第35話 マンゴラス

 そしてその裏。事実上の大将戦が始まろうとしていた。こちらの方の大将、ロラン サルタイン。実力十分、そしてこの国の中で一番野心があるとされている男だ。彼は元々弱かった、だが、ある時期から急に強くなった。その理由は誰も分からなかった。だが、彼は確かに強くなった。その実力で、数々の敵を、破って行ったものだ。そして、あっという間に、軍のトップにまでなるようになった。


「やれやれ。行こうかねえ」


 ロランは歩き出す。そして、彼の腹心のマイルツ アーツが指示を出す。


 そしてそれに立ち向かう相手の軍の隊長、それはマンゴラスだ。

 その実力は衰えているが、現役時代には強かった男だ。


「わしももう衰えた。戦いたくはないがなあ」


 マンゴラスはそう言いつつ、その目に宿す炎は決して衰えてなどいない。


「さあ、出てこい! ロランよ……わしと戦え!」

「ふん老兵が、すぐに首を断ち切って見せるわ!」


 ロランは吠える。もはや、マンゴラスのことは見ていない、見ているのはその先だ。戦争の終わった後の事を考えているのだ。


 そんな二人の戦いが今始まる。


 とはいえ、マンゴラス自体は戦わない。もう、老兵で、剣を振るなどもはやほぼ出来ない。

 よって、その側近のアラミス サーバーが事実上の最強となる。その実力はヒョウギリと並ぶと言われており、他の軍なら間違いなくトップを取れたと言われている。

 さらに軍の兵士たちも全員可なりの実力者だ。

 だが、その兵士たちをロランは軽々と斬っていく。それはロランだけではない、マイルツも同様だ。


 互いの軍がぶつかり合い、それぞれ戦っていく。


 ……互いに兵士主体の戦いだからか、戦いはかなりのハイスピードで進んでいく。そしてまずぶつかるのは互いの軍隊長同志だ。三ヶ所で同時にぶつかり合う。

 だが、その戦いなど意にも関せず、ロランは進んでいく。

 いわばロランは感覚タイプ、士気など出さないでどんどんと攻めていくタイプだ・

 例え、その最中に罠にかかったとしても。


「おいおい、何だよこの敵の数は」


 ロラン率いる五〇〇の兵は囲まれてしまった。周りには敵の兵士が沢山いる。周り一面を覆いつくすような数だ。


 ロラン側五〇〇に対して敵の兵士は五〇〇〇もいる。しかも、その中にはアラミスもいる。この兵力差、普通に考えれば絶体絶命だ。

 だが、そんな状況にもかかわらずロランは笑っていた。


「ふん、燃えるじゃねえか」


 そう言ってロランは自身に強化魔法をかけ、走り出した。そのままロランは敵兵を大量に切り裂いていく。そのスピードには敵兵の誰も追いつかけなかった。


「囲め! 多数でかかるんだ」


 そう、アラミスが指示を出すが、その指示を聞いて、その通りにできる人はいない。ロランが早すぎるからだ。


 そのままロランはアラミスのところへと着く。


 そしてロランは一気に剣を振り、アラミスの命を取ろうとするが、アラミスはそれを間一髪でよける。


「危ないところでした。まさか、こんなにも強いとは」

「ふん、なめんなよ? 俺は最強だぜ」

「最強ですか……私の実力を見てもそう言えますかね」


 その瞬間、地面が揺らいだ。体勢が取れなくなったロランはその場に倒れた。


「なるほどな」

「そういう事です」


 そして、地面に倒れこむロランをアラミスが切り殺そうとする。しかし、その瞬間、ロランの手から豪火球が飛び出し、アラミスは慌てて後ろに下がる。


「まさか、俺が魔法を使えないとでも思ったのか?」


 その瞬間、ロランは、追撃として水を発する。その水は、アラミスをいとも簡単に吹き飛ばした。


「中々強い力ですね」

「だろ。俺の自慢なんだよ。だから、おとなしく死んどけ」

「おとなしく死ぬくらいだったらこんな立場にはなれてませんよ。死ぬのは私ではなくあなたです」

「そうかい」



 そう言うロランは笑い、宙に大量の火の弾を浮かび上がらせる。


「火の玉と俺と両方をいなしきれるかなあ?」


 そして火の弾はアラミスの方に一斉に降りかかると同時にロランも地を蹴り、アラミスの方へと向かう。


「なるほどですか! しかし、私はこの程度ではやられませんよ」


 アラミスは剣で弧を描くように振り、その剣の通り道に火が出来上がった。


「なるほどなあ」


 ロランはそう呟いた。

 アラミスはロランの方にも炎の刃を飛ばす。


「でもなあ、面白くねえよそれは」


 ロランの体の周りに炎のバリアが出来上がる。


「そんなんじゃあ、魔法剣士には勝てねえぞ」


 そしてアラミスは「何をたわけたことを!!」と叫び、地面を隆起させながら「魔法は私にも使えるのです!!」と、自信満々に言った。


「それじゃあ、だめなんだよ」


 ロランはすぐさま地面を蹴り、空に飛びあがる。


「魔法というものは、魔力の使いようで変わるんだ。地面の隆起なんて小細工、飛べばそれで終わりだ。まあ、ハールンクラインだとか、アーノルドは出来ないらしいがな。だが、俺にはできる。さあ、どうする? 空に飛びあがっちゃえば地面をいくら隆起させても当たらねえぞ。たいしてこちらは……」


 ロランは、手をアラミスのほうにむけ、


「こんなことが出来るんだ」


 と、炎の球を大量に投げ飛ばす。アラミスの方へとむけて。アラミスは、何とか剣で切り刻んでいくが、


「さあさあ、俺の勝ちだ。お前にはできることなんて何もねえ。お前は俺に負ける運命なんだよ!!!」


 ロランは追撃とばかりにさらに多くの炎の球で執拗にアラミスを攻撃する。


「っく」


 アラミスは必死で剣でそれを切り刻んでいくが、あまりにも手数が足りていない。



「さあさあどうしたああああああ」


 そんなアラミスを見て上機嫌なロラン、優越感で笑いが止まらない様子だ。


「さあさあ、もう終わりにしようぜ」


 そう言ったロランは空から猛スピードで降りてくる。


 アラミスは剣を構えて向かい打とうとするが、ロランは直前で、地面を隆起させた。


「何!?」

「お前が使ってた手だよ」


 そして、アラミスは体制を崩してしまい、ロランの勝ちが決まったかというところで、


「アラミス様は殺させやしない」


 と、邪魔が入った。そう言えばこれは集団戦、別に一騎打ちなどではないのだ。


「なるほどなあ。そういやここは戦場だった」


 いつの間にか、ロランの周りには大量の敵軍がいる。


「味方は何やってんのだよ。まさか全滅したのか?」


 そう、後ろを見る、すると味方の兵農姿はない。


「そういや、マイルツは別のところに行かせてるんだっけな。仕方ない。俺一人でこのピンチを切り抜けようか」

「そうはいっても貴様、あまり魔力はもう残っていないだろう。終わりだ」

「誰が……終わりだと!?」


 そして、ロランは空高く舞い上がり、炎の火球を地面に向けて放つ。


「てめえらなんて、これで終わりだろうが!!」


 その火球はまず地面に落ちたくさんの命を奪い、その後、消滅せずに、大量の炎の球が四方八方に飛び、それもまた沢山の命を奪っていく。


「俺は真の天才なんだよ!」


 そう叫んだ後、大量の煙が巻き上がり、その間にロランはその場から消えた。


「逃げたか」


 アラミスはそう呟いた。だが、次の瞬間後ろから物音がするのが聴こえた。彼はすぐに後ろを見て、その正体、ロランを目に捕らえる。


「なるほど!」


 そしてアラミスはロランの剣を受ける。


「流石はやるなあ。だが、部下がいなければ何もできねえようなやつ、最強とは言わねえ」


 そして、ロランはアラミスの剣を強引に弾き飛ばした。


「さあ、終わりだ」


 ロランはそのままアラミスの首を取った。


「さあ、次はマンゴラスか、マイルツは上手くやってんのかあ?」


 アラミスは決して弱くはない。マンゴラスの役に立とうと、必死で努力してきた。彼はマンゴラスの養子であり、実子同様に育てられたのだ。

 マンゴラスの英才教育により、どんどんと強くなっていった。そして、あっという間にその実力は、マンゴラスを超えた。だが、彼は軍の隊長格になろうとはしなかった。彼はあくまでもマンゴラスの片腕であろうとした。そして彼がマンゴラスをサポートすることによって、マンゴラスは衰えてもなお、マンゴラスの軍は最強の軍として君臨し続けていた。だが、今ついに破れてしまった。ロランという圧倒的な強者によって。

 彼は死の瞬間、ああ、マンゴラス様、負けないでくださいと、祈った。





 その頃マイルツは、マンゴラスの兵士たちに苦戦していた。一人一人が強く、さらに戦略も中々だ。そのため中々破れない。しかもそれだけでなく、油断すればまほい攻撃まで飛んでくる。かなりの寮の兵をロランが引き連れたおかげでだいぶましだが、それでもなかなかうまく攻められない。


「この兵の数は……」


 そして互いの兵がぶつかり合うが、状況はなかなか均衡している。それどころが、逆に押し込まれている気もする。

 これはロランに頼っていたつけが来たなとマイルツは思った。今、ロランがいない今、何とかしなければ、とも。


 そして、マイルツは兵士たちをいったん引かせる。作戦変更だ。今のままでは倒せないので、中央を一点突破する作戦に切り替えるのだ。

 勿論、先頭はマイルツだ。彼が先頭を切り、作戦をその都度伝えるのだ。


「行け!」


 マイルツは、兵を切り裂き、その勢いのまま進んでいく。


「魔法部隊行くのじゃ」


 そのマンゴラスの声で、魔法が一斉にマイルツたちのもとに落ちていく。だが、マイルツもこの状況を考えて否かっあとぁけではない。頭上の炎の球に向けて、藍留津たちはいっせいに水の魔法を放ち、進路を変え、その魔法はマンゴラス兵に降り注ぐ。そしてその間に、マイルツたちは進んでいく。


「水の放出で、攻撃場所を変えるか……だが、それも間一髪の位置か。だが、中々危険なかけじゃないのか?」


 そして、マンゴラスは再び炎の魔法を命じる。マイルツは再び水の魔法を命じるが、炎が水によってさっさりと消滅する。


「まさか」


 マイルツは瞬時に理解した。この魔法はあえて弱く打ち、簡単な威力で消滅するように。いわば、偽物の炎。


「これでこちらの魔力を削ってくるのか」


 と、なら短期決戦しかないと、マイルツは考え、「全軍ひるまず進め!!」と命じた。だが、もう、周りは囲まれており、マンゴラスの方にたどり着くなんてもはや不可能に近っかった。だが、マイルツは諦めてはいない。

 マンゴラスの首さえ取れれば、士気はただ落ちするはずだ。


 そして、マイルツたちはそのままマンゴラスの方に向けて一目散に向かう。


「私に続け!!!」


 そう叫びながら。


「ふん、あんな奴をしとめるのになど兵力などいらん。殺せ、ひねりつぶせ」


 そう、マンゴラスはマイルツの方を指さし、そう叫んだ。



 マイルツたちはその後も怯むことなく攻めていく。だが、やはり攻めが切れかかっている。これは勝ったな、そうマンゴラスが確信した瞬間、マンゴラスの背後に一人の男が現れた。ロランだ。


「なぜここに、罠にはめたはずじゃ? そもそも後ろに控えてた部下は?」

「ああ、全員殺した。当然お前の部下のアラミスもな」

「アラミスを殺したのか?」

「ああ、そうじゃなかったら、今ここにはいない。弱かったぜ、後進の育成くらいちゃんとやれ」

「ふざけるなあああああ」

「ふざけろはそっちだ。老兵が俺に勝てるか?」


 そしてあっさりと剣を受け、すぐに剣で切り返し、マンゴラスの腹に剣を突き刺した。


「お? この程度の力なのか? マンゴラスさんよお」

「くそ、ほざくな」


 マンゴラスは腹から血を流しながら、呟く。


「無駄だ! お前なんてしょせん時代に置いてかれたただの雑魚なんだよ。ほら苦しめ」


 そしてマンゴラスの体を踏む。


「マンゴラス様を助けろ!」

「助けろ? てめえらごときが俺に勝てると思ってるんじゃねえよ。さあさあ、マンゴラスが死ぬまでに俺を倒せるかな? ははははははは」

「くそ、おのれえええ」

「まあ、だが、このまま戦い続けるのも面倒だな。マイルツたちも心配だし。仕方ない。……このおもちゃは切り捨てるか」


 そしてロランはマンゴラスの首を切り捨てる。


「さあ、首を取ったぞ」

「うおおおおおお」


 そしてマイルツたちは、ロランの勝ち時を上げた。その瞬間、


「うおおおおおんん」


 魔物の鳴き声が聴こえた。

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