第26話 休憩時間
「私のスキル……ですか?」
フォークで刺したデザートの欠片を口に運ぶのを中断してキリーカが返事をする。
「あぁ。だけど、そもそもこういう事を気軽に聞いていいかも分からないから、失礼に当たるなら答えなくてもいいからな」
そう言うと、キリーカはデザートを頬張り飲み込んでから答えた。
「いえ、私は聞かれても、気にしない、ので……大丈夫、です。聞いて失礼になるかは、ちょっと分からない、ですけど……」
「まぁ大丈夫じゃないかい? 秘密主義のやつもいるかもだけど、マウントを取るような意味合いじゃなけりゃ、失礼にはならないとおもうよ」
厨房から戻ってきたエリスさんが、会話に混ざってきた。バンダナを取り外し、タオルで汗を
「どうしてスキルの話なんかになったんだい?」
「実はですね……」
俺は、記憶がない為スキルもどんなものか深くは理解していないこと、そもそも自分のスキルも何かわかっていない事、どんなスキルがあるかもわかっていない事等を伝え、単に興味本位であることを伝えた。
「スキルは、スキルチェックの魔法が使える人に調べてもらうか、伝授してもらって自分で確認するんだよ」
エリスさんがそう言うと、キリーカもうんうんと頷く。
「一応、使い切りの巻物でチェックする方法もあるんだけれど、普通に調べてもらうよりかは、ちーっとばかし割高でねぇ……。ちなみにこの子は、巻物でチェックしたんだよ」
そういってキリーカの頭を撫でるエリスさん。キリーカがなすがままに頭を揺らしているが、その表情を見れば満更でもなさそうである。
「あたしはギルドでチェックしてもらったよ。ちなみに、調理と演算のスキルだったね。今のレベルはわからないけど、まぁ上がっていても三か四くらいじゃないかねぇ」
「私は……菓子職人が高くて……、低いですが、
「戦闘系のスキルも持ってるの? 凄いね」
「持ってても……使う機会が無い、ので……意味はない……ですけどね」
なんともいえない組み合わせと感じたが、自分の身を守るスキルと考えれば、少し羨ましく感じた。
まだ何も試していないが、とても自分に戦闘系のスキルがあるようには思えなかった為だ。
どうせなら、漫画の主人公のように、格好良く戦ったりもしてみたくもある。
年をとっても男の子は男の子のままとよく言うが、その通りである。
「それに、調理と菓子職人は違う個々のスキルなんですね」
「わかりやすく言えば、菓子職人は、調理スキルの中でも菓子類に特化してるスキルって感じだね。調理は、広く浅くって感じと思ってもらえてばわかりやすいかねぇ。だから、お菓子づくりに限ってはこの子の方が才能があるし、上手なのさ」
エリスさんがキリーカの頬を指先でむにむにとする。当の本人は少し嫌そうにしているが、抵抗はしていない、ように見える。
「なるほど。では、スキルの種類は、かなりの数がありそうですね」
「そうさね。スキルに興味があるなら、
「そうですね……早速行ってみようと思います。夜の営業までには戻りますので」
「都営図書館は街の反対側、北東側だからね。少し遠いし、多少遅れてもいいから、じっくり読んでおいで」
「お気遣いありがとうございます」
俺は頭を下げてから立ち上がると、最低限の荷物だけを鞄に入れ直した。
「……」
いざ食堂を後にしようとしていると、なんだかキリーカから視線を感じた気がした。
少し気になったので、声をかけてみた。
「どうした? 何か用があったかな」
「っ! ぁ、……いえ、その、なんでもない、です」
「そう?何かあったら帰ってきてからでも聞くからね」
「……はい」
キリーカが深く俯き、ただでさえ見えない顔が、口元しか見えなくなる。
エリスさんは、やれやれといった仕草をしている。俺は何か、選択肢を間違えたのだろうか……。
考えても理由が浮かんでこない。
「えっと……ひとまず行ってくるけど、また今度、沢山お話聞かせてね」
「……はい。楽しみにして、ます」
顔を少し上げて、緩んだ口元を見せてくれる。
何か話したい事があったのかもしれない。
悪いことをした。そうだ、何かお土産でも買ってよう。
そう思い帰りに市場に寄ることに決めた。
「それじゃあまた」
「あいよ、迷子になるんじゃないよ」
「大丈夫ですよ。……多分」
「いってらっしゃい、です」
「うん、行ってきます」
最後にキリーカの頭を掌でポフポフすると、ビクッと体を震わせてまた俯いてしまった。
……ちょっと気持ち悪かっただろうか。またもや反省である。
ふと横を見ると、エリスさんはクスクスと笑いを堪えているような様子だ。
なんとも情けなくなる。
そうして背中を少し丸めながらも、俺は図書館を目指し歩き始めた。
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