第二十六話 〜母の言葉〜

お母さんは呆れながらダイニングテーブルでお酒を飲んでいる。お父さんたちはリビングのローテーブルのところで飲んでいたので、その付近に転がっている。まあ、とりあえず放っておこう。

 そんなことを考えていると、お母さんが手招きをして一緒に飲みましょうと言ってきた。私はそれに了承し、棚からコップと杏露酒しんるちゅうを取り出し、ダイニングテーブルに向かった。お父さんたちが使っていた炭酸水と氷が残っていたので、拝借してソーダ割にすることにした。


「あの人達、未来が陰陽師として目覚めたことが嬉しいらしくて、いっぱい教えてやるぞーとか、すぐ追い越されそうだな!とかそんな話で盛り上がってあの状態よ。」

「あはは!そうだったんだ!?けど、私はまだまだだよ。本当は今日もすぐ寝ちゃいたいくらいだったし。」


 私は今日の失敗を少し引きずっていた。空亡にも慰めてもらったけど、やっぱりすぐに立ち直ることはできそうにない。


「…。何があったかはわからないけど、今はそれでもいいんじゃない?」


お母さんは何にも気に止めるでもなく、サラッと言い放った。


「…え?」


私を見て結構聞きたいこととかはあると思うけど、お母さんが言ったことに少し呆気あっけに取られた。


「人間誰しも完璧じゃないし。お父さんとお母さんだって間違える事はある。あそこにいる長老だってね。この国の陰陽師のトップなのによ。少しは自重してほしいくらい失敗だらけよ。

 でもね、それでも慕われているのはその真っ直ぐで強い心や信念にみんなついていきたいんじゃないかな?長老は心からみんなの平和を願っているわ。」


 おちゃらけてる感じだけど、お母さんにここまで言わせるなんて、本当にすごい人なんだな。


「だから、未来も間違っていいの。間違ったら落ち込んで、よく考えて、同じ間違いをしないように学べばいい。そうやって成長していけばいいの。それで、どんなことでもいいから、自分だけの信念とか覚悟とかを持っていれば、諦めずに頑張れるはずよ。」


 そういえば、空亡にもおんなじような事を言われたっけ…。お母さんは私に何があったかも聞かずに、言葉を綴つづった。親って完全無欠なイメージが強いけど、同じ人間なんだよな。きっと、私と同じような経験もしたんだろうな。


「…ありがとう。ねえ、お母さんもいっぱい失敗した?」

「そうね。お母さんは生まれがまず特殊だったからねー。蘆屋家あしやけは世間からうとまれる家柄だったから、失敗しないように振る舞っていたわ。でも、気を張りすぎると逆に失敗が多くなったりするの。そういった失敗を繰り返しては落ち込んでって感じだったね。」

「そうなんだ。壮絶な子供時代って感じだね。」

「でも、お母さんは蘆屋家の真実も知っていたから、何を言われても気にも留めなかったわ。でも、その時守ってくれたお父さんへの想いもお母さんを支えてくれたわ。」

「へぇー!今でもラブラブだもんねー!そういう出会っていいねー。」


 両親は今でも2人でデートしたり仲がいい。そう言った過去があったからなのかな?


「そうね。まあ、そういう思い出はきっかけでしかなくて、結局はすごくウマがあったからなんだと思うわ。相性がよかったんでしょうね。」


 なるほどー。相性か。そういうのも大切だよな。やっぱり合わない人といてもって思っちゃうもんなぁ。

 

『いやいや、え〜話やなぁ!』

『うんうん。』


 急に私たち以外が話に入ってきたのでおどろいた。長老たちの契約妖怪の火車かしゃくだんだった。2体は壁の修復をした後に休んでいたみたいだ。猫の姿の火車がダイニングテーブルの上にぴょんッと件の背中から飛び乗って来て、話を続けた。


『奥さんなかなか辛い過去があったんやなぁ〜。お嬢も今頑張っとるんやな。うんうん。どうや!?今度オイラと一緒にデートでもしようや!?それぞれでもえぇし、3人でデートでもええで!楽しませたるわ!!』

「え!?え!?なに!?あんたそういうキャラだったの!?」


 私は狼狽うろたえるように反応した。ほぼ初絡みなんだけど、グイグイくるなー。


「はいはい、冗談はいいから。聞きたいことがあるんでしょう?」


 お母さんは火車の扱いに慣れているようで、本題をうながした。実は今日、長老が来た理由の半分は火車の為だったようだ。

 火車は真剣な面持ちと雰囲気をまとい、質問をしてきた。


『空亡のあんちゃん。閻魔大王は生きてるんかい?』


 火車はそれを聞きたくてここに来たようだ。元々火車とは閻魔大王の遣いとして存在しているらしい。物心つく前から閻魔大王のお付きとして育ったらしい。むしろ親のような存在だと言っていた。そんな存在が統率していた常世が無法地帯となっていると聞けば、統率者の危機が思い浮かぶだろう。その思いに空亡は真実を告げた。


『ああ。閻魔大王は生きている。拘束されてはいるが生きているのは確実だ。』

 

 空亡は火車にとって一番欲しい言葉を投げかけた。


『そうか……。そうか!!そりゃあ、めでたいわ!ずっと気にしてたんや!元気かわからんが、生きてるだけで儲けもんや!』


 火車は嬉しそうに騒いだ。

 火車は大戦のあと、閻魔大王との約束として、人間達との架け橋を担になうべく、現世に留まり、陰陽師と行動を共にしていたらしい。そこで、現在の常世の状況を聞いて、閻魔大王の安否が気がかりになったようだ。

 閻魔大王の安否が確認できたことがよっぽど嬉しかったようで、涙を堪えるような声で、


『ありがとう…。』


 と、空亡にお礼を言った。

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