汗で濡れた体育着って、裸よりエロいよね

 あれから数時間が経ち。

 もうすぐ授業という拘束から解かれることに希望を抱く、六時間目の終了間近。

 今日は体育だ。 


 ピー!

 

 笛の音とともに、走っていた生徒が歩きはじめる。


「はーい。出ている道具は片付けてー」


 体育教師のよく通る声で、休んでいた人も立ち上がり、主にハードルのもとへ。

 

「……おい。せめて片付けくらいしとけよ」


 俺はハードルのもとではなく、日陰に座っている見崎みさきのもとへ。


「ん~……そうだね~」


 見崎は重そうな腰を上げ、ゆっくり歩きだす。


「でも~、もうハードルは一個しか残ってないよ~?」

「あ、確かに……なら仕方ないか……」

「いや~、私もついて行こっかな~」

「え?まあいいけど……」


 俺は、見崎が体育の時間に運動しているところを見たことがない。

 それどころか、夏に関しては日陰から出たところすら見たことがない。

 そんな見崎が自ら動こうとするなど、珍しいこともあるもんだ……いや、自らではないか。


 一つ残されたハードルを持ち、見崎とともに体育倉庫を目指して歩く。それも、ほとんどの生徒は自分と逆方向に歩いている中を。


「レンくんって、意外とマジメだよね~」

「見崎が意外と不真面目なだけじゃないか?」

「え~?弁当を毎日作ってあげてるのに~?」

「う……すまん」

「ふふふ。ここで謝っちゃうあたり、レンくんだよね~。私、レンくんに弁当を作ってなんて、頼まれたことないのにね~」

「もし頼んでいなかったとしても、今見崎がやめるって言ったら、本気でお願いするけどな。見崎の弁当がない学校なんて、行きたくないし」

「へえ~。そ~なんだ~……」


 いつも笑顔の見崎は、この時、少し違う笑い方をしていて。

 ちょっとだけ、嬉しそうで。


「レンくん、やっぱり不真面目だね~」

「やっぱりもなにも、真面目なのは授業中だけだよ。先生に怒られたくないからな」

「ならさ~……アオちゃんが家事やめるって言っても、本気で止める~?」

「そりゃ、まあ……」

「だよね~……それは、そうだもんね~……」


 なんかちょっと、胸が痛む。


「あれ、ハードルってどこだ?」


 もう俺と見崎以外だれもいなくなった体育倉庫。

 やけに薄暗く、やけにホコリっぽく、なにか独特の匂い。

 早く出たいところだが、あたりを見渡してもハードルが見当たらない。


「あれじゃない~?」

「ああ、そこだ」


 見崎の指さす方向に、雑に並べられたハードルたちがあり、そこにハードルを置く……


 ガガガガ……ガチャン。


 視界が一瞬にして暗くなる。

 ハードルを下した体制のまま、思わず硬直してしまう。


「これ……まずくないか?」


 冷や汗とともに何とか出した一言は、そんな言葉だった。


「う~ん……完全に閉じ込められたね~」


 デカい鉄のドアを触りながら、見崎はいたって冷静にそう言った。


「ヤバいじゃん!早く先生呼ばないと!」

「まあまあ~、レンくん落ち着いて~」

「落ち着けるか!てか見崎はなんでそんな落ち着いていられるんだよ⁉」

「帰りのホームルームに人がいなかったら、流石に気づくと思わない~?」

「……たしかに」


 そうは言っても不安だったので、ずっとポケットに入れていたスマホを取り出し、蒼に連絡だけして、またポケットにしまう。

 そうして少し冷静さを取り戻した俺は、とりあえずマットに座る。

 高い位置にある小窓から一筋の光が差し込んでいるおかげで、なんとか空間を把握できていた。


「とにかく、待つしかないね~」


 見崎も、俺と触れない程度の距離で横に座る。


「にしても、体育倉庫ってこんなに暑かったのか?」

「風が吹きこまないからね~。ちょっと汗かいてきちゃったな~」

「たしかに……」


 蒸し暑くて、だらだらと汗が出てくる。

 これは、一番嫌なタイプの汗が、一番出やすいタイプの暑さだ。

 

 ……ん?ちょっと待てよ?

 

 今、俺と見崎は白の体操着。

 その状態で汗をかくということは……


 思わず見崎の胸に目が行く。

 そしてそこには予想通りの景色があって……


 汗によって、見崎の大きな胸にぴっちりと張り付いた白の体育着。

 その体育着は透け、もう一つ奥にある、つまりブラをくっきり映し出していた。


「う……」

「ん~?急にそっち向いて、どうしたの~?」

「な、なんでもないから!」

「え~?なんか怪しい言い方だね~?」


 見崎は俺の背中に少し近づく。

 その背中に、見崎の汗による熱気が、ムワッと、かすかに、確実に、伝わってくる。


「ほ、ほんとに大丈夫だから!」

「そっちになにかダメなことでもあるの~?」


 さらに一歩、見崎が近づく。ふにゅっという感覚が背中の二点に現れ、全身がぞわそわっと浮いてしまう。

 きっと今、スケスケの、大きな、あれが……


「ちょ、ま、マジで!お願いだからそれ以上は……」

「だから~、なんの話~?」


 さらに一歩。見崎の顔が俺の肩に乗り、熱気は頬から頬を伝わり。

 背中は、密着した部分からどんどん汗ばんできて。その密着度を上げる。


「あれ~?なにも見つからないよ~?」

「や、やめろおおおお!」


 必死の覚悟で見崎をはねのけて立ち上がり、見崎の方を見る……こいつ……こいつ!


「見崎!全部わかった上でからかっただろ!」


 マットに倒れた見崎の顔は、まあなんとも美しいニヤニヤとした顔で。


「あ~、くっついたところが汗でベトベトする~」


 上半身を起こしつつ、体操着をパタパタさせ、その中身であるものが見えたり見えなかたったりして……


「レンくん、見すぎだよ~」

「な、なにも見てねーよ!」


 また、目を反らす。


「ふふふ。真っ赤になって言われても、説得力ないよね~」

「やっぱりからかってるだろ⁉」

「え~?ただ暑いな~って思っただけだよ~?」

「嘘つけ!」

「嘘じゃないよ~?ふふふ」

「いいからそっち向いといてくれ……」

「しょうがないな~」


 見崎は壁の方を向く。

 その見崎と背中合わせになるよう、マットに体育座りで座りなおす。これで、何もないはず……だったのだが……


 やはり見崎は、見崎だったわけで。

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