特務予備隊編あらすじと解説文

特務予備隊編あらすじ


 32番のティロとして表向きはリィアの特務を養成する予備隊に入れられたジェイドは、何とか予備隊という居場所にしがみついて再起を図っていた。予備隊に入れられる様々な子供と交流するうちに、自身の境遇などについて折り合いをつけていく。中でも最初に友達になろうと話しかけてきた29番のシャスタとは特に仲良くなるが、彼の不思議な振る舞いに翻弄されることもあった。


 特にティロに影響を与えたのが、45番のノットと17番のレシオだった。ノットはティロ以上の剣技の才能を秘めていたが、気の毒な境遇により今まで剣を持ったことがなかった。ティロに剣技の才能を指摘され、以降ノットは才能を開花させることになる。レシオには窃盗癖があったが、本人の努力でそれを克服しようとしていた。その姿を見て、ティロも閉所恐怖症と向き合わなければと勇気をもらっていた。


 ある夜、ティロはエディアの災禍についてリィア軍がまとめた資料を閲覧して安否不明であった親族たちが処刑されていることを知ってひどく落ち込む。また別の日に祖父のことが書かれた剣豪列伝を読んで感化され、ひとりで夜中に特訓を続ける。


 年齢を重ね、成人と共に予備隊を卒業する前にティロはシャスタと特務での実習に臨む。拷問や処刑を目の当たりにし、ティロは特務へあがる実感を強める。そして共に苦難を乗り越えたシャスタと「俺たち友達だよな」と語り合う。


 しかし、特務へ上がる前にティロの病的な閉所恐怖症が問題視される。特別訓練として特務の本部で克服するよう言い渡されるが、克服どころかティロは余計閉所恐怖症を拗らせることになる。特訓は7日に渡り、ティロは「欠陥品」の言葉と共に特務に上がれないことを通達される。全てに絶望してリィア郊外の川に身を投げようとしているところをシャスタに発見され、ティロは予備隊に連れ戻される。


 協議の結果、ティロは特務へは行けないが一般兵としてリィア軍に残留する道を提示される。教官のクロノに励まされ、ティロは再度特務を目指す道を探ることになる。そして予備隊で苦楽を共にしたシャスタが特務へ行く日、ティロは二度と会えないだろう親友との別れに涙する。


 成人して一般兵としてリィア首都の警備隊に配属されたが、周囲に理解が一切なくティロは孤立していく。閉所恐怖症や不眠症の他に捨て子であることを暗示するキアン姓や予備隊出身であることが周囲の偏見を生み、自殺未遂をしたばかりのティロの精神は摩耗していく。そこから逃避するためにティロは自分で積極的に薬物を使用していく。ついに身体を売ったり女性から金を騙し取るほどティロは薬物にのめり込み、自分自身を見失っていく。



○キャラ動向


32番のティロ/ジェイド


 ようやくティロになったのですが、予備隊では基本番号で呼ばれることも多いため本格的にティロとは言えない彼です。予備隊を出てようやく「ティロ・キアン」に正式な呼び名が固まり、以降リィアを出奔するまで使用することになります。


 懐旧編や探求編で語られた話の裏側では大体「正体がバレるのでは」とビビり倒していたわけですが、探求編で語られた通り彼は元来「いい奴」なので予備隊内の空気を変えるまでの善性をまき散らしていきます。


 そして特務落ちをして自殺未遂をしたことによりメンタルが急降下、周囲の無理解も祟って薬中一直線に突き進みます。更にいろいろ開き直ったことにより身体は売りさばくわ女から金は巻き上げるわとやりたい放題です。


シャスタ/29番


 ようやく予備隊時代の彼が登場するのですが、事件編で語られた彼の主観とティロから見た彼に相当のブレがあるのがわかると思います。どちらかと言えばティロから見たシャスタこそが客観的な彼の姿で、以降彼は何とか自分を繕い続けて大人になっていきます。ちなみに今のところ彼にもミラーキャラが設定されていますが、おそらく予想もつかないところで繋がると思います。


 特務予備隊編はジェイドがティロとして生きようと決めてからの話なのですが、もうひとつこの作品の重要人物であるシャスタが何者なのかという話でもあります。事件編で彼の身辺は「過激な革命派の元で育てられた革命孤児」と明らかになったのですが、そこに至る心境というのは不明瞭で本人は語ることができませんでした。何故なら彼は「言葉で気持ちを伝える」ということを不得意としているためです。


 事件編で示されている通り、彼はこの後ティロと再会して取り逃がして再び行方を追うことになります。事件編では再会出来ずに終わるのですが、全容編では全ての真相を明らかにするために再度ティロの前に現れる予定です。



リオ/41番


 主人公には幼馴染みが必要だよな、とティロがシャスタと共に作者の元に連れてきた女の子。当初はシャスタの彼女ことリノン共々かなり出番があったのですが、ティロが設定上どんどんへたれて行くにつれて目立たなくなってしまった彼女。


 彼女はティロの不眠症、その他「追い詰められて他人を害する」ことに関するミラーキャラです。本編ではそれほど詳しく書けませんでしたが、彼女には父親に命じられてずっと売春をさせられた末に父親を殺害したという過去があります。また本編でも言及があったとおり、彼女は記憶力、特に人の顔に関する覚えは抜群です。事件編でも面識があったわけでもないフォルスを一発で言い当てていたりとその辺が特務に買われたところです。



ノット/45番


 事件編ではいいとこナシの彼ですが、予備隊内ではティロに対して結構重要な役割を果たします。


 彼は当初から「剣の才能だけあって生まれは最悪」というティロのミラーキャラでありました。最初は苦労人の侍っぽいキャラだったのですが、薬物依存に加えて構成時に「虚言癖キャラを出す」というものがあっていろいろ悪魔合体した感じになってます。ある程度キャラの配置が終わったところでどうしてもティロの「薬物依存」だけ引き受けられるキャラがいなかったので思い切って彼にぶつけたところ結構いい仕事してくれました。


 実際に書いてみるとなかなかマイペースな奴になってしまったのですが、亡霊編でティロが人間不信に完全に傾いているのと同じような感じでノットは「本当の自分はきっと偉い人の子供だから、いつかこんな生活が終わるに違いない」と強固な現実逃避を続けていました。ある意味彼もティロ同様、剣に救われたところがあります。



ハーシア/11番


 兄貴キャラが欲しいぞ、と立案されたキャラ。彼はティロの「リーダーとしての気質」を備えたミラーキャラです。彼自身は才能も人柄も非常に良いのですが、親が有名な犯罪者という生まれたところだけが非常に悪かったという不運な話です。そして「周囲と不適合を起こして予備隊に流れ着いた」というところはシャスタと一緒です。しかし彼の場合、ただ馴染めなかったというよりも彼の正体を知った者たちから怖がられてしまうという悪循環で予備隊に入っています。


 ちなみに亡霊編で気を失ったティロに「大丈夫か?」と声をかけたのはハーシアです。いじめをくだらないと遠巻きで見ていた彼でしたが、ロッカーに入れた途端に暴れ出したティロが異様だと気がついて外へ出すよう言いました。


 本来はもう少し出番があってもいいのですが、やることが多すぎて最低限のエピソードだけを詰め込んで消化した結果「そういう人もいる」くらいになってしまったのが悔やまれるところです。彼のその後については一応事件編で既に言及されています。山と戦争は何だって怖いんです。



レシオ/17番


 もともと彼はティロと同級でシャスタと3人組になる予定でしたが「上級生キャラがもっと欲しいぞ」となって急遽彼を上級へあげました。その結果「みんなのお兄さん」みたいな感じになりました。


 当初から予備隊内に「窃盗症キャラ」は登場させる予定でした。予備隊に入っても手癖が直らず人の物を盗らずにはいられないのですが、その手腕をある意味買われているという設定でした。代替行為として彼に手品をさせてみたのですが、彼が意味なく手のひらでボールやコインをせわしなく動かしているときは窃盗の欲求と必死に戦っているとき、みたいな感じです。


 彼は幼い頃から親にスリを仕込まれ、その天才的な手腕で窃盗を働き続けます。「盗んでくれば親に褒めてもらえる」と刷り込まれた彼の窃盗はエスカレート、戦利品は全て親に渡し続けました。ところがいざ彼が捕まり、「お父さんとお母さんが盗めって言った」と正直に警備隊員に話したところ、両親は取り調べで「そんなことをしろと言ったことはない」「こんな子生まなければよかった」と容疑を全面的に否認。スリに虚言が重なったことで彼は予備隊に送られることになります。本編に盛り込む隙がなかったのでここに設定を置いておきます。


 事件編を読んでいれば彼の行く末はわかっていたと思うので、なかなか辛いものがありました。当初から彼は「訓練で命を落とす」という役割も持っていました。


 ちなみに全くの余談ですが、当初予備隊でのティロの親友の名前はずっと「レシオ」でしたが、どうにも響きが悪いので一回「ノット」に変更しました。しかし虚言癖の彼と思いの外名前が結びついていたためにノットは彼にあげることにして、更に窃盗癖の「シャスタ」と名前をトレードしたという複雑な経緯があります。そんなわけで過去に書きためた設定などではこの3人の名前が混在する結果となっています。複雑ですね。



55番/52番


 2人とも敢えて番号のみです。55番は「エディアから来た口だけのイキった奴」というキャラ、52番は「予備隊に馴染めず口がきけないキャラ」としてそれぞれティロのある一面を切り取ったキャラになっています。そして2人とも「不適格として弾かれる」という役割があります。


 55番に関しては構想当初からあまり変わっていないのですが、52番は「連続放火を犯して、口も聞かずにずっと人が燃えている絵を描き続ける」という当初から「何があったんだろう」と思わせるキャラでした。作者は特に何も考えていませんが、おそらく放火癖があるのだろうとぼんやり思っています。



クロノ・キアン


 予備隊の教官。予備隊の教官は基本的にメインサブ含めて10人前後、それと食事の用意など生活の世話をするスタッフが10人前後いるイメージです。中でもクロノは手をかけてビスキから連れてきたティロを可愛がっていたところがあります。キアン姓として過ごしてきた彼女の置いてきたものとは、まさしくティロが持っていたわけなのですがそれはまた本人は無自覚で気がつきようがないものでした。



○内容解説


《第1話》


「シャスタは事件編で『ティロが懐いてきた』って言ってたけど……」

→事件編で散々「お前は信用がない」と言われてきたことの総決算です。実際はシャスタがティロに無理矢理懐いていました。剣都編の最後にあるとおり、この話は「友達の話」です。ジェイドのかつての親友や頭の中の友達のことは勿論、実際に目の前にいる友達の代表がシャスタです。そういうわけで、彼は非常に重要な「友達」です。



「いろんなところをたらい回しにされて行き着いたのがここ」

→事件編では「孤児院を4つ追い出された」「気に入らない職員を拷問にかけた」と明確な数字や証言がありますが、シャスタの事情はほとんどティロには明かされません。その理由は事件編での証言からまとめると「革命孤児として保護されたがあちこちで不適応を起こして予備隊に叩き込まれた」とのことらしいです。



「嫌いなんだよね、女の子が泣いてるの」

→ティロは何気なく本気で本心から言った言葉なのですが、泣いている女の子からすればそれがどのように受け取られるかというのは大体想像できるかと思います。リオはこの言葉に救われ、そしてティロという存在に励まされて予備隊での生活に順応していきます。この無自覚に善をばらまく行為が彼の「そういうとこ」なのですが、本人はまったく理解していません。



「いつか機会があれば、詫びに行かないと」

→生死不明の少年の名前を名乗ることになったことに対して、本人としては罪悪感をかなり感じています。名前を呼ばれるのが嫌な理由は「自分の名前ではない」ということに加えて「本来のティロに申し訳ない」という気持ちもかなり大きかったことが窺えます。


「エディアの街は坂か階段ばっかり」

→イメージとしてはアマルフィ海岸のような立地です。そうでなくても港町は地形の利があるため坂が多いみたいです。長崎、神戸、横浜、函館みたいな感じですね。



「一緒に走ろうか?」

→基本的に予備生は「他人を蹴落としても自分さえ良ければ良い」という環境で育ってきているため、こうやってナチュラルに他人を気遣うということがあまりありません。無自覚ですが、ティロも予備隊の中では「異分子」のようなものでした。



「食事の作法なんか意識したことなかった」

→ティロはカラン家の次期当主として礼儀作法に関しては完璧に仕込まれていました。ここで食事の作法すら知らない予備生を見てギャップを感じる辺りが元上流階級のお坊ちゃんなのですが、この「食事の作法」については後々何度か問題になってくる予定です。



「伝統とは立場の強い者が楽しい催しが残るもの」

→あくまでもティロの主観です。



「シャスタからの友情というより執着に近い纏わり付き」

→感覚としては、ロックオンしたターゲットにだけ友情を口実に縛り上げるかなり幼い女児の交友関係に近いです。おおよそ10歳前後の男児の行うことではないのですが、このあたりシャスタは「人付き合い」というものが異様に下手であったことが窺える話です。



「あいつが懲罰房の常連だった」

→たった数か月で常連と言われるほど騒ぎを起こしていたらしいシャスタ。もしティロと出会えなかった場合、いつまでも誰とも馴染めない彼は不適格の末路を辿っていた可能性が高く、それはティロも同じだったかもしれません。



「お前が弱かったらどうせあいつらにいじめ殺されてただろう? 俺はそんな奴は嫌いだ」

→この辺の言葉遣いに関して、シャスタは他の子供たちよりかなり幼く不器用です。ここでティロが露骨に傷ついてみせたことで自分の問題に気がつけたようです。後にこの発言については深く反省していたことを語るのですが、ティロは特に気にしていなくて「変な奴だな」くらいの受け止め方だったようです。



《第2話》


「俺はこんな奴と親戚になった覚えはないぞ!」

→この出来事で、ティロは自分の本名を名乗っても誰も信じてくれないことを実感します。ついでにそんな自分の境遇に対して再度惨めさを確認してしまっています。



「誰でもないって思う方が惨めで俺は嫌いですね」

→ノットは環境に恵まれず、半ば育児放棄のような環境で育ちました。家にいても気にも掛けられず、外に行けば邪魔な子供として扱われ続けたので彼は空想の世界に逃げ込むことになります。この辺はティロの「友達」と一緒なのですが、この彼の言葉は後で再び問題になってきますのでちょっと覚えておいてほしいところであります。



「君、絶対才能あるよ。変な奴なんかじゃない、俺が保証する」

→これもティロ視点では当たり前の発言なのですが、薬を盗んでまで使用してひたすら空想の世界に逃げ込んできたノットからすると相当嬉しい言葉でした。リオ同様、彼もティロの「実はいい奴」の被害者と言えます。



「剣を交えている間に剣を捨て、相手が怯んだ隙に懐に潜り込む戦法」

→これは基本的に剣で勝てない相手に仕掛けるものです。「残月」で彼がセラスにこれを仕掛けたということは、彼女へのある意味降参であり自身のアイデンティティの喪失を認めた瞬間だったというわけです。



「どうして俺たちが本当に殺し合わなきゃいけないんだ!?」

→事件編では流されていましたが、ティロの心境からすれば「リィアの特務になったシャスタと本気で剣を交えなければならないかもしれない」というのは大問題でした。既に予備隊に恩義を感じているティロがリィアに弓引くことができるのか、というところでもあります。



「何故ティロはノットには怒らず、55番にはキレたの?」

→これには複数理由があります。その中でも一番大きいのは、ティロのアイデンティティは「エディア」ではなく「カラン」の方にあるということです。そういうわけでエディアの王族を騙られるより、祖父の直弟子を名乗られる方に大いに不快感を持ったという背景があります。そしてノットは初心者故に真摯であったことに対して55番は虚栄心が強く見えたことがティロの怒りに火を付け、更に「チビ発言」で血の気が多いカラン家の血が覚醒してしまったというところが実際のところです。



「どこかに行ってしまった」

→予備隊で適性は半年~1年くらいごとに判断されていきます。判断基準は様々な試験の合格状況と教官たちから見て「この子の今後を見ていきたいか」という将来性で、何かにとりわけ秀でていたり頑張りが見られたりすると残りやすいです。一通りの訓練を終える13歳~14歳くらいまで来ると「適性あり」として本格的な訓練に移るようになっています。



《第3話》


「剣豪小説」

→事件編で結構大事になる要素で、現代日本でいうところの漫画のようなものです。ティロが一生懸命小説を元に型を作ろうとするのですが、この世界の感覚で言うならドラゴンボールを読んでかめはめ波の練習をする小学生くらいのテンションです。



「処刑者リスト」

→ここに名前がある人は確実に死んでいます。ここでエディア王家全員とカラン家は全員死亡が確定し、ティロは正真正銘の天涯孤独になったわけです。



「シャスタの背中の裂傷」

→予備隊に入れられる以前からあると思われる傷跡です。その他予備隊に入る前から剣技を習得していたり山歩きを得意とする描写もあります。彼は事件編で革命孤児であり「変な組織に飼われてた」とある通り、かなり過激な集団の中で育ったようです。何があって予備隊に流れてきたのかは、作中にもある通りティロが彼に正体を明かさない限り教えてもらえないでしょう。



「世界の剣豪列伝」

→事件編でセラスが愛読していたシリーズです。基本事実ベースですが面白おかしく書いているところもあるようです。要は司馬遼太郎的な感じもありますが、デイノ・カランに関しては割といい加減なことが書いてあるみたいです。これはフィクションとして面白さを出したという以外に、正確なことを書いてエディアに燻っているかもしれない反リィアの火をつけさせないためでもあります。



「聞いたことないだろう? だから作るんだよ、俺が、俺の剣技を」

→事件編でセラスは「自分の型を作るだなんてどうかしてる」というようなことを思っているのですが、これは若気の至りの深夜テンションに寄るところが大きかったようです。この「自作の型」は型として完成はしませんでしたが、ここで編み出された技は後々彼の人生を大きく変えていきます。



「剣豪小説に出てきそうな台詞だな」

→事情を知らないと尤もらしく聞こえるのですが、この台詞は「剣豪小説ごっこ」の一環だったみたいです。要はオタクがアニメの台詞を引用しているみたいなノリです。



「俺の次に優秀な奴」

→剣技以外では、要領がいいシャスタの方がティロより大体のことにおいて少しだけ優れています。剣技だけなら圧倒的にティロに利がありますが、それ以外のことになると体力や体術、座学に関してもシャスタのほうが上手です。つまり総合するとシャスタの方が優秀です。



《第4話》


「新年の祝い」

→この世界では過去にものすごい宗教改革からの弾圧が起こり、いわゆる「神様」というものはなかったことにされています。そのため残ったのは素朴な祖先崇拝くらいで、あとはせいぜい「お星様にお願い」くらいの願掛けです。そういうわけでこの「新年の祝い」も元々は何らかの宗教行事だったものから祭りの部分だけ風習として残った行事です。「メリークリスマス」から「ハッピーホリデー」みたいな感じでしょうか。ちなみに新年の祝いは大事なイベントなので、後々も登場します。



「だって寒いじゃないですか」

→時期としてはこの世界の立春ごろを想定しています。夜はまだまだ冷える時期です。



「剣を持つと別人みたいに怖い」

→ティロは全く自覚がありませんが、カラン家の男は基本的に好戦的です。特に今のところ剣にアイデンティティを全振りしているティロは、剣を持つと無自覚にカラン家の血が覚醒している状況です。ここでノットに指摘され、ティロは以降殺気を抑えるよう心がけることになります。



「今年こそぐんと背が伸びますように!」

→事件編では他人から見て「背は高くないな」くらいの身長であるため特に言及はありませんでしたが、本人はとても気にしていたようです。ただ彼の低身長の理由は「睡眠不足と高ストレスによるもの」であるため、改善はこのまま成されることはありません。ちなみに現代日本で当てはめると、彼は成人して大体165cmくらい(極端に低いわけではないが、何かのスポーツをする上では不利になるくらいの身長)を想定しています。



「ロッカーに耐えて、なんで睡眠薬は我慢できなかったんだ?」

→ひとことで言えば、既にティロもノットも「薬物依存」であるためです。この辺から徐々にこの作品全体に横たわる「依存」の話が見えてきます。ちなみに序章のタイトル「ADDICTOON」は日本語で嗜癖(特定のものを好むこと)といい、主に依存症の文脈で使われる言葉です。



「幸運のコイン」

→依存症と言えばアルコールや薬物などが思い浮かぶと思いますが、窃盗症も依存症の一種と考えられています。特にレシオの場合は盗みを成功させるスリルと達成感、親からの賞賛という成功報酬が大きかったこともあり「盗み=快感」という結びつきが強固になってしまいました。この後どんなに頭で「盗みはいけない」とわかっていても、身体が快感を求めるように盗みを行う、というのが依存症の怖いところです。そういうわけで手が出ないよう物理的に手を塞ぐ、つまり何か別のことをして盗みたい衝動が収まるのを待つ、ということで彼の手品は始まりました。これは依存症治療では珍しくない話です。



「単独縦走訓練」

→なんでこんな危険な訓練をやっているのかというのにも理由があるのですが、それはそのうち明らかになります。そしてティロがこの訓練で山歩きに慣れていたというのがいろんな場面で発揮されてきます。例えば事件編で彼を「山の知識が豊富」って言ってる人がいたりですね……。



「突然の失踪」

→既に事件編で彼が故人であり、遺体が見つかったことが示唆されていました。彼の名誉のために言うなら、危険な野生動物に遭遇して逃げていたところ足を滑らせたというような筋書きが一応あります。どんなに優秀な人物でも運次第で命を落とすのが山です。



《第5話》


「せめて目だけでも見ないようにしたい」

→事件編で散々顔を隠していた理由はこれでした。特に目元は姉弟ともばっちり母親譲りとなっていて、見る人が見たらわかるくらいではあります。



「別に俺、きれいな女見たからってどうも思わないし」

→ここでひとつだけ言えることは、この発言はシャスタが極度の人間不信であるため男女問わず他人に等しく興味がないというところから出ている言葉で、彼が決して女性に興味が無いわけではないということくらいです。それは事件編を読めばよくわかると思いますし、事件編でティロが驚いていた理由でもあります。



「胸と穴さえあればいいってもんじゃない」

→この辺は女性が聞いたら気分が悪くなるようなことを言ってますが、育ちが非常によくない上に閉鎖環境に入れられている13~15歳くらいの男子の発言なのでこのくらいは言うだろうということで書いてます。怒らないでね。



「俺のものだからな!」

→この2人の関係は一体何なんだというのが事件編でも少し問題になっていましたが、予備隊の環境や2人の拗れたメンタル(特にティロ)などを考慮すると「そういうこと」がないほうがおかしいという結論に作者は至りました。


 そもそも無自覚善人のティロと四六時中一緒にいてどうにもならないことはないのです。そういうわけでシャスタの初恋はティロです。これで彼が事件編で何故ティロに執着しているのか、という大きな理由のひとつが明らかになりましたがこれが決定打ではありません。あくまでも要因のひとつというだけです。



「お前ら……みんな俺のことそんな風に見てたのか……」

→事件編でも散々顔のコンプレックスの話は出ていたのですが、彼の内心を覗くとただ嫌いというわけではなく「姉」というあらゆる感情を引き出すものを思い出すという深刻な事情がありました。そして少なくともシャスタからはそう見られていることは自覚しています。



「自分の顔を通して姉が認められている」

→ティロの非常に面倒くさいところは「自分の顔を褒められる→姉が褒められる→姉は素晴らしい」に直結するところです。そして姉を思い出すと一連の凶行も思い出されて嫌な気分になるという最悪なループです。完全なシスコン及びマザコンなのですが、一種のナルシシズムでもあり本気で最悪です。これが対男だとこういう感情になりますが、対女だとどうなるのかというのは、この後のお楽しみです。



「情報局」

→基本的に革命家をしょっ引いて拷問や処刑を担当するところです。作戦局は主に特殊工作や暗殺、潜入局は情報収集と情報操作です。ただ一応局で分かれていますが、オルド攻略など大きな動きがあるときは一枚岩になるのが特務です。そして予備隊出身者はどこの局でも所属できるので重宝されています。



「シャスタが神妙な顔になっていた」

→既に事件編でシャスタが聖獅子騎士団で育ったことは書かれています。それは予備隊側も把握していなかったために、彼はこのことを誰にも言わずに過ごしています。この辺の彼の心境はいろいろと想像してみてください。



「拳銃」

→この世界では銃は一応あるけれど一般で実用化されていないため、こんな形でしか出てきません。何故なら銃があると話が進まないためです(!)。最初は銃なしで書いていたのですが、そうすると火薬倉庫の必然性がなくなるためにこういうことになっています。基本的に持ち運びサイズのものは性能がまだよくなく、こういう処刑用や狩猟用に少し出回っているという形になっています。



「馬8」

→犬1犬2に次いで登場するしょうもない名前。これでも一生懸命考えているんです。



「俺だって一生懸命考えてるんだけどな」

→彼はこれで一生懸命考えているつもりです。彼がこうなっている理由の大部分は「圧倒的センスのなさ」なのですが、根本には「俺なんかが他人の人生に踏み込めるはずがない」という自己肯定感の低さがあります。



「俺なんかにそんな立派なこと言う資格ないよな」

→事件編では彼は過激派組織から聖名「サフィロ」として呼ばれていたことが示唆されています。この聖名がどういったものなのかは割と想像が付くと思うのですが、それじゃ「シャスタ」という名前はどこから来たのかというのは彼の大きな謎のひとつであります。この辺りの事情は後々本人から語ってもらう予定です。



「俺たち、友達だよな?」

→事件編でも出てくる台詞ですが、全容編を読んでから戻ってくると結構重たい台詞になってくるはずです。これは「友達」の話なのです。



《第6話》


「わかった、頑張ってみる」

→死ぬなよ、というシャスタに返した言葉。執行編で「死なないでね」と発起人ライラに声をかけられたティロが返した言葉を見ると、この返事は彼の中で死亡フラグらしいです。



「この欠陥品が」

→この教官はずっとティロに付き添っていましたが、あまりにも地下に入れないティロに本当にイライラして何気なく呟いたのだと思われます。ただそれがティロの人生を変えるほどのキラーワードになるとは思ってもいなかったでしょう。



「河原」

→何で河原があるのかと言えば、ここが死後の世界の入り口だからです。事件編で「リィアには川があるから工業が発達した」と記述がありましたが、実際の因果は逆で「リィアでティロが死を想起しまくるから川が生まれ、リィアは工業が発達した」のです。なお事件編でわかるとおり、ティロはこの河原を気に入ってこの後入り浸ることになります。



「黒いもの」

→作中で明記はしませんでしたが、ティロは完全に抑うつ状態になっています。実はエディアを出てからずっと気持ちを張り詰めていたのですが、今回の「欠陥品」でその糸がぷっつり切れた状態になり、心身共に全く動かないところまで追い詰められました。今後彼はずっとこの「死にたい」という気持ちと戦っていくことになります。



「それほど強い殺気を放っていたのよ、あなた」

→この辺の事情を踏まえて再度亡霊編に戻ってみると、強制入院の背景などが見えてくると思います。ティロは「自分の正体がばれたらどうしよう」としか考えていませんでしたが、周囲から見ると異様に敵意をむき出しにしている子供だったわけです。



「あなたにも直にわかるわ」

→クロノは発起人ライラのミラーキャラです。生まれも育ちもよくわからない中で犯罪に手を染めて生きてきたのは一緒ですが、そこで予備隊に入れさせられたクロノとひとりぼっちで生き続けたライラという違いがあります。その辺を踏まえると、彼女が欲していたものが何かは大体わかると思います。そしてライラも一歩間違えれば予備隊にぶち込まれていたかもしれません。



「結局ティロとシャスタはどういう関係だったの?」

→本編で示唆されているとおり、ティロからするとシャスタは死んだアルセイドの身代わりでした。「別に俺でなくてもいいのか」とシャスタに詰め寄っていたのは、自分がそうであることが後ろめたかったからというのもあります。ではシャスタはティロのことをどう思っていたのか、というのは特務予備隊編では明言されません。2人が腹を割って話すことが出来ればわかるかもしれません。



《第7話》


「人殺したことあるのか?」

→前科者であることに加えて特務では日常的に処刑が行われているという偏見から放たれた何気ない質問です。ここでティロが重く沈黙したことで周囲は「触っちゃダメな奴」という認定をしてしまいました。



「まともに素振りも出来ないくせに偉そうなことぬかすな!」

→失礼なことこの上ないのですが、そもそもティロは自分の剣技だけでなく「指導する」ことを前提に鍛錬を重ねてきたという背景があります。実際、彼がデイノ・カランの孫だと知れば血相を変えて対応されるだろうことは想定されるので、ティロは肩書きというものの残酷さを嫌というほど思い知らされています。



「手加減するなって言ったから真面目に試合しただけなのに!!」

→ティロが空気読めてないのも間違いはないのですが、この一般兵の集団は最初からティロを異分子として扱っています。剣技の稽古という自分のアイデンティティに関する場所で爪弾きにされたことで、ただでさえ自殺未遂をしたばかりのティロはかなり打ち砕かれてしまいました。



「自分の気持ちを吐き出していく」

→ティロとしては「友達」に聞いてもらっているつもりなのですが、完全にひとりでぶつぶつ言ってるだけです。これはある意味彼の現実逃避であり、「本当はひとりじゃない」と思い込む防衛機制のひとつであります。



「温めた牛乳に蜂蜜を溶かしただけのものなんだけど」

→何故ティロが消えたのか、野暮ですが説明をすると姉を強烈に思い出して自分でもどうしたらいいかよくわからなくなった結果、代金だけ置いて店を飛び出すという行為に出ています。その後は人影のないところで指輪を握りしめて過呼吸で倒れていました。



「その辺で拾ってきたぼろぼろの上着」

→事件編でゴミみたいな格好をしている、とありましたが自分用に服を新調することをティロは恐れています。その捻れた心理状況は後ほど詳しく見ていく予定です。



「煙草と痛み止め」

→以前も書きましたが、この世界の煙草はニコチンではなくハッパです。そして痛み止めはモルヒネのようなものを想定しています。今回は粉末を経口摂取していますが、炙ったり注射したりもします。特に事件編で明らかになる通り、今後ティロは注射で痛み止めを繰り返し使用していくことになります。



「姉を慰めているような気分」

→あまりにも姉を拗らせているため、ティロは男に性的な目で見られると「姉さんが求められている」と嬉しくなってしまいます。そして女と性的なことをするときは「俺は姉さんを抱いているつもり」という発想になります。要はティロの性に関する事柄には全てが姉に直結するようになっています。結構最悪です。



「薬で気分がどうにかなっている時なら、平気で何でも出来た」

→結局自分の顔がいいことを自覚しているため、金と薬目当てで男(たまに女)に身体を売るまで行き着いたティロです。この辺は全年齢向けのためにここまでしか描写ができませんが、姉関係の他にティロは路上生活時代の様々なトラウマに基づく異常な性行動がいくつか存在しています。


 ひとつは「薬が絡まないと男女問わずセックスが出来ない」というもので、薬のためなら、もしくはキマってる状態でなければ彼は積極的に対人セックスができません。もうひとつはR15ではどう描写できるかわからないのですが、この世界では基本的にオーラルでのなにがしは男女問わずあんまりメジャーなことではないです。ところがティロはいろんなトラウマのせいで男女問わずオーラルOKというこの世界では珍しい嗜好をしています。


 とても描写できたものではないのですが、これで彼は稼いでいたのです。そしてこの辺のトラウマに関して明らかになるのは彼自身が一番思い出したくない出来事になるので、ずっと先です。



「安価な酒」

→おそらくウォッカのようなもの。この世界の人はウォッカでもワインでも原則酒は水で割って飲むのが当たり前なのですが、ティロは酔っ払うために水で割らずにそのまま流し込みます。現代日本で言うと500mlのストロングゼロを2缶くらい抱えているイメージです。



「女から金を巻き上げたということのほうにティロは快感を感じていた」

→事件編でおそらくトライト夫人を薬漬けにして財産を巻き上げたということや、フォルスが見た「詐欺」の萌芽がこれです。明確な加害行為に成功報酬を得たティロの中で強固に「薬漬けの女を騙して金を巻き上げる=楽しい」という図式が出来上がりました。この辺の話はもう少し後でもっとやる予定です。



「僕はそんなことしたくないよ」

→彼の心は一連の出来事を経て完全にバラバラになっています。その中で良心ももちろんいるわけなのですが、真面目に生きていてもいいことがひとつもないどころか悪いことをしたほうが得をするという誤った学習をしてしまいました。以降、ティロは自身を見失って積極的に自分や他人を傷つけて生きていくことになります。しかし根は良い奴なので、そんな自分がますます嫌いになっていきます。

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