第27話 都営図書館
防壁のそばとエリスさんから聞いていたので、なるべく壁を左方向にすえて北東方面へと進む。
地図もあるので、結果的には迷わずにたどり着く事ができたが、地図が無いと怪しかったかもしれない。
もっと街中を散策する必要もあるなぁと感じた。
都営図書館は、その名を『ノヴェライト都営図書館』といい、『ノヴェライト』というのはこの図書館設立に辺り、そのほとんどの費用を捻出したとある大商人の名前らしい。
約三階立て程の高さがり、白い壁面に窓はステンドグラスのような装飾。
屋根も所々いかにも、名デザイナーが造りましたと言わんばかりの、特殊な形状をした箇所があり、なんとも豪華で存在感のある建物であると感じる。
奥行きも、ちょっとしたデパートくらいある。
どれだけの本が納められているのか、想像もつかない。
日本でも、ここまで大きな図書館は見たことがなかった。
そもそも図書館に行く機会が無かったので、本当は日本にも同規模のものがあるのかもしれないが、今はもう確かめようもない。
しばらく外観を眺めていたが、本来の目的を思い出し、俺は開かれた大扉の前へと進んでいく。
高さが三メートルくらいの大きな大きな扉だ。
どうやって開け締めしているのか気になり扉を見てみると、大きな鎖と歯車か滑車のようなものが連結されていた。恐らく、数人がかりで回して閉じるのだろうと推測した。
入り口をくぐると、左右にカウンターが配置されており、左側に数人並んで何か手続きを行っている。しばらく眺めていると、何か首掛けの社員証のようなものを貰っている。
つい癖で社員証と誤認したが、普通に考えれば"入館証”みたいなものだろう。異世界生活数日程度では、社畜精神は抜けきらないらしい。
右側のカウンターを見ると、退館していく人たちが入館証を返却している姿が確認できた。恐らく帰りはあちらのカウンターで対応してもらうのだろう。
仕組みをなんとなく理解した俺は、左側の列に混ざり、自分の番が回ってくるのを待った。そして、五分もしないうちに、自分の番になる。
「ようこそ、ノヴェライト都営図書館へ。過去にご利用はございますか」
「いえ、初めて利用します」
「かしこまりました」
受付の人は、慣れた手付きで書類を数枚渡してくれる。どうやらそこに図書館の利用方法や決まり等が書かれているようで、後で必ず読むようにと伝えられる。
「入ってすぐ左手奥に、一人用の腰掛けが数か所ありますので、本を読まれる前にそちらでお読みになるのを推奨しております」
「分かりました。そうさせていただきます」
「それから、入館者登録を行います。何か、身分を証明出来るものはありますか」
突如身分証明と言われ、ドキリとする。
「あ、ギルドの会員証で大丈夫でしょうか」
「はい、大丈夫ですよ」
問題無い事が分かり、ホッと胸をなでおろす。
心の中で少しだけ感謝する。
「では、登録作業を行いますので、少々お待ち下さい」
そう言うと目にも止まらぬ速さで、書類に書き込みを行ったり、入場許可証らしきカードに手を加えていく。
ふと、これも何らかのスキルの恩恵なのか、それともただの慣れによるものなのかと思案している間に、どうやら俺の入館証が完成したようだ。
「こちらが入館証となります。紛失の場合、再発行手数料が発生致しますので、ご注意下さいませ」
「ありがとうございます。気をつけますね」
俺は首から入館証を付け、まずは先程渡された書類を読む為に、一人がけソファのような形状をした椅子に腰掛けた。
まず決まり事として、まず本の貸出は行っているが、別途料金が発生する事と、貸出不可の本もあるらしく、それはエリアごとに区分されているようだ。
この建物でいうと、二階と三階に位置する本は貸出が不可能らしい。それから、三階に登るには料金が別途発生するらしい。
二階までであれば、入館料は無料のようだ。
また、貸出の欄に『盗難は地獄を見る事になりますので、絶対になさらないで下さい』と、禍々しい字体で書かれている。
一体、どうなってしまうのだろう……。
そんなことをするつもりは無いが、思わず身震いする。
それから、共に渡された図書館のマップを確認すると、三階には、何やら重要そうな書物等が保管されているようだ。
今のところ、用はないので行くことは無いだろう。
一般的な情報書物については一階フロアにあるようで、恐らくスキルに関する本も一階にあることだろう。
また、マップを見て気づいたのだが、どうやら地下もあるらしく、こちらは貯蔵庫になっているようで、一般には開放されておらず、職員専用のエリアのようだった。
あと書かれていたのは、本を大事に扱う事だったり、万が一の弁償についてや、図書館では騒がない事、本を読みながらの飲食は禁止だが、本を持たずに専用のスペースでなら可、といったようなおおよそ一般的と感じるルールが書かれていた。
一通り目を通したが、特別分からない事も難しい事も無かった為、俺はスキルについて書かれた本を探す事にした。
ただ、少し見渡しただけでもかなりの本が並んでいるのが分かる。この中から探すのは、もしかすると一苦労かもしれない。
貸出は可能だが、料金もかかってしまうし、なるべくここで読んでいきたい。
そうなると時間もある程度限られている為、早めに見つけておきたいのだが……。
一階フロアをあてもなく、しばらくウロウロとしながら目的の本がありそうな場所を散策していると、小さな囁く声で、不意に声をかけられた。
「何かお探しかにゃ?」
振り返るとピンク髪に猫耳を生やした女の子が、本を抱えながら立っていた。
俺は職員の人かと思い、
「あ、実はスキルについて書かれている本を探してまして……」
と伝えると、それならと手招きをされて、ある一角につれてきてもらった。
「これなんかがわかり易くてお勧めにゃ」
そういって本を手に取り、どうぞと渡してくれる。
「ありがとうございます。広すぎて困っていたところをでした」
「困った時はお互い様だよっ」
猫耳の女の子は満面の笑みを浮かべて、そのまま手をひらひらとさせて、去っていく。
しばらく女の子の背中を見送っていると、そのままテーブルにつき、本を読み始めていた。
良く見れば、腰元に入館証を留めている。職員ではなく、一般の入館者だったようだ。
俺自身も適当な席を見繕い、女の子が渡してくれた本に目を通すことにした。
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