第10話 暇

「ここは?」


 ベッドの上にいるユウナがそう言って、周りをきょろきょろした。おかしい、今は試験を受けてたはずなのに。


「目が覚めたか。お前は魔法の使い過ぎで倒れたんだ」

「そっか私使いすぎたのか」

「そうだ心配したんだぞ」

「ごめん」

「いや謝るのは俺のほうもだ、まだ実践は早かったな」

「でも、私もまさか魔法使いすぎるとは思わなかった、私のほうこそ上手くコントロールできなかった」


 ユウナにとって、魔力は無限だという錯覚をしていた。だが、実際は、そんなことはない、完成体と言えど、ゴリラを倒す時、魔物を倒す時、そして今と来たら魔力が切れるのも道理である。


「とりあえず今日は休んどけ」

「うん」

「俺はちょっと金を稼いでくる」

「そっか、じゃあ私も行かせて」

「お前はその体調では無理だ。休んどけ」

「いや行く! 暇だもん」


 ユウナはウェルツの腕をしっかりとつかみ抵抗するが、軽く撥ね退けられ、「だめだ」と言ってウェルツは部屋を出ていく。


「ちぇーそんなこと言わなくてもいいのに。私だってこの家で暮らしてるんだから……」


 仕方がないから、外の景色を見ながら寝転がるが、相変わらず暇なユウナは「やることないじゃん」と呟く。

 とはいえ、ユウナも体調が悪いのは事実だ。さっきはああいったが、無理に外に出る気力もない。

 そんな中、


「ユウナちゃん、食事運んできたよー」

「ありがとう」


 皿を受け取りながら言った。


「倒れたって聞いたからびっくりしたよ」

「私もびっくりした。まさか倒れるとは思ってなかったし」

「それで……調子どう?」

「まだしんどいけどだいぶまし」

「よかったーまたなんかあったら言ってね」

「うん」






 3時間後


「やっと帰ってきた」

「おまたせ、たいへんだったよ、意外に難しいんだな、魔物を倒すの」

「大変なのはこっちもよ。暇だったんだから」


 そう言って抱き着こうとするが、それをウェルツは「まあ寝とけよ」と言って面倒くさそうに払いのける。実際ウェルツの目にもユウナの体調が寒波しくないのはよくわかるのだ。



「なんでよ、話し相手もいないし、歩けないし」

「病気のみは大人しく休んどけよ」

「暇なんだもん」

「動いだら悪化するだろ」

「そんなの知らないもん」

「悪化すんだよ」

「そうやって心配してるのは完成体? それとも私?」

「お前に決まってるだろ、お前は道具じゃないんだ、お前自身のことを心配してるにきまってるだろ、そもそももとはといえばお前に無茶をさせたせいだし」


 ウェルツにとって、ユウナはもう娘みたいなものなのだ。


「ありがと」

「当たり前のことだろ」

「うん、でさあ、ちょっとだけ一緒にいてくれない? 暇だから」

「それこそ当たり前だろ」

「うん」


 その言葉でユウナはうれしくなった。苦しいときに一人じゃないという事実だけで、ウェルツがそばにいてくれるという事実だけで。


「ねえ、明日は私も行ってもいい? 暇だもん」

「治っていたらな」

「うん!」

「だからもう寝ろ」

「もう寝れないよ」

「だったら寝れるまで話付き合ってやるよ」

「うん」


 そして、二時間程度話した後、ユウナは眠りに落ちた。




「ん」

「起きたか」

「え? 私どれくらい寝ていたの?」

「まあぐっすりだったな」


 夕方に寝て、翌日の朝に起きた。異世界の時間としては一四時間ほどだ。


「結構すっきりしてる気がする」

「それはよかった」


 そう言って、ウェルツはユウナの頭をなでる。


「ねえ私今日出かけていい?」

「まあちょっとギルドで診断受けてからだな」

「うん!」



 そして二人はギルドに向かう。もちろん検診を受けるのと、仕事をするためだ。


「すみません、この子の魔力欠乏症が治っているか見てもらえますか?」

「ああ、この前の」

「ああ、見てもらえますか」

「もちろんいいですよ、ちょっと待ってくれませんか」

「はい」

「でもさー、今めっちゃ調子いいんだよね、なんでだろ」


 ウェルツは、ユウナが魔力の使いすぎで覚醒したのか、確かに魔力を欠乏させたことはなかった。だが、ユウナの力が暴走しなくてよかった。そう、ウェルツは考えた。だが、優菜が再びしんどくなるという事態を招いてはいかない。その事実はウェルツも十分わかっている。


 だが、結局組織の一員だったウェルツにとって、この事実は面白い発見でもあった。もしかしたらユウナに魔力を使わせまくったら、完成体に覚醒するのだろうかと思ったが、ユウナに負担をかけるのは嫌だ。それに、完成体になったらユウナの人格が消えるの事実だし。


「俺にもわからん、だが、分かるのはお前がさらに強くなったということだ」

「なんかわからんけどやったー」

「喜んでばかりはいられないぞ、ということはお前の完成体に近づいているということだから」

「確かに、記憶失うのは嫌だね」

「まあでもそうなったら仕方ないと思って諦めるか

「諦めないでよ」


 そう言ってユウナはウェルツの腹を軽く殴った。


「お待たせしました。準備できましたよ」


 そこには装置が置いてあった、二人には使い方はわからないけど、これで測定するのだろうことはわかった。


「ここに腕を入れてください」


 この装置に腕を入れるらしい。


「痛くないよね」

「痛くないですよ、ちょっとだけ腕が圧縮されるので、軽く気持ち悪く感じるかもしれないですけど」


 もうユウナだったらもう少しぐらいの痛みは大丈夫な気がするのだが。


「怖いなー」

「はよ突っ込めよ」

「そんな無茶言わないでー」

「いや、待ってるから」


 ウェルツは受付のお姉さんを見た。


「いえ、自分のタイミングでいいですよ」

「ほらそう言っているよ、ほらー」


 そう言ってユウナは勝ち誇った顔をした。


「うるさい、俺が待っているんだ」

「はいはいいまやりますよ」


 そう言ってユウナは面倒くさそうに腕を突っ込む。


「うわなんか気持ちいい」

「気持ちいいんかい」


 ウェルツは思わず突っ込む。あんなに嫌がってたのに。


「終わった?」

「はい終わりました、これは基準値ですね」

「やったーこれで看守さんと一緒に行ける!」

「そんなはしゃぎすぎると、またケガするぞ」

「はいはい」

「まあというわけでなんかおすすめのものとかありますか?」

「オススメと言いますと、この依頼ですかね」

「それは?」

「この先にいる魔物を数匹倒すだけの依頼です。初心者向けかと」


 受付のお姉さんは、神を一枚ウェルツに手渡す。ウェルツ自身は依頼を何個かこなしたことはあるが、ユウナは初なのだ。リハビリ的にも簡単なやつじゃないと困ると思い、神を見る。その内容は本当に簡単そうなものだった。


「そうですか、ならその依頼を受けましょう」

「えー、もうちょっと難しい依頼でも良くない? これとかさ」


 その紙には「ヴェントレオのハドマ支部の撃退」と書いてあった。ヴェントレオ、つまりウェルツがいた組織の正式名称だ。ユウナはわかっているのであろう。これが宿敵を倒すための依頼だと。

 だが、


「それはBランクの依頼だ。俺たちにはそもそも受けることが出来ないんだ」

「えー」

「えーじゃない」

「わかった」


 ユウナはしぶしぶ納得した。


「と言うわけで行ってきます」

「気をつけてください」

「はい!」

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