やっぱり二人きりで

「きゃ~。レンくんのエッチ~」

 

見崎みさきの叫び声で、俺の中の漢……改め、変態が姿を消し、理性を戻す。


「いや、これは違うぞ!別に、本当に触ろうとしたわけではなくて!」

「…………ふーん」


 目の前にいるあおは、胸を両手で隠しつつ、ジロッとみてくる。


「ただ一時の気の迷いというか、そうしないと出れない部屋にとじこめられたというかだな!」

「ま、まあ、いい、けど……」


 そっぽ向きながら許してくれたみたいだ。


 ……ある意味、これが蒼でよかったかもしれない。


「へえ~……アオちゃんってそんな顔もするんだ~」

「なんですか。あんまりジロジロ見ないでください」

「あ~、そうやってすぐ無表情になる~。せっかく可愛かったのにな~」


 なんだかんだ蒼はすぐ許してくれたし、見崎によって別の話になったし、なんとかセーフ……

 と思いきや、まだ話題の変わってない人が一人いて……


れん……お前は……」

「れ、怜央れお先輩?な、なんか、雰囲気がやばいんですけど……」


 いつかしたみたいに、赤いオーラをまとっていて。


「お前は本当に、どうしようもない変態ロリコン野郎だな」


 そしていつかしたみたいに、目を赤く光らせて。

 その鋭い目つきで、俺を刺す。


「ご、ごごごごごめんなさい!」


 怜央先輩のその顔は、本当に殺されそうになる……

 もちろん深い意味などなくて、そのまんまの意味だからね?


「しかし、真面目な話、本当に蓮がロリコンだったとはな」

「いやそれは……って、今は否定できませんね……申し訳ありません」

「いいや、怒ったのはネタだ。別に蓮のタイプの胸がどうであれ、否定するつもりはない」

「それ……ロリコンは確定してるって意味ですよね……」


 ここで蒼のところへいってしまった以上、弁解の余地がないのでどうしようもないが。


「でも~、本当にアオちゃんのところにいくとはね~」

「お兄ちゃんがガチのチッパイ好きだとは私も思わなかった」

「謝るからそれ以上は勘弁して……」


 もう心が限界なんですが……


「おそらく、それだけではないだろう。蓮は既に、蒼のあんな姿やこんな姿も見ているのだろう?そうすると、いまさら胸を触るなど、緊張こそするものの他の人の胸を触るよりかは、はるかに楽なことではないか?」

「確かに……そうかもしれないです」


 よかった……助け船が出たことにひとまず安心して。


 怜央先輩の言う通り、蒼にはなにか安心感がある。

 それは、いろいろあった今でも健在なのかもしれない。

 いや、いろいろあったからこそ、なのかもしれないけど。


 それが胸を触ることにつながるかどうかは置いとくとして。


「そんなこと言って~、レオちゃんは悔しいだけじゃないの~?」

「な、別に悔しくなんかないぞ!そ、それに万が一、蓮が私を選んでいたとしても、こんな不埒なこと、やらせるわけには……」

「え~?な~んかその言い方だと~、レオちゃん自身は触ってほしかったみたいに聞こえるけど~?」

「そ、そんなわけがないだろ!………………多分……」


 見崎によって、だんだんと冷静さを失っていくとともに、無駄に素振りが大きくなってしまう怜央先輩。

 それを見て、さらにからかう見崎。


「私はしてほしかったけどな~。レオちゃんは違うんだ~」

「なにを言っているのだ貴様は!」

「あれ~?やっぱり~、本当は触ってほしかったりするの~?」

「私は宮下みやしたのような不埒な女ではない!宮下こそ、触られたいなど変態がすぎるぞ!」

「え~?じゃあ想像してみてよ~。あのレンくんが~、この胸に向かって~、そ~っと手を伸ばしてきて~……最初は優しくふにゅって触れるだけなんだけど~、だんだん激しくなって~、モミモミと乱暴にもんできて~……」

「だから……なにを……言って……」


 何かを揉むしぐさをする見崎。

 その横で口をワナワナさせ、ぷるぷると体を揺らし、今にも大爆発を起こしそうな怜央先輩。

 もうしゃべるのもままならないらしい。


 バシッ!


 そんな二人の背中を、蒼が思いっきり叩いて、押し出す。


「今日は帰って……今すぐ帰って……絶対帰って」


 ぐいぐいと見崎と怜央先輩を押し出し、玄関まで追いやる。


「ちょっとアオちゃん顔怖いよ~?そんなに悪いことしたつもりはないんだけど~」

「当然どうしたというのだ?」

「いいから帰って!」


 バン!


 二人を家の外へ追い出してから、思いっきりドアを閉める。


「はぁー……」

「蒼?そんなに怒って、大丈夫か……?」

「もうあの二人は家に入れない。絶対入れない。お兄ちゃんもいいよね?」

「は、はい!もちろんでございます蒼様!」


 そんな顔で振り返ってこられたら、拒否できるわけがないだろ……


「ふぅー……なんか疲れたし、ココアでも入れるけどお兄ちゃんもいる?」

「じゃ、じゃあもらおうかな……その前に、朝ごはん食べないか?」

「うん。そうだね」


 その後、蒼とちょっと豪華な食卓を囲み。

 なにやら蒼は、ブツブツ話していたが……


「だいたいあの二人はお兄ちゃんの事好きすぎるんだよ。家族でもないのに家に来るとか頭どうかしてるし。自分の体売るとかほんとありえない。というかお兄ちゃんだってすぐ喜びすぎなんだよ。あんな腹黒い女どものどこがいいんだか。ロリコンならロリコンらしくしてればいいのにさ……」


 こんな小声で、こんな速さで、この内容で話されても、何とも言えない顔をするしかなく。

 とにかく、小声だったからこの先は聞こえなかったということにしておく。

 ……そうしないと、どうにかなりそうだしな。


 もちろん、いろんな意味で。

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