優斗の抱えていたもの

第27話 三島side 様子のおかしい藤崎

 藤崎の様子がおかしい。

 北野がそう言って俺に詰め寄ってきたのは、部活動紹介のあった次の日の昼休みのことだった。


「ねえ、藍に何があったのよ。どう見ても朝から様子がおかしいじゃない」


 北野はそう言って、教室の隅で一人席についている藤崎を見る。

 その藤崎はというと、どこか暗い表情をしていて、何か良くないことがあったんだろうと一目でわかった。


「何聞いても上の空だし、何かあったの? 昨日の部活紹介で、思うように演奏できてなかったとか?」

「そんなの俺だって分かんねえよ。そりゃ、演奏は上手くなかったけど、楽しかったって言ってたし、他にあったことといえば、顧問の先生が決まったくらいだ。後は知らねえ」


 藤崎の様子がおかしいことくらい、わざわざ北野に言われなくても、俺だって気づいてた。

 けどどうしたんだって聞いても、返って来たのは、何でもないの一言。

 しかもその声だって、元気がなかった。


 それで、何でもないわけないだろ。


 俺の答えにガッカリする北野だけど、話はまだ終わらない。


「心当たりとかも無いの?」

「だから、知らねえって言ってるだろ」


 知ってたら、こんなにモヤモヤしたりしない。

 俺だってずっと気になってるんだ。


「俺にどうこう言うより、お前が藤崎に直接聞いたらいいんじゃないか?」

「聞いたよ。だけど何も無いって言われて、それで終わり。そんな訳ないのに」


 北野も、こうしてわざわざ俺に声をかけるくらいだから、その前に藤崎に聞いていたのも当然か。


 北野は、藤崎の一番仲のいい友達だ。

 そんな北野が聞いてもダメだったなら、いよいよ、俺が何か聞いても話してくれるとは思えなかった。


「それじゃお手上げだな。お前で無理なら、俺にどうにかできるわけないだろ」


 それだけ言うと、席を立って教室から出て行く。

 後ろから北野の呼ぶ声が聞こえてきたが、振り返ることは無かった。















 けれど、俺がさっき北野に話したことには、少しだけ嘘があった。


 藤崎に何があったのかは知らない。けど、心当たりが全く無いわけじゃない。

 と言うか、あれだけ藤崎がの様子を変えてしまうものなんて、ひとつしか考えられない。

 有馬優斗先輩だ。


「先輩と、何かあったんだろうな」


 そこまで考えたところで、胸の奥がザワザワとして、落ち着かなくなる。


 面白くないんだ。藤崎が、先輩のことで喜ぶのも、悲しむのも。


 まだ俺や藤崎が小学生だった頃、誰よりも藤崎を笑顔にさせることができたのは、有馬先輩だった。


 俺が藤崎にあれこれちょっかいをかけて泣かせた時だって、そこに先輩がやってくれば、藤崎は決まって笑顔になった。

 それを見て、何度腹を立てたかわからない。


 けどな、俺の知る限り、一番藤崎を泣かせたのも、先輩なんだ。

 先輩が亡くなった時、藤崎がどんなに泣いていたかは、今でも昨日のことのように思い出せる。

 俺がどんな意地悪をした時だって、あんなに大泣きしたことなんてなかった。


 藤崎にとって、先輩はそれだけ大事な存在だった。

 藤崎の一番は、間違いなくあいつだった。


 まあ、例えどんなに大切に思っていても、今となっては過去の人。

 生きてる俺たちにとっては、二度と直接関わることのない相手だ。

 ほんの少し前までは、そんな風に思っていた。

 なのに────


 そんなことを考えながら、俺は本校舎をでて部室棟に、そして、軽音部部室の前に来ていた。

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