第16話

「ここがギルドか。中々立派な建物ではないか。やはり、冒険者を目指した道は間違いでは無かったな」


 無事にロックスの街に訪れて、街を行き交う人々に聞きながら、ようやくここまでやってきた。私の眼前に聳え立つ建物は、この街の中でも特段大きな建築物であり、この建物の存在が街に及ぼす影響を体現しているかのようであった。


「まずは予定通りに事を進めるとしよう。冒険者登録を済ませたら宿を借りる。それから依頼をこなし、Sランク冒険者を目指す。完璧な計画だ」


 ギルドの扉を開き、中へと入って行く。ギルドの中は私が今まで経験したことが無い、独特な匂いで包まれていた。男性の汗だろうか、鼻をツーンと刺激するかのような匂いに混じり、酒の匂いが漂ってくる。


「ふむ。中々個性的ではないか」


 私がそんな言葉を呟くと、周囲の視線が一斉に私へと集まった。興味を持った、というよりは私を下に見ているような目つきだ。どうやら歓迎はされていないようで、下品な笑みを浮かべた男性達が私に近づいてきた。


「どうした坊主。こんなむさ苦しいところへいったい何のようだ?剣を持ってるってー事は依頼をしにきたって訳じゃぁなさそうだが」

「ああ、冒険者登録に来たのだ。登録はどこで行えばいいのだ?」

「おいおい!!ここはオメーさんみてぇなヒョロっとしたガキが来るとかじゃねーんだよ!とっととママのところへ帰んな!」

「まぁそういうな、マイルド!俺達先輩冒険者が面倒見てやれば良いんだからよぉ!」

「依頼の報酬は山分けだぜ?9:1でなぁ!!勿論俺達が9だ!!悪くねぇ話だろ?初心者がDランク冒険者の荷物持ちをできるんだからなぁ!!」


 絡んできたと思ったら、絵に描いたような馬鹿である。ゴブリンでももう少し口が達者だと思わざるを得ないな。私に一分の得もないのに、何故彼らはこうも傲慢な態度をとっているのだろうか。


「申し訳ないが、会話の内容が全くもって理解できない。君達は君達で行動すればよいだろう。私は私が思うままに行動する。すまないがそこをどいてくれ」

「……あぁ?テメェ舐めてんのか?」

「舐める?舐めるというのは物理的な意味でか?それとも、君を馬鹿にしているという意味か?私にとっては君達などどうでもいい存在だ。つまり、どちらの意味でも君達を舐めるという行為などする事はない」


 これ以上彼等と対話をしても、私には何ら得が生じない。そう判断して、彼等の横を素通りしようとしたのだが、一番ガタイのいい男に後ろから肩を掴まれてしまった。


「その態度が舐めてるって言ってんだよおおぉ!!ぶっ殺されてぇのか!!俺様は『暴れ者』だぞぉぉ!」

「……なんだと!?」


 彼の口から出た言葉に、私は思わず振り返る。そして今度は私から彼に問いかけた。


「君は『暴れ者』なのか!?本当に本当の!?」

「そ、そうだ!俺様の職業は『暴れ者』!!俺の筋力に勝てるやつはだれもいねぇ!!」

「素晴らしい!まさかこんな所で『暴れ者』に会えるなんて!という事は、君は『身体能力向上』のスキルを使っているのだな!?」


 何故私がこうも興奮しているのか。それは彼の職業である『暴れ者』が所持している、『身体能力向上』のスキルが欲しかったからである。このスキルは私が使用していた他のスキルとは違い、ただ所持しているだけで自分のステータスを向上させてくれるスキルだ。


 ただし、知力や運といった身体に影響を及ばさないステータスには効果は発揮されないものである。このスキルはレッドベアーを倒してレベルが上がっても、基本ステータスがFから上がらなかった私にとって、喉から手が出るほど欲しいスキルの一つであった。


 恐らく、私のステータスはこういったスキルで強化をしないことには向上しないのだろう。それが『知識者』である、唯一のデメリットかもしれないな。


「あたりめぇだ!!これが俺様の力よぉ!」


 私に煽られた男は、近くにあったテーブルに拳を振り下ろした。拳がテーブルに当たると、木材が弾ける音と共にテーブルは砕けていった。


「みたか!!これがオッズ様の力よ!」

「スゲェぜ兄貴!流石無敵のオッズ兄貴だ!」

「流石だ!素晴らしいぞオッズとやら!先程までの私とは比べ物にもならない腕力だ!『身体能力向上』のスキルがこれ程までに素晴らしいものだとは!」


 彼に称賛の言葉を贈りつつも、私は自分のステータスを分析し、知識枠に『身体能力向上』のスキルをセットさせる。その結果、Fという値を叩き出していた基本ステータスがF+に上昇した。


「ありがとうオッズよ!君のお陰で私は強くなれた!それではまたいずれ」

「おう?まぁ何かしらねぇが俺様が強いって事を理解したならまぁ良いぜ!!これからは舐めた事するんじゃねぇぞ!!」


 オッズはそう言うと、子分立ちと別のテーブルへと移動していった。どうやら私を荷物持ちに勧誘していた事は忘れてしまったらしい。やはり『暴れ者』と言うだけあって、脳味噌も暴れてるのかもしれないな。


 機嫌を良くした私は、軽い足取りで受付と思しき所まで歩いていく。受付に立っていた女性は、私が訪れたのと同時に声をかけてきた。


「こんにちは!冒険者登録に来たのですよね?」

「そうだが、なぜ知っている?」

「会話が聞こえてきましたので!まずは身分証明書をお出しいただけますか?無い様でしたら証明になるようなものをお願い致します!」


 兵士に言われた事を受付嬢にも言われ、父上に書いて頂いた紹介状を取り出した。


「私はアレックス・グローリー。グローリー男爵家の三男だ。身分証明書は無いが、父上からの紹介状なら持っている。これで良いか?」

「グローリー男爵家の当主様からの紹介状ですね!拝借いたします!」


 受付嬢は、私から受け取った紹介状をじっくり読んだ後、私の容姿を確認してから紹介状を返却してきた。それから、真理の石版をカウンターの上に置いて私に使うように指示してきた。


「真理の石版か!!これを使えばいいのだな!?」

「はい!この石版は使用者が犯罪者である場合赤く光ります。盗みから殺人までの犯罪に反応しますので、この紹介状が盗まれた物でない証明になります!」


 流行る気持ちを抑えて、石版へと血を垂らす。先程の結果と同じように石版は青く輝き、程なくして光を失った。


「ありがとうございます!これで身分証明は終了です!お次は試験になります!どなたからか推薦状を貰っていれば試験はパスできますが、推薦状はお持ちですか?」

「残念ながら推薦状など持っていない。試験とは一体何をするのだ?」

「承知しました!試験内容は試験監督との対人戦になります!その戦闘内容で合否が決まりますので頑張ってください!」


 受付嬢はそう言って優しく頬笑みを浮かべる。対人戦の経験は父上としかないため、何処まで戦えるか分からないが、今の私の実力を知るには丁度良い機会だろう。


「理解した。それで、会場は何処だ?」

「会場は右側の奥にある道を進んだ先にある、大広場です!そこに私と同じ服を着た男性が立っていますので、試験に来たと告げてください!」


 受付嬢に言われた通り、私は右奥の道へと歩き始める。この試験に合格し、晴れて冒険者となった暁には『真理の石版』を分析させて貰おう。依頼をこなすのはその後でも問題はない。


 それにしても、今日はいい事づくしだな。『身体能力向上』に『真理の石版』との出会い。二度あることは三度あると言うからな。もしかすれば、この先にも新たな出会いが待っているかもしれん。


 私は高鳴る気持ちを抑えながら、早足に大広場へと進んでいくのだった。


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