童貞力マシマシ

 五時三分。


 夕日の空の下を、あおと並んで歩く。目指すは近所のスーパー。

 これはあくまで買い物……のはずなんだが……


「……いつの間に着替えたんだ?」


 数分前に帰ってきた蒼は、やけにオシャレな格好をしていた。


「ちょうど新しい服欲しいと思ってたから。今日買いにいって、そのまま着てきた」

「ちょうどってことは、なにかあるのか?」

「あ、いや、うそ。最近の間違い」

「おお……にしても突然だな……」

「まあ、うん……」


 制服と、部屋着と、裸……は置いといて、それらの蒼しか見たことなかったからか、こうちゃんとオシャレな格好をしている姿を見ると、普通に可愛い。

 そんな蒼と二人きりで、それも手を伸ばせば余裕で届く距離を並んで歩くなんて……本当にデートなんじゃないかと錯覚してしまう。


「……」


 チラッと蒼の方を見る。

 今日たまたま服を買ったからオシャレをしているのだろうが……それがまた、動揺を誘う。


「……」


 再び、蒼の方を見る。

 無言でいればいるほど、ヘンな気が起きそうになる……いろんな意味で。


「……」

「ねえれん

「は、はい……なんでしょうか……」


 なんで敬語なんだよ俺。意味わかんないだろ。


「さっきからチラチラ見て、どうかしたの?」

「え……?」


 やべ、気づかれてた……

 緊張に焦りが加わって、動揺が倍増する。


「い、いやあ、その服めっちゃ似合ってて可愛いなって!」

「……………………ふーん……まあいいや」


 なんかやけに間が長かった気が……


「やっぱり蓮はロリコンだね」

「どうしてそうなるんだよ⁉」

「中学生の妹と買い物して嬉しいのなんて、ロリコンだけだよ」

「そんなことはないだろ!妹ったってまだ一週間だぞ?」


 ああ、やっぱり蒼は蒼だな。

 動揺も緊張も、自然に消えている。


「もう裸の付き合いもしたけど?」

「変な言い方すんなよ⁉」

「そこまで変でもないと思うけど」

「変だから全然違うから!ただの事故で見ちゃっただけだから!」

「でも蓮、興奮してたんでしょ?」

「それ全然関係ないから!」

「……否定はしないんだね」


 苦笑気味に蔑んでくる。

 いや、不可抗力だろ……ってめっちゃ言いたいけど、また情けなくなるだけだからやめとく。


「……どう?少しは緊張しなくて済んだ?」

「おかげさまでな。というか、そこまでバレてたのかよ……」

「だって私も……じゃなくて、蓮があからさまに挙動不審だったから」

「マジか……なんか悪かったな」

「いいよ。それより、たかが買い物で緊張することないのに」

「いやいや、こんなに可愛い妹と二人きりでお出かけなんて、緊張するに……蒼?」


 突然蒼の足が止まり。

 イライライライラ……っと小刻みに震えていて。


「…………だから……せっかく紛らわしたのに……」

「え?紛らわすって……」



「だから!いっつもいっつも蓮が褒めるせいだよ!」



 俺の胸を叩いて見上げる蒼は、頬を赤らめて、唇をわなわなふるわせて、上目遣いで。


「あ、え?いや、ちょこれ、うぇ⁉」

「……ばか」


 次の瞬間には顔は九十度回転してて。ひときわ目立つ青メッシュを、くるくるといじりだしていて。


「…………」


 なんだこれは……これ、マジで……


「あ、お……?」

「…………」


 かすかに名前を呼んでみるけど……やっぱり、イライライライラしながら髪をいじるばかりで。


「えっっっっと……」


 こういう時どうすればいいんだ?というかどうしてこうなっている?もう何がなんだかさっぱり分からんぞ?


「………………はぁーーーー。ほら、いつまで突っ立ってるの?早く行こ」

「お……おう……」


 っと思えば、蒼はスタスタ行ってしまう。


 ……絶対に顔を合わせようとはしなかったが。

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