4月26日
「スイって部活やってないの?」
月曜日の放課後、
仮面のままお菓子を咥えるアカリが振ってきた話題は部活動について。
正直なところ興味があったので、入学してからの数日は部活動について調べていた。大本命のオカルト研究部は存在しておらず、それに似た部活もなかったため諦めたが。
「やってないけど、お前は」
「んー?」
「……アカリは?」
「やってないよ、
食い気味に、早口で否定された。学校のことを詮索されたく無いのならどうしてこの話題を振ったんだ。
「でも中学でバレーやってて、小学校でバスケやってた」
バレーにバスケか。団体競技は苦手そうな顔をしているので意外だ。顔は見たことがないが。
「神様のふり、しなくなったよな。最初は神様だーって言い張ってたのに」
ふと気になったので聞いてみた。神様に中学時代とかはないと思う。
「うっ。それはほら……良いじゃん別に!それよりも!スイは何やってたの?」
手でテーブルを叩き会話を切り返された。神様ごっこはやはり黒歴史になっていたか。
「俺……俺は、中学でパソコンやってた。それくらいかな」
本当は部活なんて入りたくなかったんだが、中学では必ず部活に入らねばならなかった。そのため適度に幽霊部員が多く、頻繁に活動していない楽そうな部を選んだのだ。
「パソコン!じゃ、あれできる?カタカタカターってやつ!」
「ブラインドタッチなら一応できるけど」
「おおーすごー!今度見せて!」
「見ても面白くないだろ」
一応、活動があれば参加はしていたのでそれなりのスキルは身についた。親もPCを買ってくれて、今ではオカルト系BBSの常連として楽しくやれている。あれも無駄じゃなかったな。
「じゃ、なんで高校でパソコンやんなかったの?」
「別にパソコンが好きなわけじゃない。そっちこそスポーツを続ければばよかったじゃないか」
「どうせやるならゲームがいいなー。ゲーム、結構好きなんだよねー」
それなら部活に入ればよかったのに。話したくないことなら聞かないが、ほんの少しだけ理由が気になる。
「スイはゲームとかしないの?」
「俺はしたことないな」
興味はある。嫌いなわけではない。ただ他にやりたいことがあったのだ。
「へー、じゃ、今度教えたげる。で、スイはやりたい部活とかないの?」
「オカルト研究部、探したけど無かった」
「オカ研?じゃあここ来たのって」
「別に。普通に好きなんだ、こういう所」
社務所の奥にあるこの部屋にいると忘れがちだが、ここは神社だ。
しかしこの雰囲気、もし部活に入っていたらこんな感じで放課後に集まってグレイなんかをテーマに会話に花を咲かせていたのだろうか。トレンチコートを着て有名なあの写真の真似をしたり。
楽しい部活動に縁のなかった俺は想像力に乏しいのかもしれない。楽しげに会話している同級生らはいったい何を話しているんだろう。
「なるほどなるほど、じゃあ神社に集まってる
奇しくもアカリも似たようなことを考えていた。なんだか悔しい。
「それは」
「じゃあゲーム部ってことで!」
アカリが突然立ち上がった。そもそも部活動ではないが、それっぽいと自分でも思ってしまったため否定が難しい。
「ゲーム?全然関係ないだろ」
「ある!
「来週?」
「ん?」
「来週って休みだろ」
「えっと」
なんの話かとアカリは首を傾げている。本気でわかっていないのか、それとも休みの日にもここに集まるつもりなのか。俺は学校の帰りに寄るスタンスなのだが。
今日は4月26日、来週は5月3日、憲法記念日だ。憲法記念日だと知らずともゴールデンウィークの真っ只中なので休日であることは理解できるはずだ。
そのことを説明するとアカリは手をポンと叩いた。どうやら本当に気づいていなかったらしい。
「そっかもうゴールデンウィークかー。時間経つの早いなー」
大人みたいなことを言うと、ボフッと勢いよく座布団に座った。埃が舞うのもそうだが、スカートが翻ってしまうのもよろしくない。
「あのさ、なんか予定とかある?ゴールデンウィーク」
「一応」
ここ数日、ゴールデンウィークに読みたい本を集めていた。
「あー、そっか」
残念そうに天井を見上げるアカリ。その仮面の奥で何を思っているのだろうか。
俺は何を気にしているんだ。
「それじゃ次は再来週かー」
「再来週はテスト期間だぞ。これが部活だったら休みなんじゃないか?」
「え?」
もしかしてテストの日程も把握してなかったのか?珠橋高校では5月17日から3日間、1学期中間試験になっている。原則としてその前一週間は部活動が行われなくなる。部活によっては活動が許可されているらしいが。
高校生になって初めてのテストだ。正直に言うと勉強は得意ではないので事前に勉強をしておきたい。
「そっかもうそんな時期かー。時間経つの早いなー」
ほんの少し前、同じような会話をした。デジャブか?
「じゃあ
「は?」
宇宙猫と呼ばれるネタ画像がある。これがBBSならば真っ先にその画像を貼ってやりたい気分だ。失礼な話だが(思えばアカリには随分と失礼なことばかり思っている)彼女が人に勉強を教えられるほど成績がいいとは思えなかったのだ。
「何そのリアクション!」
アカリがテーブルに両手をつき、詰め寄ってきた。この翁、近くで見ると随分綺麗な作りをしている。価値のあるものだったりするのだろうか。口の辺りがお菓子の油で光っている。
「失礼だけど、あまり成績がいいようには」
「なーっ!私結構いいんだけど!……ん?てかスイって何年?」
「一年」
「ならオッケー。一年のテストだったら全然大丈夫。じゃ、再来週はここで勉強会だかんね!」
衝撃的だった。今まで一度たりとも考えたことがなかった。アカリが年上だなんて。明言はされていないが、だがしかし。
人を見かけで判断してはいけない。俺はアカリにズタズタにされたこの信条を再度見つめ返した。
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