヅチでめった打ちにされる夢を見せてあげました。―


 な、なるほど。それは叫ばずにはいられないな。

 というか、夢を見せることが出来るんだ。これも何かの術なのかな?


「それで?お父さんと長老は大丈夫なの?」


 寝起きの2人を見るとまだ酔いが残っているのか二日酔いみたいな感じなのか、ちょっとクラクラしてそうだった。


「仕方ないわね。」


 そういうと、お母さんがお札を取り出し2人の背中に貼り付けて何やら呪文を唱えた。


「さっ、これで酔いも覚めたでしょ。本題に入りましょう。っとその前に何か言うことは?」


 お母さんは2人の酔いを覚ます術を使ったみたいだ。酔いもつまるところは体の不調だ。回復を得意とするお母さんは酔い覚ましもお手のもののようだ。


「「ごめんなさい…。」」


 2人は首を垂れて深く謝罪した。調子に乗ったこと、飲みすぎてしまったこと、色々の思いを込めたみたいだった。


「はい、よろしい。じゃあ長老。話ってなんですか?」


 さすがはお母さん。長老も形無しだ。私も見習わなくては!そして、長老の本題へと話を促して、長老が会話を始める。


「ああ、悪かったね、みくちゃん。話っつーのは、今の常世の状態についての詳しい話を空亡くんから聞きたくてきたってわけよ!」


空亡は一瞬考えるような間を開けて、


『…ふむ。まあ、いいだろう。今の常世について教えよう。』

 

――空亡は現在の常世の状況を長老に説明。――


「なるほどな。今の常世はその「厄」って奴らがしめてるってわけか。」


 空亡はかいつまんで説明した。

 まず、平安時代の百鬼夜行が常世に帰還するに乗じて、空亡は晴明のスパイとして百鬼夜行の幹部として潜入したこと。

 その百鬼夜行は「厄」という組織であること。

「厄」は常世の統治者であった閻魔大王を監禁し、実質の常世の統治権を得ていること。

 そして、「厄」の最終目的である、受肉じゅにく計画のこと。人間の魂と妖怪を入れ替えて人間の体を手に入れる。まさに受肉である。


「しかし、火車かしゃにとっては僥倖ぎょうこうだな!閻魔大王が生きているとしれてよかったなぁ!」

『せやねん!!むっちゃあがっとる!』


 第一に火車を気遣うあたり、性格の良さが滲み出ている。見た目に反して優しい人だ。火車かしゃもこれでもかってほどに喜びを見せている。


「そうなると、いずれは現世の体制も整えないといけないな。ありちゃんとみっちーも今以上に忙しくなると思う。まずは、情報の共有からか…。」


 いつになく真剣な面持ちを見せながら、今後のことをぶつぶつと喋りながら考えているようだ。

 そして、何かを決心したように、バシッと膝を叩いた。

 

「よっしゃ!!みくちゃん!雇われないか??」


 長老は私をスカウトした。色々と考えたようだが、最後の最後で、この結論だったのか?


「「な!?」」


 この勧誘にお父さんお母さんは驚愕していた。


「え?雇うんですか!?」


 私はキョトンとしながらも協力要請ではなく雇うのか疑問になって聞いてみた。


「そりゃあ、無償で働いてくれりゃ儲けもんだが、協力してもらうにはそれなりの対価が必要だ!タダで協力要請なんてしたらいつ飛ばれるかわかったもんじゃないしな!むしろ、対価を払った方が信頼に足るってわけよ!」


 なるほどね。確かに両者を比べたら責任感は雲泥の差だろう。


「そういう考え方もあるんですね。でも、なにせ急な話なんで、少し考えてもいいですか?」

「そりゃあもちろん、じっくり考えていいぞ!ただ、時間は有限だ。少し早めの結論をお願いしたい。」

「わかりました。」


 私は少し考える時間をもらって、実際に行動を共にするであろう空亡とソラに話をしてみようと思った。雇うということは、今の職場も離れなければいかないかもしれないし。よくよく考えた上で結論をだそう。


「ちなみに募集要項はこれだ!」


 長老は募集要項と言って一冊の冊子を私に渡した。この中に陰陽省の仕事内容とか福利厚生、給与などザッと記してあるらしい。これをみながら決めてくれとのことだった。あくまでも、非常勤的な位置付けみたいだから気負わずに決めてくれとも言っていた。

 さてどうしたものか。とりあえず考える時間はもらえたし考えようとは思うけど、大体方針は決まっている。私としては陰陽師としての仕事を引き受けたいと思っている。だけど、今の仕事のこと、今後の生活のこと、考えなくてはいけないことがある。まずは、そんな話を一番身近にいるお父さんお母さんも合わせて相談してみよう。


「はい、ありがとうございます。考えてみます。」

「まあ、あんまり気負わずに考えてくれ!何かあれば全力でバックアップしてやるからよ!障害があったら全部ぶっ壊してやろう!」


 ガッハッハッと大声で笑い、任せろと言っている。長老はきっと本心から言っているのだろう。長老にも相談してみよう。とりあえず、今日は色々考えるのも疲れたし、お父さんたちも引き込んでもう一度飲みなおそうかな!


「ありがとう、長老!まあ、今日はちょっと大変だったから、明日また考えよう!では、今から飲み直しませんか!?」

「お!?いいねー!みくちゃんもいける口かい!?今日はいい酒持ってきてるんだぜー!って、あ?ねーぞ!?!?」


 長老は飲み直しに賛成して、持参した酒を出そうとしたが、見当たらないみたいだ。


「さっき一瞬で飲んじゃったじゃない。」


 お母さんが指摘した。


「ええ!?俺達そんなに飲んでたのか!?まじかよ。やっちまったなー。味もほとんど覚えてねーよ。」


 そんなこんなで、新しくうちにあるお酒で飲み直しを始めた。

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