死神編あらすじと解説文

死神編あらすじ


 一般兵として鬱々とした日々を送っていたティロは、オルド攻略の一環としてトリアス山への出兵を命じられる。嫌々現地に赴いたティロは、山中での戦闘に巻き込まれて所属していた小隊からはぐれてしまう。共に戦った仲間と共に作戦本部に戻ると、連隊長であるシンダー・ハンネスに何故か気に入られて個人的に出撃するよう命じられる。


 これがチャンスであるとティロは予備隊時代に培った技術でオルド兵を次々と倒していく。ある日「ゾステロという男が率いる小隊が救援を待っている」という知らせがティロの元に届く。それは姉と自分を殺した三人組のひとりと同じ名前だった。急いでティロが小隊の元へ駆けつけると、それは間違いなくティロの片腕を折った男であった。これ幸いと小隊共々ティロはゾステロへの復讐を果たす。


 その後ティロの活躍によってオルド軍は劣勢になり、リィア軍はトリアス山を攻略寸前まで追い詰めることができた。ティロは帰還する直前、何故かシンダーに一般兵であることを咎められ部隊を追い払われる。項垂れたティロが元いた小隊へ戻ると、ティロは敵前逃亡したと見なされていた。連隊長のもとオルド兵と戦っていたという主張は聞き入れられず、ティロに命令違反と服務違反が言い渡される。


 リィア軍はオルド国を落とすことができた。祝勝に浮かれる街であったが、命令違反の汚名を被ったティロは自棄をおこし、飲んだくれて路上に転がっていた。そこへ声をかけてきた女性がいた。エリスというらしい彼女とティロは知り合い、それから彼女と例の郊外の河原で会うことになる。


 ある日、勢いでティロは「リィア王家に恨みがある」と彼女に告げる。すると彼女は「それなら二人で革命家になろう」と無邪気に言う。そして「革命用に私に名前を頂戴」と言われる。思わず姉の名前を零してしまい、以降彼女はライラを名乗ることになる。姉の名前を与えてしまった彼女との関係にティロは複雑な気分になる。


 それから、ライラもエディアの出身であることをティロは知る。ティロは同郷であることを喜ぶが、ライラはエディアで虐待されていたことを告げ、いい思い出はなかったと言う。それを聞いてティロはライラに自身の出自を絶対に告げられないと落ち込む。


 その後、ティロに「オルドの山奥のコール村関所へ行け」という辞令が下る。実質上の左遷であった。コール村に発つ前、ティロはライラからリィアに潜伏する反リィア組織の話を聞き、彼女が本当にリィア王家を倒すつもりであることを知り驚く。


 赴任したコール村はオルド領の山奥にあり、都会育ちのティロには信じられないようなことが多かった。穏やかな生活はできたが、剣技が存分に出来ないことにティロは鬱憤を溜めていた。


 ある日、コール村にリィア軍上級騎士が稽古を付けに来ることになる。寝不足のティロは眠たい一心で稽古に臨むが、それを上級騎士に見とがめられる。稽古の後に個別で呼び出されたティロは極度の眠気から我を忘れ、上級騎士に本気で喧嘩を挑む。しかし、上級騎士のほうが技量が上だった。眠気と鍛錬不足でティロは追い詰められ、返り討ちに遭う。


 手合わせ後に気を失ったティロが気がつくと、上級騎士から絶賛される。「お前はこんなところにいていい奴ではない」と上級騎士はティロの昇進を仄めかし、コール村を去る。上級騎士はリィア軍上級騎士隊筆頭ゼノス・ミルスであり後日本当にティロの元に辞令が届く。忘れかけていた剣技への情熱を思い出し、ティロはリィアの首都へ帰還することになる。


○キャラ動向


ティロ(18~21)


 人生ダタ滑りでどこまでも不遇の主人公ですが、ようやく人生が上昇する兆しが見えました。今のところですが。


 今章でトリアス山で彼が実際に何をしてどういう処分が下ったのか、発起人ライラとどのようにして出会ったのか、そしてコール村で何をやっていたのかが明らかになりました。そして存外しょうもない奴だということもよくわかったと思います。


 特務予備隊編のラストでも十分落ちているのですが、次章では更に落ちていきます。その間の「死神編」は一応停滞期というか、ライラとの出会いやコール村での静養、そしてゼノスとの出会いでそこそこ人生がそれなりに回っている期間でした。特にコール村での静養はストレスだらけのティロを一時的にストレスの元から引き離したことで大分心身が楽になったみたいです。



エリス/ライラ


 ようやく登場した今作のヒロイン(?)。ここに来てライラと名前を付けてもらう前にエリスと呼ばれていたことが判明します。しかも暴力的な元彼からティロが守った形になっています、一応。誕生日がはっきりわからないので具体的な年齢はわかりませんが、おそらく彼女はティロよりひとつ年上らしい、という設定があります。


 事件編では「彼女が一体何をしたかったのか」については謎のまま終わっていました。そして現時点でも謎だらけの彼女です。全容編でティロから一連の事件を見れば彼女が何をしたかったのかわかるかもしれません。



ゼノス


 査察旅行でわざわざコール村まで出向いたけれど、ティロ視点から見ると「なんかやってきた奴」でした。彼がどれだけティロ(の剣技の才能)に心を砕いているのかというのはこれから明らかになってきます。そして事件編でも語られている通り、彼は「ティロの才能を発揮させるべきだ」と勢いで上級騎士へ推挙しますが、この行為そのものがこの後のろくでもない事態の引き金であったことを知り非常に落ち込むことになります。



シンダー連隊長


 全容編から登場する、リィア軍の偉い人。階級はもちろん顧問部で、このときのトリアス山攻略の全指揮をとっていました。


 死神編最大の謎「何故連隊長からの命令はなかったことになったのか」ですが、これにはきちんと理由があります。ひとつだけ言えることは、彼は単純な意地悪でこのようなことをしたわけではないということです。ヒントとしては彼の台詞をよく読み込んで、そして事件編で触れられている「トリアス山の死神」についての不自然な点を加味して考えると何となく背景は掴めるかと思います。



コール村の人々


 当初は全員モブ扱いにする予定でしたが、エピソードが広がるごとにネームドのほうが何かと便利になって、そんで名前を与えたらすごくお話がはっきりしてきてこういうことになりました。アース隊長は完全にポジションキャラですね。村の人は基本的にみんないい人ですが、余所者には適度に冷たいです。ティロとも「そのうち出て行く余所者の門番」くらいの付き合いでしかありません。


 ノムスは「素行が悪くて流された奴」です。唯一ティロとまともに喋れる相手として設定しました。そしてターリーは「無能で流された奴」で、彼は今後もコール村に留まり続ける運命にあります。アース隊長は一応生活能力がありそうなノムスやティロよりも、ここを出たら自活できなそうなターリーをものすごく心配しています。



○内容解説


《第1話》


「ほぼ捨て子を意味するキアン姓」

→キアン姓は「姓のわからない孤児にリィア軍が便宜上与える姓」であるため、素性のわからない子供=捨て子と相場が決まっていました。親の事故や病死などやむを得ない事情で孤児になった子供と違い、捨て子は自分が捨てられたことで情緒が不安定になりがちです。その中でも予備隊出身という出自は周囲から避けられても仕方ない部分がありますが、それにしても可哀想ではあります。



「ティロの勤務は夜勤ばかりになっていた」

→これ以降ティロは昼夜逆転の生活になりがちになり、ますます不眠をこじらせていきます。この頃は基本的に睡眠薬を飲んで宿舎の外で数時間転がっているのが「睡眠」でした。



「クライオとオルド」

→この半島は東西に延びていて、リィアは半島の南側に位置しています。始めにクライオ王朝がこの半島の大部分を治めていましたが、有力な公爵が独立を宣言し、ビスキ公国が誕生します。そして後から新興国としてエディアとリィアが独立した経緯があります。オルドはずっと半島の付け根の山間部に存在し、山を越えてきた遊牧民族のオルド族が高地に建国したのが最初です。



「乗り物が苦手」

→閉所恐怖症と併発しているのかと思えば、そもそも乗り物に乗って移動することそのものに抵抗があるようです。その理由は一応今までの情報で推察が可能ですが、そこに辿り着くまでに事件編で明らかにならなかった大きな謎をひとつ解明することが必要になります。



「剣を極める者……やられる前にやる!」

→実際の剣術指南にこんな雑なものはありません。これはティロのオリジナルで「犬1犬2」的なセンス溢れるシンプルな剣術指南です。



「申し訳程度の庇があるだけの屋外を待機場所とされていた」

→なんでこんな雑な扱いなのかというのにも一応理由はあるのですが、ここに待機していないとゾステロの話が聞けないからというのが作劇上の理由です。軒下で雑魚寝でも文句を言わないティロはますます犬っころ化していきます。



《第2話》


「少し気分が悪かったが、空を仰いで気を紛らわした」

→これは普通に読むと「遺体の中に入っているから気分が悪い」と読めると思うのですが、ティロの場合はどちらかと言えば「生き埋めになる感覚が蘇るから気分が悪い」です。だから空を一生懸命見ているのです。



「貴様みたいな鼠にはちょうどいい薬」

→興奮剤とありますが、要は覚醒剤です。ヒロポン錠みたいなものだと思われます。戦争なのでモルヒネは使い放題、ヒロポンも飲み放題。お薬大好きティロがこれに目をつけないはずもないのですが、彼自身はアッパー系の薬物よりもダウナー系の薬物のほうを好んで使用します。余談ですが覚醒剤やコカインは気分を高揚させる薬物で、アヘンやシンナー、大麻にアルコールは精神を鎮静させる薬物です。薬物といってもいろんな種類があるんですねえ。



「失血と窒息ですぐに力尽きた彼ら」

→即座にトドメを刺せばいいような気もするのですが、それだと何かあったときに怪しまれると思ったので適度に自然死を装っています。こういう機転は働くあたり彼は賢いです。



「助けてくれ、ジェイド!」

→こちらは全容編なので、事件編と若干展開が異なります。事件編と全容編の主な違いは「主人公が読者に心を開いているかどうか」なので、主人公視点が追加された変更がこの先もたくさん出てきます。彼はどうすれば救われるのか、というのが本作の最大のテーマなので何とか彼を救いましょう。



「うるさい! 貴様、昼間はどこに行ってたんだ!?」

→ティロ視点から見るともう満足以外の何物でもないのですが、シンダー連隊長視点で見ると、姿が見えなくなったと思ったら急に酒を飲んで笑い始めてどつかれてもヘラヘラ笑ってるティロはかなり不気味だったと思います。



「重大な服務違反および命令違反」

→本作最大級の理不尽なのですが、一応シンダーが激怒するのも小隊長が報告を受けていないことにも理由があります。2人ともただの意地悪でこんなことをしているわけではありませんが、ティロにいい感情を抱いていないのも事実なので何とも酷い話ではあります。



「結局、死神の真相って?」

→ポイントは3つあります。「ティロは間違いなくオルド兵を1人でたくさん倒した」「シンダー連隊長はティロ直属の小隊長に報告をしていなかった」「シンダー連隊長はティロが一般兵十一等であることを知り激怒した」がこの死神疑惑で新たに確定したことです。事件編で更に死神疑惑についてわかることをもう一度読むと、更に不可解な事象があります。これまでのことを踏まえると決定的な証拠はありませんが、ある程度の推測は可能です。しかし真相がわかっても、ティロがどうしようもなく可哀想であることは否定できません。あとは「どうすればティロが死神の真相に触れることができるか」を考えていくとちょっと楽しくなります。



《第3話》


「原液を一気飲み」

→この世界、普通に飲酒する場合は基本全部水で薄めて飲んでます。ティロみたいな馬鹿な大学生みたいな飲酒をする人はあまりいません。事件編でもちらっと言っていますが、彼が酒を飲む場合は毎度この方法で完全に酔う用途一択です。ついでに酒はティロにとってはバッドトリップもあり得る諸刃の薬物であるため、あまり好んでいるわけではないようです。



「市民を殺して回ったら」

→その前に誰がトリアス山の死神を取り押さえるのかってところですね。実際に酔っていなくても、エディアのジェイドとしての自意識がある以上、ティロはそんなことは絶対しないと思われます。



「エリス」

→本作最大の謎のひとつ、ライラ嬢なんですが最初はエリスと名乗っていた模様。しかし何がどうしてわざわざ新しい偽名をつけさせるのか。そもそもなんで路上に落ちていたゴミに声をかけたのかというのが明らかになるのはずっと先になります。



「咄嗟に背後に回ると、ティロは男を床に押し倒す」

→狭い部屋の中でこれだけの動きをするのは相当な訓練を積んでいないと難しいでしょう。予備隊では暗殺のために室内での戦闘の訓練もあるので、殺る気になればティロはこの男を素手で殺すこともできます。もちろんやりませんが。



《第4話》


「例えば姉さんの左耳の後ろにはほくろがあった」

→こいつは姉のことになるとかなり気持ち悪いことを平気で考えるので、ここはドン引きして正解です。



「この河原に再度やってきたのは何故?」

→確実に誰も来なさそうな場所がここくらいしかない、という話の都合上もありますがこの川のイメージは宇治川です。何故なら入水未遂をするのは宇治川と相場が決まっているからです。リィアには川がたくさん流れているので、宇治川みたいな支流も、きっとあるに、違いない……。



「まるで自分にぴったりの部屋が見つかったようでティロは嬉しかった」

→ティロの話は剣都編の最後にある通り、基本的に「友達」と居場所を探す話というのが大きなテーマとしてあります。以降ティロはリィアにいる際はこの河原を「暫定的な居場所」と定めます。つまり彼の気持ちは河の対岸、つまり彼岸に常に向いています。「本当の自分は死んでいて、今の自分は亡霊」と思っている彼にとって死を想起させる場所に親和性があったのでしょう。



「お、剣に興味持ってくれたかな?」

→どこかの剣技娘に負けず劣らず、ティロもかなりオタク気質であります。更に人寂しさからついついライラに熱く語ってしまうのでした。彼女とティロが共通の話題で盛り上がる日が来るのでしょうか……?



「できるだけ過激なことを言えば追求を止めてくれるかもしれないな」

→まさかこの安易な発想のせいで、リィア王家が本当に倒れることになるとはティロも思っていなかったことでしょう。有明編で「俺はそんなつもりはなかった」と釈明していましたが、これは本当のことでした。ある意味ティロは出任せが下手なのでしょう。



「ダイア・ラコス」

→フォルスの祖父。リィア王家に息子を嫁がせ、無理矢理息子を王にした権力者。そして特殊任務部の初代部長。そして時系列がわかりにくいのですが、この時点では健康不安説が囁かれていました。そしてティロがコール村で雪かきしている間に病気でこの世を去ります。その後を継いだ息子のヴァシロ、そして彼の息子のセイムとフォルスが彼の遺志を伝えることになります。彼が何を思って革命思想を弾圧したのかというのも、これから先語られていくことでしょう。



「例えばライラとか」

→有明編でフォルスが「これからだろうが何だろうが恋仲になりそうな相手の女性に姉の名を送るとは一体どういう了見だ」と思っていたのですが、それにはこのようなティロの中だけで壮絶なドラマがありました。ちなみに何故フォルスがそんなことを思うのかと言えば、彼には姉もいるからです。彼もまさか世の中に本気で姉と致したい奴がいるとは想像もしていなかったのでしょう。



「ひとしきり都合の良い妄想」

→都合が良い妄想の前に、もし何事もなければ姉が別の男と結婚するところも想定しています。まだ幼い彼は姉夫婦と同居することになったと思われるので、それはそれで彼が正気を保てたのかというのは別問題です。



《第5話》


「真面目すぎて息苦しい」

→ティロは薬漬けのゴミでありますが、腐ってもエディアの親衛隊長の息子です。基本的にストイックで規則には厳しい性格をしています。そのため勤務をサボるとか稽古で手を抜くとかやる気が無いとか、そういう努力がない空間が苦手です。その辺のアンビバレントさが彼を余計に苦しめているところでもあります。



「誰かの落とした大人向けの本」

→要は売春宿の集まる通りで拾ったエロ本をアルセイドと拾って展望台で読んでたようです。剣都編で「大人の恋人は一緒に寝る」などと姉と致すことばかり考えていたのもこういった背景がありました。



「かつて奴隷と呼ばれた人々」

→かつて、というだけあってこの作品内の時系列では人身売買は世界的に表立って禁止されています。しかしそれでは特に鉱山や農場はどうにもならないので、秘密裏に売買が行われています。ちなみにビスキで革命思想が興ってリィアで盛んになったのも、この奴隷と呼ばれる人たちの影響が大きいです。この背景を踏まえると、アルセイドが何をしたかったのかをはっきり理解できるためによりライラの境遇を知ったティロの失望が大きくなります。



「トリアス山では任務だと割り切っていた人殺し」

→ティロも一応生まれながら軍人の端くれなので、名誉の戦死に関してはお互い様でありぶっ殺した過程はともかく戦死者には敬意を払っています。それを台無しにされたことは彼らに対しても不義理であると考え、全てが嫌になって道に転がるくらいものすごく落ち込んでいます。



「せっかく出来た話し相手」

→事件編で「こいつら一体どういう関係だったんだ!?」と皆が気にしていました。実際のところ、ティロの中で当初は「リィア軍と関係ないところにいて安心できる話し相手」でした。あくまでも他人との交流を極力避けたいけれど、寂しさが溢れ出してどうしようもないティロのぎりぎりの距離感です。



「ティロは何故ライラが自分と一緒にいたがるのか理解できなかった」

→彼女のほうはティロをどう思っているのか、というのはこの作品全体のテーマになってくるので後々わかってきます。これはもう少し2人の関係性というか、事件編で不可解と明示されたいろんなことの全体像がはっきりしてくると推測できるかもしれません。


「誰もいないところに話しかけているのが一番気が楽だった」

→ここで例の「独り言」について彼自身がどう思っているのか久しぶりに言及されます。ある意味彼を一番救っているのはこの「独り言」で、1人でグズグズ考えているのではなく「頭の中の友達と話している」と思うことでティロはある種のストレス発散をしています。ただ狂わないためにしている行為が結果として狂っているようにしか見えないというジレンマが彼を苦しめているところでもあります。



「何でそんなところに関所があるんですか」

→いろんな話の都合上だ、悪かったな! ……という冗談はおいておいて、事件編を読むとわかる通り、このコール関所は作中でかなり重要な役目を果たします。そしてオルドには何故か関所には詳しい専門家がいるんですね……。



「支給品の少しの生活用品」

→これ本編だと細かく書くとテンポが悪くなるので書きませんでしたが、要はタオルだとかひげ剃りだとかそう言った消耗品です。大体は軍からの支給品か、ティロの場合は他の隊員が使い終わって捨てたのを見てまだ使えそうなら拾って使っているものです。今までのトラウマでとにかく自分のものを持ちたくないあまりに奇行に走っているのですが、見とがめられることはあっても関わり合いになりたくないと指摘されることはありませんでした。



「自分なんかに従ってくれる人なんかいないとティロは本気で思っていた」

→これは事件編の挿入話でも書きましたが、アルセイドなしでもエディア王家の血を引くティロがいろんなことをしかるべき場所で行えば普通に反リィア組織が出来上がるはずです。そんなことも思いつかないくらいティロの自尊心は様々なことでひしゃげてしまっています。



《第6話》


「オルド国」

→ここから舞台はしばらくオルド国になります。ここに関しては結構細かく設定されています。それは随分と先にオルド国御家騒動編が予定されているからなのです。御家騒動の舞台はもちろん首都になるのですが、同じオルド国ということでコール村もよろしくおねがいします。



「そもそもどうしてこんなところに村があるんだよ……」

→この作品は地理や気候などは基本的にイタリア辺りのその辺のイメージで書いているのですが、このコール村だけ明らかに日本の豪雪地帯です。アルプスのほうも雪降るよね……という甘えがあります。そしてこの作品は「モンテ・クリスト伯」だけじゃなくて「源氏物語」からも大きく要素をもらっているので「日本の地理や気候も混ぜる!ヨシ!」という気分です。イメージとしては新潟とか福島、山形の県境あたりです。



「外見の話」

→基本的にいろんな見た目の人種がいるという設定なので、あまり他人の外見に興味のある人が少ないためにこの設定を出すのが遅くなりました。そしてひとつだけ言えるのは、赤毛のライラはこの半島の出身ではないというところです。



「炭箱」

→山間部で寒いオルドの必需品。いわゆる豆炭あんか、ホッカイロです。寝具用にはもう少し大きいものが使われています。この炭箱を含めてオルドならではの設定は後のオルド御家騒動編でも登場するので覚えておいてください。ティロがオルドに滞在したことがある、というのが後々変なところで繋がってきます。



「歩荷」

→ボッカと読みます。これは本当にある仕事で、特に車が入っていけないような場所に荷物を運ぶ仕事です。強力・剛力と書いてごうりきと呼ばれることもあるそうです。現代では山小屋などに物資を運んでいるみたいです。



「あれが神様だなんて迷信にもほどがあるだろ!」

→新年の祝いのところでも書きましたが、この世界では大規模な宗教改革が行われていて、いわゆる神の存在が否定されています。そういうわけでこのあたりの人たちは「神様」と言えば迷信めいたものだというイメージを持っています。「死神編」の死神も「魂をあの世へ連れて行くお化け」くらいのイメージです。そして、神への信仰というものが基本的に消えた世界にはびこったのが「革命思想」という話なんです、実は。



「こんくらい?」

→実際にどのくらい手を広げたのかはご想像にお任せします。ティロがコールアシナガグモに感謝するくらいです。ちなみに作者がガチめに巨大なアシダカグモに初めて遭遇したときは死ぬかと思いました。大人の手のひら大くらいありました。



「何故かコールに住んでる虫はデカいんだ。なんでだろうな」

→一応作者的に理由はありまして、この世界の地名は地質年代から取られています。コール村は「コール(石炭)紀」が由来で、石炭紀と言えば巨大な虫です。大きな鳩くらいあるトンボとか、2mくらいあったヤスデとかですね。ちなみにコール村の人物は基本的に石炭紀の生き物が由来になってます。まあ地中海性気候っぽい地域に日本の豪雪地帯並のドカ雪降らせている時点でファンタジーなので、多少虫が大きくてもいいだろう、ということでダメですかね……?



《第7話》


「鹿の牛乳煮込み」

→要は鹿肉のクリームシチューです。この辺はジビエが豊富に食べられるみたいです。



「雪押し」

→豪雪地域にお住まいの方なら「ママさんダンプ」という名前のアレの日本語名でわかるかと思います。よくわからない方はママさんダンプでググってください。これ、商標名だそうです。



「なんとか修練場を盛り立てようとしていた」

→ここまで読んでいるとティロは逃げ癖が着いた意気地なしに見えますが、本来は剣都編にある通りかなり真面目でストイックな性格です。特に剣技に対しては妥協を一切許さないところがあり、この辺は天賦の才というところもあります。世が世なら、一体何をしていたのでしょう。



「本当は金がとれると思うんだ」

→これは自画自賛でも何でもなく、世が世なら彼は一流の指導者としての側面もあったのです。しかし現実は山奥村の門番です。



「ターリーの奴も街に連れて行ってやってくれないか?」

→読んでるとなんとなく察することができると思いますが、ターリーはかなり能力の低い人物で実はアース隊長にかなり面倒を見てもらっています。隊長としてはターリーに少しでも広い視野を持ってもらおうとティロに同行させましたが、面倒を見てもらわないと自分では何も出来ないターリーをティロは持て余したというわけです。



「泥だらけで抜き身のナイフを持った少年」

→これは特務予備隊編の最後で語りかけてきた存在と同一のものです。彼の存在が一体何を表しているのかというのは、ティロが彼と向き合わない限り明らかになりません。



「よし、ここを休まず通っていけば数時間で辿り着けるぞ」

→下校時に通学路を通らないで変な近道を発見して怒られる小学生みたいですが、「コールへ登る短縮路をティロだけが知っていた」ということが実は今後大事になってきます。



「猟銃」

→この銃の精度は非常に低く、本当に目の前に来ないと当たりません。村人たちの持っている銃もこれで獲物を仕留めるというより、護身用といったほうが良いです。



「やいクマ公! こっちだ!」

→本場の猟師に怒られそうなほどあまりにも無謀なクマ撃ちなのですが、これは非常事態によってティロの中のカラン家の血が騒いだ結果です。かつて「子連れの母熊か飢えた狼」と評されていましたが、群れに危機が及ぶと全力で戦うあたり彼は優秀な狼であったようです。ちなみに銃じゃなくて剣でも多分いい戦いになったと思います。



「普段から豚や鶏を解体していた」

→予備隊では上級生になると新年の祝いの前に食べる肉に感謝して自分で解体するという設定がありましたが、あまりにも話が長くなるのでカットされていました。ちなみにいろんなところに潜入できるよう、簡単な農作業や事務作業などもある程度仕込まれています。頭がよくないと予備隊で生き残れないわけです。



《第8話》


「今日で4日目」

→一般的に睡眠が足りないと3日目で記憶力の低下、4日目で極度のイライラ、5日目で幻覚を見て7日目には生命の危機だそうです。ティロがゼノスに八つ当たりを始めたのも致し方なしです。



「上級騎士が一体こんな僻地に何の用があって来るんだ?」

→査察旅行があるというのをティロは事前にアナウンスされているはずなのですが、何分基本的に人の話を聞かない人であるのと睡眠不足でその情報は右から左になってしまったようです。



「図体ばっかデカくてどうせ俺のことチビって見下してんだろう」

→事件編ではティロの心境にはほとんど触れてこなかったのでこの辺りのことは全くわからないのですが、ティロは背が低いことをかなり気にしています。これは半分以上僻みです。



「カラン家の次期当主舐めんな」

→剣都編でも語られていましたが、カラン家の男は基本的に好戦的で売られた喧嘩は百倍で返せという精神です。もしティロが寝不足でなければ挑発したゼノスに対してもっとヤバい喧嘩を仕掛けていたかもしれません。その前にまともな判断力が働いてカラン家の顔を出さなかったでしょうが。幸か不幸か、ゼノスはカラン家の圧を理解できる人物だったことが今後の運命を決めるわけです。



《第9話》


「予備隊出身なのだろう?」

→普通に考えれば「親なしの前科持ちなのだろう?」と言われるのはかなり厳しい話なのですが、ティロの場合はそれよりもまずい身の上であるために「そっちか!」とものすごく安堵しています。いや君それはおかしいよ……。



「ここはお前の居場所じゃない」

→結構残酷なように聞こえますが、本来ティロはカラン家の次期当主としてエディアの剣士を率いていく立場であったはずなのです。それが何故かいろいろあってど田舎の門番なぞやっているわけなのです。裏設定ですが、代々門番を努めるロプレーラ家に育ったアースは「コール送り」という人物がどのようなものが身に染みています。大体は「やらかした」者ばかりの中にたまに「どうしようもなく居場所がない者」というのがいて、何年もロプレーラ家に厄介になっているというのをアースは見てきています。その経験からティロが不器用なだけで「無能」でも「やらかした」でもないことをアースは見抜いていたわけです。



「リィアの兄ちゃん」

→実はティロ、警備隊員以外からは名前で呼んでもらえなかったんですね。元から余所者としてしか認知されていなかったので、コール村の人々はティロを受け入れてはいましたが積極的に仲間にいれようとはしていなかったのです。もしティロがあと数年コールに留まるようなことがあれば、もしかすると帰る場所のないティロはこの村に落ち着いていたかもしれません。



「山羊ちゃん」

→ネーミングセンスがマイナスのしょうもない名付けシリーズ。オスならきっと「山羊くん」になっていたでしょう。



「村の男たちに飲まされたターリー」

→これも裏設定ですが、ティロとノムスは詰所の仮眠室がそのまま居住地として割り当てられていますが、ターリーは結構どうしようもない奴なのでロプレーラ家にお世話になっています。そしてアースは今後もターリーの面倒を見ていくのだろうと思って、自分の役目はそうなのだろうとも思っています。それは本文には存在しか登場しなかった息子も同じで、彼も「コール村の門番」の意義を学んでいるところです。



「心の底から煙草が上手い」

→まあ彼はこういう奴です。懲罰房に落とされてもおそらく薬を選ぶ奴なので、村人の純粋な厚意など煙草代にしか考えていないでしょう。そもそもリィアにたくさん肉やチーズを持っていても一緒に食べる人がいないということをコール村の人も想像できていないあたり、やはり彼はコール村に留まることは出来なかったのです。

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救世主症候群シリーズ解説文置き場 秋犬 @Anoni

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