第24話 アダマンタートル戦 2

『オオオオオオオッ!!!!』


 城壁近くまで接近してきたアダマンタートルがえる。

 凄い声だ。城壁がビリビリと揺れているのが分かる。


「……それにしても、なんでアダマンタートルが襲ってきたんだろう。偶然、にしては出来すぎているような」

「そうですね、なにか理由があるのかもしれません」


 僕の呟きにサナさんが反応してくれる。


「理由ですか?」

「はい。アダマンタートルは普段は大人しいモンスターです。しかし一度敵対すると、しつこく追ってくる習性があります。なにかしらの理由で人間を憎む状態になっている可能性もあります」

「なるほど……」


 明らかにアダマンタートルはこちらに敵意を持っている。

 人間となにかトラブルがあった可能性は高いね。なにがあったかは気になるけど、ひとまず今は目の前のことに集中だ。


「おそらく先の地竜と飛竜はこのアダマンタートルから逃げてこちらに来たんでしょう。となるとこれを倒せばしばらくモンスターは来ないはず。頑張りましょう」

「はい。絶対に勝ちましょう」


 僕は城壁の上から下を見る。

 そこでは地上部隊のアリスたちが、アダマンタートルに向かって走っていた。


◇ ◇ ◇


「はああああっ!!」


 勇者の剣を手に、アリスが走る。

 目標は自分より遥かに大きなモンスター、アダマンタートル。


 アリスはアダマンタートルの前足めがけて、剣を振るう。


「――――そこっ!」


 アリスの鋭い一撃が、アダマンタートルの前足に命中する。

 キィン! という金属同士がぶつかり合うような甲高い音が響き、アダマンタートルの足に薄く傷が入る。


「はあ!? 硬すぎない!?」


 アダマンタートルはその名の通り『アダマンタイト』並みに硬い体皮をしている。並の剣では剣がへし折れてしまうだろう。

 傷をつけられただけでもアリスは凄いのだが……彼女は納得していなかった。


「ふんっ、大砲なんか使わなくても私が倒してやるわ!」


 テオドルフにいいところを見せたいアリスは、果敢に斬りかかる。

 だがアダマンタートルはそれを許さない。薄傷でも付けられたことをアダマンタートルは許せなかった。矮小な人間が自分を傷つけるなど許容できない。


『オアアアッ!!』


 アダマンタートルは口に魔力を溜め込み、足元を向く。

 そして溜め込んだ魔力をアリスに向かって放出する。それは一つの街を消し去るほどの威力を誇るアダマンタートルの必殺技だ。


「あ、まず」


 攻撃に夢中になっていたアリスは、回避が遅れる。

 普段であれば仲間のサナとマルティナがアシストしてくれるが、今この場にはいない。ダメージを食らうことを覚悟するアリスだが、思わぬ人物が彼女のもとにやってくる。


「……はっ!」


 それはメイドのレイラだった。

 彼女は高速でアリスのもとにやってくると、彼女を抱えてその場を去る。

 すると次の瞬間今までアリスがいた場所がアダマンタートルの攻撃によって消し飛ぶ・・・・

 あと少し遅れていれば直撃は避けられなかっただろう。


「あんた、どうして……」

「アリス様が傷つけば、テオ様も傷つかれます。それだけです」

「なるほどね……助かったわ。礼を言う」

「構いません。それより今はあれに集中を」

「ふんっ、誰に言ってんのよ!」


 アリスとレイラはお互いをカバーするようにアダマンタートルと戦う。

 共闘するのは初めてだったが、二人の息はバッチリと合っていた。ゴームとガルムもその戦いに加わり、アダマンタートルの足止めを遂行する。


「大砲、発射してください!」


 アリスたちが足止めしている間、城壁につけられた十門の大砲によって砲撃が行われる。

 それらは普通の大砲であり、アダマンタートルにダメージを与えられる威力はない。あくまでこの攻撃は気を引くためのもの、本命は口を開いた時に打ち込む魔導砲だ。


『ウウ……オアアッ!!』


 大砲をうっとうしく感じたのか、アダマンタートルはその大きな口に魔力を溜め込み、城壁に狙いを付ける。

 千載一遇のチャンス。四門の魔導砲の照準がアダマンタートルに狙いをつける。


「今です! 発射!」


 魔導砲から一斉に砲弾が放たれる。

 狙いすまされた砲弾は、全てアダマンタートルの口内に入る。


「やった!」


 テオドルフが喜んだ次の瞬間、砲弾がアダマンタートルの体内でボンッ! と爆発する。

 その衝撃でアダマンタートルの体は大きく揺れ、その場に膝をつく。アダマンタートルの顔は苦しそうで口からは煙を吹いている。


 どうやらダメージは甚大なようだ。


「やった! これなら……」


 価値を確信するテオドルフ。

 兵士たちからも歓声が上がる。


 しかしアダマンタートルの目はまだ死んではいなかった。


『ウ、オ、オオ、ガアアアアアッ!!!!』


 アダマンタートルは怒りの咆哮を上げると、立ち上がる。

 そしてズシンズシンと城壁めがけて突進してくる。アリスとレイラ、そしてゴーレムたちが攻撃して足止めしようとするが、アダマンタートルはそれを気にせず走り続ける。


「マズい! あいつ無理やり城壁を突破するつもりだ!」


 最悪の事態に、サナの顔が曇る。

 もしこの城壁が崩されれば、上にいる兵士は死に、城壁の裏にある村も壊滅するだろう。


 なんとしてもそれは阻止しなければいけない。しかしやぶれかぶれで突っ込んでくるアダマンタートルを止める方法を彼女は思いつかなかった。


 混乱する一同。

 そんな中、一人の人物が動く。


「シルク、背中に乗せて!」

「わんっ!」


 動いたのはテオドルフだった。

 彼は自分にくっついているフェンリルの背中に飛び乗り、城壁のはじっこまで移動する。


「テオドルフ様!? なにを!!」

「サナさんは指揮をお願いします! あれは……僕が止めます!」


 テオドルフが背中をとん、と叩くと、シルクは城壁を垂直に駆け下りていく・・・・・・・

 呆気に取られるサナだが「わ、分かりました!」と返事をしてその背中を見送る。


「頼みましたよ、殿下……」


 混乱する兵士をまとめながら、サナは一人そう呟くのだった。

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