倫理的な毎日の、非道徳的な一日
ごくりとつばを飲み、俺は天ヶ瀬女史から紙を受け取る。紙と聞くと某川越晴貴の凶行を思い出すが、彼女はその側でないと信じ、二つ折りにされた紙を開く。
2のA 川越班
男子2名/女子3名 計5名
朝山 麗奈
天ヶ瀬 千夏
川越 晴貴
時矢
堀内 翔馬
ひゃっほう! 苦節一年半、やっとこさ希望的観測が当たった瞬間である。観測し続けてよかった。運命的なディスティニーだ。
同性の友人を作るという、班決めに際した計画はやらずじまいに終わってしまったが、この結果からして、仮にやったとしても不発だったんだから、まあいい。
……それにしても、上三人はキャラとか似てる気もするし、まあわからんでもないが(俺の今までの観察からして、晴貴は男子とばかりつるんでいるし、朝山は男子とも話すが晴貴と話すことはほとんどない。そして天ヶ瀬と晴貴に接点があるのは今日初めて知った。彼女はノーマークだったため交友関係は不明。)、問題は時矢だ。時矢は朝山たちとつるむような人間ではなかったはず。彼女も天ヶ瀬と同じく全く知らない人間であるが、遡ること一年前、俺が図書室に居場所を求めていた時期に、よく見かけた。
見かけたというか、彼女は図書委員だ。彼女とは本の貸出の際、よく会話をした。それは孤独に戸惑っていた当時の俺の、唯一の楽しみでもあった。
『えーっと……1年A組の堀内翔馬さんですね。ではこちら貸出ですね。』
『あっ、どうも』
この会話は、今でも俺を支えてくれていると言って過言ではない。
そこで浮かんでくるのは、……いやよそう。
「あっ、堀内君、同じ班だね。そうは言っても、私は昨日から知ってるんだけどね……、へへ」
「やあ、時矢さん。どうぞよろしく……ふふふ」
「おーい翔馬〜! この班どうやって決まったと思う?」
「黙りなさい、川越! いい? 朝山ちゃんのためにも、絶対に余計なこと言うんじゃないわよ!」
「まぁまぁ、天ヶ瀬さん。どっちみちいつかはバレることなんだし。……えーっとね、堀内。落ち着いて聞いてね。絶対に絶対に絶対に"
朝山が普通に接してくれてる! 嬉しい!
「"黄昏時"にそんな読み方はない。安心しろ、朝山。俺は今日一日で三つくらい修羅場をくぐり抜けてきたところだ」
「この班、余り物だけで組まされたんだぜ!」
「川越君! 折角私がマイルドな言い方考えてたのに〜」
「そっちのほうが余計傷つくって! な、翔馬?」
「あ、やっぱそっちでいくんだ」
「ははは……」
「ふへへ……。ということで、改めて、よろしくお願いしますね、堀内君」
「凹むなぁ……」
失礼ながら、時矢さんはまだわかる。だが残り三人は?
「なんてな!
「晴貴、アンタって奴は〜!!」
! 朝山が無言で顔を赤くしている……! 可愛い!
俺の希望的観測は外れる。そんな絶対的事象の反例が、証明不可能とまで自答していた反例が、示された、そんな一日だった。
本日朝の天気は晴れ、時が過ぎ夜になっても晴れ。どこまでも翔んでいけそうな、透き通るような青空だ。
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