Chapter3-4 ホテル「ネオン・ドリーム」
ホテル内のレストランで食事を済ませた後、2人は廊下を歩いていた。ヘクトはその道中、あるものを見つけて歩み寄る。
「お、自動販売機だ。ビデオカードが売ってるぞ!」
背の低い自動販売機の中にカードが置かれている。それはビデオカードと呼ばれるものであり、客室のテレビに挿すことで有料の番組が見られるようになる商品のことだ。1枚1AMとやや割高ではあるが、様々な映画や「その他の映像作品」が見られるようになる。
「悪くねぇな。買っていくか」
パーソナルカードを取り出したヘクトの横で、少女が彼を冷ややかに見つめる。
「えっちなビデオ見るためのやつでしょ」
「!?」
ヘクトはパーソナルカードを落としかけて、慌てて空中で掴んだ。カードをポケットにしまい込むと、少女に向き直る。
「な……違うぞ! これは映画が見れるようになるカードだ」
「でもえっちなビデオも見れるようになるでしょ」
そういえば、こいつはそもそもホテル巡りをしてるんだった――ヘクトはもはや言い逃れはできないと見て腹を決める。
「そうだよ! これはエロビを見るためのカードだ! でも映画も見れるんだよ、嘘じゃねぇ!」
「私が同じ部屋にいるのにそんな変なの見ないでよ。それくらい我慢して」
「だからエロいのは見ねぇって! 誰かさんが内装変更の装置を嫌って使わせてくれないから、暇つぶしに映画見るんだよ!」
少女は痛いところを突かれ、それ以上何も言えなくなってしまった。代わりに顔を背ける。
「映画だけだからね。私が寝たと思って変なの見たりしないでよ」
「34のおっさんはそんなに性欲旺盛じゃねえよ」
ヘクトは改めて、パーソナルカードを翳しビデオカードを購入しようとする。……甲高いビープ音が鳴るばかりで、商品は出てこない。コンソール画面には、「SOLD OUT」……売り切れと表示されていた。
「……ん? 売り切れ?」
彼はそこで強い違和感を覚えた。或いはそれは探偵としての勘だったのかもしれない。
「……なぜ、売り切れる? テレビは全室に配置されてるんだから、普通に全室分カードはあるはずだ」
その上、性質上このカードは複数購入する必要が全くない。1枚購入すれば、ホテル滞在中は常に有料放送が利用可能だ。
万が一そのことを知らずに複数枚買った客がいたとしても、昼時でホテル利用者も少ないはずのこの時間帯ですでに売り切れというのは考え難い。
そこでヘクトは、サイバーネットにアクセスし、このホテルのビデオカードについて調べることにした。
青色の光が脳内で明滅し――わかったことは、どうやらこのホテルのビデオカードは基本的にいつでも売り切れているらしい、ということだった。
「……何かあるのか?」
ヘクトはその違和感を確かめるために、近くを歩いていたアンドロイドの従業員を呼び止める。
「なぁ、そこのアンタ。ここのビデオカード切れてるんだけど」
「申し訳ございません。そちらの自動販売機は現在故障中でございまして。代わりに、この場で決済いただければカードをお渡しいたします」
そう言ってアンドロイドは小型の決済装置を取り出した。彼はますます疑いと好奇心を強め、その場で購入し、カードを受け取った。
受け取ったカードは青白く、いたって普通のビデオカードのように見えた。それでも、どうにも気になる。
サイバーネット上の書き込みを見るに、自動販売機はかなり前からずっと売り切れている。その割に、従業員に話しかければ普通に出てくる……その上、従業員が都合よくいつも所持しており、決済装置まで持ち歩いている。
「……このカード、何かあるな。怪しいぜ」
少女はそんな彼の行動に対し何も言うことなく、後ろで欠伸をしていた。2人はエレベーターに乗り、自室に戻ろうとする。
その時、ヘクトは誤ってルームカードではなく、ビデオカードをエレベーターのカードリーダーに翳してしまった。
すると――「21階」のボタンが、ハイライトされた。
「……あ? 21階? 今俺……ええ?」
ヘクトは光るボタンと自らの手の中のビデオカードを交互に見る。とはいえ、事ここに至っては、事態は明白だった。
「……このビデオカードはダミー、カムフラージュってことか。本当はこのエレベーターに読ませて、『21階』に行かせるためのカードなんだ」
とにかく、ヘクトは溢れ出る好奇心を抑えられずに21階のボタンを押した。
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