13 ケーキバース(歩&理人)
俺は家を出ていたから、当時のことは詳しく知らなかったのだが、両親が病院へ連れて行き、フォークと診断されたらしい。
そして、しばらくぶりに再会したとき、俺がケーキだと判明してしまった。
フォークとは、ケーキである人間を「美味しい」と感じてしまう人間のことだ。通常の食べ物が喉を通らなくなり、痩せてしまった理人を受け入れたのは、当然のことだった。
「ふぁっ……兄ちゃん……兄ちゃん……」
理人は毎日俺の部屋に来てキスをせがむようになった。両親は何も言わないが、全てわかっているのだと思う。理人の衝動を受け止めてやれるのは兄の俺しかいない。
「ダメだっ……かじりつきたい……」
「少しならいいよ」
「んっ……」
肩に理人の歯が食い込んだ。鈍い痛みを奥歯を噛んで我慢した。血が出たらしく、理人はそれをペロペロと舐めた。
「甘いよぉ……」
「どんな味?」
「チョコレートみたい……」
フォークになると一生そのままだ。永遠に満たされない渇きを癒してやれるのが、他でもない兄の自分だということに、優越感があった。だから、多少の傷もどうということはない。
「もっと食べたい……止まらないよぉ……どうすればいいのっ……」
「血がいいなら、もっとあげるよ」
俺はカッターナイフで手首を切った。ためらいはなかった。理人はとろりとした瞳で血をすすった。
「ごめんね。ごめんね兄ちゃん。僕がフォークだから」
「いいんだよ、理人。俺がケーキで良かった。理人が他のケーキを襲わなくて済んだ」
「でも……いつか兄ちゃんのこと、殺しちゃうかもしれない。それがこわいんだ」
「俺は理人になら食われても構わないよ」
「どうして? どうして兄ちゃんはそこまで、僕のこと……」
「弟だからだよ」
俺は理人の頭を撫でた。そして、もう一度キスをした。
「俺以外のケーキを食うんじゃないぞ?」
「うん。僕には兄ちゃんだけ。ねえ……あっちも飲ませてよ……」
理人は俺のベルトに指をかけた。この前思い付きでやったことだったのだが、病み付きになってしまったらしい。俺は尋ねた。
「こっちはどんな味なんだ?」
「そうだなぁ……キャラメルみたい。どろどろしてて、舌触りも最高なんだぁ……」
生きる価値なんてないと思っていた俺が、こんなにも必要とされている。だから、満たされていた。本当に食われてしまうその日まで、俺は理人のために生きよう。
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