第30話 貴重な人材


「おかえりぃ、今日はちょっと遅かったねぇ」


 扉をノックすると、エプロン姿のルリアが鍵を開けて出迎えてくれるが、何故か片手に"おたま"を持っている。


 料理中だったのだろうか、はたまた″可愛い″のための小道具なのかとも思ったが、奥からいい匂いがしてきたので、前者だったのだろう。


「ただいま。仕事終わりにちょっと話しこんじゃってな」


「ふーん」


 尋ねてきた割に何とも興味が薄そうである。

 それなら聞かなくても良かったのではと思うが、会話の流れでなんとなく聞いたのだろうと勝手に納得する事にした。


「あ、ご飯にする?それとも水浴び?それともー」


 何やらもじもじとしだすので、余計な事を言い始める前に、ご飯で、と返答する。


「む……まぁオッケー。それじゃあ準備するねぇ」


 一瞬頬を膨らませたが、すぐに機嫌を治してリビングへと戻っていくので、そのままついていく。

 俺は荷物を布団の脇に置き、その間にルリアは手際よく、既に作ってあったであろう料理をテーブルに綺麗に並べていく。


 テーブルの上に目をやると、どうやら今日の晩御飯は、野菜サラダと、ハンバーグ……のようなものが添えられたライスの組み合わせだ。


 料理名を聞いてみると、ハンバーグも覚えてないのかと目を見開かれてまで驚かれた。どうやら俺の中で起きている『自動翻訳』で、ほとんどのものが日本と同じ名称になっているようだった。

 サラダはサラダだし、ミニトマトのような赤く丸い野菜はミニトマトだった。


 何とも変な感じがしたが、明日以降固有名詞を言う事に戸惑わなくて良くなったので、良しとする。


 というか『焼き飯』が『焼き飯』であった時点で気づくべきだったという考えに至るのは、数日後の事だった。


 改めてルリアが作ってくれた料理を眺めると、ミニトマトや茹でた卵の周りに敷かれているレタスは、みずみずしくてとても美味しそうだ。


 ハンバーグも、肉汁が浮いていてとても美味しそうだ。おっさんの体だったなら少々キツいだろうが、今は若い体なのできっと大丈夫だろう。


「今日も美味そうだな」


「にへへ、でしょー? いっぱい食べてねぇ」


「それじゃあ、冷めちゃう前に……いただきます」


「どーぞぉ、召し上がれー」


 早速ハンバーグを切り分けて、ライスの上に数回ドロップして口に頬張ると、予想通りの旨味が肉汁と共に押し寄せてくる。

 すかさず先程肉汁をほどよく付着させたライスも同時に頬張ると、口の中がカーニバル状態である。


 俺が食べている様子を、ニマニマとしながらしばらく見てくるルリアに、

「あんまりジロジロ見るなよ、てか食わないのか?」

 と聞くと、食べる食べるといって、ルリアもハンバーグを食べ始めた。



 食事をしながら、日中『ノヴェライト図書館』へ行った話をすると、お勉強出来て偉いねぇと子供を褒めるような言い方をされながらテーブル越しに頭を撫でてこようとするので、伸びてきた腕に中指で軽くピシッとデコピンならぬウデピンを食らわせる。

 いてっと腕を引っ込め、大げさに腕をさすりながら、レイちゃんのいけずーと罵ってくる。


「んで、結局ぅ知りたい事は知れたの?」


「まぁ大体は。後は、俺自身のスキルを確認してって感じかな」


「んふふふふふ……」


「……何だ、気味の悪い」


「気味が悪いはひどくない!?」


「だったら何の笑いだよ」


「よくぞ聞いてくれましたぁ! 何を隠そう、このルリアちゃん様は、スキルチェックが可能な『分析スキル』持ちなのでしたー!」


 わざわざ椅子から立ち上がり、椅子に片足を乗せ胸に手を当てて、声高々にそう宣言する。

 というか分析スキルってそこそこ貴重なんじゃと思いつつも、なら何故教えてくれなかったのかと疑問に思い、尋ねてみると


「だってぇ、いきなり教えちゃってたらぁ、ボクのぉ、あ・り・が・た・み・が、分からなかったでしょぉ?」


 なんとも俗物的というか、ルリアらしい理由出会ったため、そーですかと適当に相槌を打つと満足げに続けて、

「そうそう! だからぁ、レイちゃんがどーしてもぉって言うなら、と・く・べ・つ・に、友達価格ってやつで調べてあげてもいいよぉ?」


「金はしっかり取るのな……」


「そりゃそーだよぉ。普通にスキルチェックを依頼したら銀貨十枚は取られるのが相場なんだよぉ? 本当に貴重なスキルなんだからー。ちゃんと理解ってるぅ?」


 そう言われると、確かに気軽にタダで請け負うようなものではないのだろうと感じる。

 日本でも、何か専門的な知識や技術を持っていると、友達なんだからタダでやってくれるよね、的な事案はよく聞く話だ。

 俺は、素直に良くない考え方だったとルリアに謝る。

 ルリアは、分かればよろしいと満足げに頷いた。


「ってことで、レイちゃんはー、特別に銀貨五枚でいいからねぇ」


「銀貨五枚かぁ……」


 現在、手持ちの金銭を確認してみるが、だいたい銀貨一枚程度である。スキルの確認は、もう少し働いて稼いでからになりそうだ。


「今はまだ依頼出来なさそうだ。しばらく働いて、銀貨五枚分揃ったときにお願いするよ」


「オッケー。仕事前じゃなかったらいつでもいいからねー。ちなみに、覚えたかったら、ちゃんと相場分の支払いはしてもらうけれどー、伝授もしてあげれるからねー」


 聞き覚えの無いスキル名が出てきて、思わず聞き返してしまう。すると、人差し指を立ててルリアが説明を始めた。


「まず、ボクのスキルは分析・伝授・添付、あとは装飾に家庭料理なんだけれど……、伝授っていうスキルは他人に自分のスキルを教える事が出来るんだぁ」


「それってものすごい事なんじゃないのか?」


「そだよー。ただねぇ、気安く伝授をしまくってたら、身が持たないんだよぉ……。伝授ってすごい体力使うんだよねぇ……。だから、ある程度しっかりとした金額は請求させてもらうし、一ヶ月に一回までって縛りもギルド規約で定められてるだよぉ」


 つまり、ただでさえ貴重な"分析+添付スキル"持ちというだけでなく、『伝授』という"チートスキル"まで持ち合わせているという事は、こいつルリアは人材としてはかなり貴重なのではないだろうかと感じた。


 それと同時に、でもギルドに雇われている理由が理解わかってしまった。

 ギルドからすれば、まともに仕事をするしない問わず、確保しておきた人材なのだろう。


「だから、レイちゃんとはいえ、決まりは守ってもらわないとね」


 俺はもちろんだと頷く。


「あーあとねぇ、スキルは、誰にでも何でも伝授出来るわけじゃないからねー。スキルについて調べたなら分かると思うけど、才能が無ければ、いくら伝授スキルを駆使しても覚えられないものは覚えられないから」


「まぁでも一応試してみる価値はありそうだよな。特に分析スキルなんかは、あるとかなり便利そうだし……。お金が溜まったらの話だが、その時はお願いするよ」


「おけおけー、いいよいいよー。レイちゃんだったら大歓迎ー」


 ルリアはどこか楽しげに、親指を立てながらそう言った。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る