救世主か、はたまた

あお!」


 バックに夕焼けを見せて現れたのは、よく知る女子中学生だった。


「なんでここに……」

「とにかく、ここから出たら?……宮下みやしたさんも……」

「アオちゃんか~……アオちゃん、かぁ~……ふふふ。そっかそっか~……ふふふふ」


 見崎みさきは、何事もなかったかのようにスっと外へ出ていく。

 俺はどうにも立ち上がれそうにない。


「な、なあ蒼……なんでここが?」

れんが連絡したんでしょ?体育倉庫に閉じ込められたから助けに来てくれーって。それで高校に来て訳を説明したら、カギをくれたってこと」


 見崎と入れ替わるように体育倉庫に入ってきて、俺に手を差し伸べる。


「そういえばそうだったな……」


 蒼の手をとって、何とか立ち上がる。そして、見崎の立つ体育倉庫の外に向けて歩く。


「それにしてもさ~……アオちゃん、タイミング良すぎるよね~」

「……偶然です」

「へえ~……そ~っか~……偶然か~……」


 外に出て話す二人を横目に、扉をしめておく。


「偶然なら聞いておきたいんだけど~……」


 そう言って体育倉庫裏に回る見崎に、俺と蒼はついて行き……

 そこには、はしごが一つ置いてあった。それも、ちょうど小窓の位置に。


「あれも偶然ってことかな~?」

「…………偶然です」

「へえ~、そ~っか~……」


 じっと蒼を見つめる見崎。眼は、明いているのかわからなかったけど。


「もう宮下さんは帰ってください。本来なら下校して家に着いている時間ですよ」


 そんな見崎をちょこっと突き飛ばし、睨みつける蒼。


「ふふふ。アオちゃん、ほんっとに可愛いね~」


 フワフワの笑顔だ。

 見崎は、いつも通りに戻ったようだった。


「と、とりあえず、教室いかないか?鞄持ってこないと……」

「そうだね~。そしたら三人で帰ろっか~」

「私も教室に行きます」

「い、いや、蒼はここで待ってても……」

「蓮は一旦黙ってて」

「は、はい……」


 うわ蒼の睨んだ顔こわ……


「ふふふ。大丈夫だよ~。校舎には先生も生徒も残ってるし、アオちゃんは安心していいよ~」

「だからって、何もしない保証なんて無いじゃないですか」

「本当に大丈夫だからさ~。アオちゃんの見たこと以上のことはしない。これだけは約束するよ~」

「……信じていいんですか?」

「これだけは、ね~」

「……わかりました。私は門で待ってます。あと、蓮は宮下さんになんかされたらすぐ逃げてよ」

「鞄持ってくるだけだって……」


 というか、そうじゃないとまずいのだが。


「大丈夫だって言ってるのにな~。まあいっか~。じゃ、レンくん行こ~」

「ああ」


 見崎とともに、校舎へ行き、蒼は反対に門へ向かう。



***



 誰もいない教室は、西側一面の窓ガラスから赤い光をもらい、静かに光っていた。


「よし……じゃあ帰るか」

「うん。そうだね~」


 鞄をもった俺と見崎は、教室を出て蒼の待つ門へと向かう。


「ねえレンくん。ちょっとこっち向いて~」

「ん?なんd」


 唇に、暖かく、やわらかく、湿った感触。


 見崎の唇が俺の唇に触れた。


 見崎と、キスしている。


「ふふふ。アオちゃんには悪いけど、これだけはね~」

「お、おま、なにを!」


 蒼のおかげで何とか静まっていた体温が、再び熱を上げて。

 動揺が止まらない。


「これで~、アオちゃんとレンくんを心から認められるからさ~。これで一旦終わりってことで~」


 見崎は走っていく。

 静かな廊下を、颯爽と駆け抜けていく。


「あ、おい見崎!ちょっと待て!」

「ふふふ。アオちゃんを頼んだよ~」

「なんだよそれー!」


 見崎の姿が見えなくなって、俺も蒼の待つ門へ、歩き始める。


 俺は、とりあえず助かったと思えばいいのだろうか?

 それとも、見崎のことが解決できて嬉しいと思うべきなのか?

 そもそも、これで一件落着なのだろうか?

 見崎が俺と蒼の同棲を認めてくれたことは確かだろう。しかし、蒼と見崎の関係を考えると……

 いや、俺には想像もつかないが。


 そして、見崎とファーストキスしたっていうのが、事実として残ってしまったわけで。

 でも、そこで止まることができたとも言えるわけで。


 ……とにかく、家に帰ろう。

 

 これ以上思い出すと、まともに歩けなくなりそうだ。

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