#14 芸能界裏話
久々に街まで来たけど、やっぱり人が多いな。紐槻町が過疎ってるだけな気もするけど。
建物も軒並みでかいよなぁ。そりゃ皆、地元離れるわな。
「んっ」
人口密度と文明の差に感動していたら、夢咲さんが手を差し出してくる。え? お金返せってこと?
「どうしました?」
「鈍感すぎでしょ」
ケラケラと笑いながら俺の手を握る夢咲さん。羽衣さんや天馬さんほどではないが小さくて柔らかい。先ほど、電車で触らされた太ももほどではないが、柔らかい。
(誰も見てないよな? 都会だし)
挙動不審にならない程度に周りを見渡す。
手を握る以上のことをしてきたが、それでもやはり恥ずかしい。
「ほら、行くよ」
え? 繋いだまま行く気? アナタは俺とどういう関係?
「俺はただの荷物持ちですよね? なんで手なんか……」
「言ったっしょ、街デートだって」
いや、ただの冗談だとばかり。
ルックスに差がありすぎて、レンタル彼女感が凄いんだけど。
「なんで俺なんかと?」
あえて聞いてなかったけど、恋人とかいないのか? あの五人の中で一番、彼氏いても不思議じゃないんだけど。
「ほら、アタシって露出高いじゃん?」
「取り立ててってわけじゃないですけど、まあ」
そんなに肌を出すと、逆に暑くないか? 屋内ならいいんだろうけど、屋外は直射日光あるし。
「で、スタイル結構いいじゃん?」
「言っていいのかわからないですが、確かに五人の中では一番いいですね」
他が貧相ってのもあるけど、それ抜きにしてもスタイルいいよな。グラビアアイドルとかには負けるだろうけど。
俺の予想では京さんも、脱いだら凄いパターンな気がする。だとしても夢咲さんの方がスタイルいいんだろうな。
「んで、可愛いじゃん? 未智達には負けるかもだけどさ」
「負けるかどうかは知りませんが、まあ皆さん美形ですね……」
危ない、危ない。「俺なんかと違って」って自虐するところだったよ。電車から降りたとはいえ、屋外で痴女攻撃をされてはかなわん。
「なんとなく言いたいことはわかりましたよ。ナンパ対策ですね?」
「おっ、頭いいじゃん」
誰でもわかるよ。なんだったら露出云々の時点で分かったよ。分かったんだけどさ……。
「なんというか、女性って凄いですね」
「え? なして?」
「だって、オシャレのために直射日光とかナンパを恐れずに、露出高い服を着るんですから。あ、馬鹿にしてるわけじゃないですよ」
思えばハイヒールとかまさにだよな。素人目に見ても足に悪いだろ、あんなん。
「直射日光は考えてなかったけど、ナンパはそうだね。あんなの気にして服選ぶの馬鹿らしいじゃん?」
「美人も大変なんですね」
まあ、基本的にメリットの方が大きいんだろうけど。
就職とか人間関係で、本人も知らない内に得してたりするだろうし。
「でも不思議なんだよね。街に出ても全然スカウトされないしさ」
「スカウトって、モデルとかアイドルのですか?」
「そーそー。実はそこまで可愛くないのかな」
珍しく自分の容姿に自信を無くす夢咲さん。「そこまで」って辺りに、平均よりは間違いなく上だっていう自信が垣間見える。
とりあえずフォローしといてあげるか。生半可な知識しかないけど。
「逆じゃないですか? 可愛いからスカウトされないんだと思いますよ」
「へ? なんで?」
素っ頓狂な声をあげて俺の方を見る。
気持ちはわかるよ。一見、筋が通ってないからな。
「よほど大手の事務所なら可愛い子に声かけるんでしょうけど、無名の事務所は逆だって聞きますよ」
「どゆこと? 無名こそ美人ゲットしないとダメっしょ?」
「そりゃゲットできるならするんでしょうけど、普通はできないでしょう? 特別扱いになれてる女性が、わざわざ無名の事務所に行きませんって」
一般レベルの女性よりも、事務所事情に詳しいだろうしな。聞いたことないような事務所なんて、相手にせんよ。
「言われてみりゃそうだけど、それでもダメ元で行くもんじゃないの?」
「別の事務所に所属しててトラブルなっても嫌ですし、それ以前に活かしきれないと思いますよ?」
「活かしきれない?」
聞きかじりの知識で話しているのだが、めちゃくちゃ興味津々のご様子。
「ネームバリューとか肩書きが大事な世界だと思うんですよ。もし夢咲さんが大手事務所のモデルだったら『クラスで一番可愛い子』から『百万人に一人の美少女』って扱いになりますよ」
容姿なんて、スポーツや学力テストと違って明確に数字が出せないしな。
「そういうもんかな、えへへ」
どこにニヤニヤする要素があったんだろうか。
「三流美大の学生が描いた作品でも、『有名な画家の作品だ』って言い張れば、上流階級気取りの成金達はべた褒めするんです。逆もしかりですよ」
っていうか、実際にどっかの誰かが実験してなかったか? 知らんけど。
「へぇ、言われてみたら音楽とかもそうかも」
「多分、目先のお金を考えると、可愛くない人をスカウトした方が得なんですよ」
「え? それは違くない?」
目を真ん丸にする夢咲さん。どうでもいいけど、お互いに手汗凄いから手を離したい。炎天下ぞ?
「いやいや、自他ともに認める美女の夢咲さんにはわからないでしょうけど、可愛くない子ってやっぱり冷たくされるんですよ」
男よりはマシな扱いかもしれんけど、露骨に贔屓されるというのが現実だ。俺は容姿に恵まれない側だから、なるべく差別はしないようにしてるけど、無意識に対応の差が生じてる可能性は否定できない。
「んん? 進次郎君の言いたいことはわかるよ? 確かに可愛くない子って、無名の事務所でもスカウトされたら勘違いすると思うよ。でも、そんな子スカウトしても仕方なくない? 言っちゃ悪いけど」
「普通の会社だったら人件費の無駄でしょうけど、モデルの事務所はそうでもないと思うんですよ」
いや、まともな事務所なら人件費の無駄になるんだろうけど、アコギな事務所ってスカウトする分には損失少ないと思うんだ。あんまり知らんけど。
「トレーニング代として、お金を取るらしいですよ? 無名の事務所って」
「えー!? 普通はタダじゃないの!?」
サラリーマンならそうだろうな。むしろお金貰ってトレーニングすると思うよ。研修中は給料出ませんとか、昔はあったかもしれんが、今は即炎上だろ。
「万が一ブレイクしたら万々歳ですし、よそが蹴ったしょうもない仕事をいくつかこなして引退でも上等です」
まあ、何年か前に動画かなんかで見たってレベルの知識だから、実際のところは知らんけどさ。
「そっかぁ。嫌な世界なんだねぇ」
「まあまあ、今のはアコギな事務所の話ですよ」
大手は大手で、深い闇があると思うけどな。
声優とかプロゲーマーのアイドル化も、寝具の匂いがする。ああ、枕って意味ね。
「アナタたち五人が組めば、後ろ暗いことしなくても爆売れしそうですけどね」
ごめん、ちょっと媚び売った。絶対にそんな甘い世界じゃない。
「なるへそ。そっち路線も考えとこっかな」
ギャルジョークだよな? 影山さん絶対にやってくれないし、天馬さんは現時点でアラサーだぞ? 羽衣さんは小説のネタに乗ってくれるかもしれんけど、プロデューサー側に行きそうだな。京さんは……売れるだろうけど柄じゃなさそう。
「経営とか勉強しといてね。お金は私らでなんとかするから」
ギャルジョークだよな?
「はは、夢咲さんは芸能界に興味あるんですか?」
あるならオーディションとか行けばいいのに。好印象からスタートできるだろ。
「あんまないかな。見る側が一番だよ」
ないのかよ! この流れで!
「進次郎君のおかげでスッキリしたよ、ありがと」
感謝されるようなことをした覚えはないが、素直に受け取っておく。
(本当にジョークでいいんだよな……? 芸能事務所の経営とか無理だぞ?)
冗談通じる方ではあるんだけど、この手の冗談はやめてほしいね。
不安の種を植え付けられたまま生活したくないんだよ。
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