第9話 試験
「今日は金を稼ぐぞ」
今ユウナとウェルツは街中で一番大きい建物、つまりギルドの目の前にいる。ユウナはそんなギルドを目の前にして、ビビっている。この中に入らなくてはならない! と言うのはわかっている。だが、今まで組織の牢獄で言われるがままに言われるがままに実験を受けていたユウナにとって、何か新しいことをする機会なんてない。
そんな不安に感じるユウナを見て、ウェルツが背中をさする。それを受けて、ユウナの不安が少し解消された気がした。
「入るぞ!」
ウェルツがそうユウナに向けて言った。
「……うん」
ユウナはビビりながらそう答える。
「大丈夫だ。今日は登録だけだ」
ユウナは心の中が見透かされた気がした。なんでウェルツさんはわかるの? と思った。だが、そのそのウェルツの言葉が力になる。不安なのは変わらない。だが、今の自分にとって金稼ぎの手段はこれしかないというのも同様にわかってはいるのだ。実際にやらなくてはならない。
「いっぱい人がいるね」
入って最初に思い付いた感想がそれだった。実際今まで人なんてほとんど見たことがなかった。おそらく数えても数十名程度だろう。それが、建物の中には一〇名を優に超える人たちがいる。何と威圧感のある光景なのだろうか。
「当たり前だろこの建物はこの町一らしいからな」
「そっか、しかもさ強そうな人ばっかだね、なんで?」
見ると、筋肉ムキムキの人がいっぱいいた。立ち振る舞いからもただものじゃないとわかる。
「それは聞かなくてもわかるだろ」
「別に聞いてもいいじゃん」
「てかこんなことしている場合じゃねえな、登録しに行くぞ」
「はーい、といっても自分で歩けないから動かしてもらうだけだけどね」
「そうだな」
そしてウェルツに押されて、ユウナの椅子は受付の方へと向かう。
「すみません、ここの会員登録をしたいのですが」
「はい、後で実戦形式のテストを行いますがいいですか?」
「はい」
なぜ実践形式のテストをするかと言うのは、魔物に殺される実力不足の冒険者が急増したことを受けて、ギルドが実施したものである。実力不足だと、ギルドの一員にすらなれないというシンプルなものだ。
「では申込用紙を」
「はい」
そして受付員は一枚の紙を手渡した。
「あお……二枚ほしいのですが」
ウェルツはそれを見て、恐る恐る言う。
「あ、後ろの子もですか?」
「はい」
「でも足を怪我されているようですが」
「大丈夫です、すぐ直ると思うんで。それで足ケガしていたらこのギルドに入れないのですか?」
ウェルツは少し強い口調で言った。
「……いえ、そういうわけではありませんが」
「ならいいですよね」
ウェルツはもう本人が気づかないくらい大きな声で言っていた。それを見てユウナは自分のことをないがしろにされたことに対して少し怒ってくれてるのかなと思い、少しうれしくなった。
「まあ、ではこの二枚の紙に色々と記入してください」
「はい」
「うん」
二人は答えた。そしてペンを渡され、そのペンで一つ一つの項目に丁寧に記入していく。設定は朝に二人で決めた。大丈夫だ! とユウナは心の中で呟いた。
「記入できました」
「ちょっと待って、早すぎるよ! ウェルツさん!」
ユウナはそう発し、記入スピードを上げる。
「別に焦らなくてもいいんだぞ」
「まあそうだけど、そりゃ焦るよ、まだ半分もかけてないし」」
ユウナがそう言うとウェルツさんはそうかといった。
「私も書けました」
「どれどれ、二人の関係性を聞かせてもらっていいですか」
「はい、この子はもともと捨て子で俺が拾って育ててました」
「それではあなたの両親は?」
「俺が十四の時に亡くなりました」
これは紛れもない事実だ。嘘などではない。彼が十四の時に両親が亡くなり、その後、流れで組織に拾われたのだ。
「まあいいでしょう。少し待っててください」
「はい」
「これで実戦形式のテストに受かったら、めでたく入れるってことだよね」
「まあそうだな」
「がんばる」
ユウナは拳を握り締めた。
「いやお前に限っては逆にやりすぎないか心配なんだが」
「そう?」
「あの山でのことを思い出せよ」
「あっそっか、大変なことになってたもんね」
「お前の力は最悪人を殺しかねないからな。それに今は解放後の影響で封じ込められていた魔力があふれ出してるんだ。だから気をつけろよ」
「うん、気を付けるよ」
そうユウナは笑った。ウェルツはそれを見て大丈夫かなと少しだけ不安になった。
「お待たせしました」
「待ちましたよー」
「こら」
だるそうにそんなことを言うユウナの頭をウェルツが軽くごつく。
「待たせて悪かったな嬢ちゃん」
と、髭を生やした大男が待ちくたびれた様子のユウナに話しかける。
「この人がこのギルドの副リーダーのルベン マーチンさんだ」
「まあ副リーダーといえど、リーダーが強すぎて、称号なんて飾りだけどな」
「そうなんだ」
そして、ルベンは咳払いをして、
「まあお前らの力を見てやる、試合場に来い」
「うん!」
「どっちからくる」
「私から行く」
「おうこい、だが車いすでそう戦うんだ?」」
「こう」
そういって主人公は車いすごと浮かぶ
昨日急ピッチで仕込んだ甲斐があったと、ユウナは思った。雨季の魔法を何とか習得したのだ。とはいえ、そこまで自足時間は短いし、維持するのも大変だが、それをルベンに悟られないように笑顔で言う。
そして、試合場に着いたらすぐにユウナが、
「いくよー」
と、そう言い巨大な火球を飛ばす。
「うお、でかいな。ふむ。サンダーボルト」
そう言って、副支部長が電気のようなものを手から出して攻撃し、そのまま炎の球を粉砕する。
(今の粉砕する!? 強すぎない? あの人、私が出したあんな巨大な炎の球を破壊するなんて……)
ユウナはそう思った。ユウナにとってこんな苦戦は初めてだった。最初の戦闘では解放直後の力でゴリラを退かせたし、
「はあはあはあ」
(あれこんな体力使うもんなのこれ? 練習の時にはそんな疲れてなかったのにな)
数手魔法でやりやっただけで、もう体力が半分になった。そんなことはユウナにとって今までになかったはずなのに。それだけルベンが強いということだ。
「もう息切れか?」
そんなユウナに対してルベンが悪戯っぽい笑みを浮かべて言った。それに対し、ユウナは「うるさい!」と言い返すが、正直言って図星だった。ここは早く決めなければならない。
「こちらから行かせてもらうぞ」
その言葉に反応し、ユウナは後ろへと行く。
「逃げるのか?」
「うるさい」
これぐらい距離を取れればいいかなと、ユウナは考え、遠距離から「サンダーボール」と叫び、多数の雷の球がルベンめがけて襲ってくる。
「うっとおしい」
と、ルベンは剣で撃ち落とそうとするが、
「っく」
「よし」
雷弾が一つ副支部長に当たる
「これなら! いけーファイヤーボール」
「っまたか」
ルベンはそれぞれを剣で切ろうとしたが、上手くは斬れない。そのすきに、
「じゃあ、次は地中から水出て!」
そして、地面から飛び出る水でルベンは上へと押し上げられ、
「いけーファイヤーボール」
ユウナが炎の弾をルベンの方へと放とうとした。ルベンは空中で体制が整わないまま、なんとか剣を構え、発射に備えようとする。だが、その弾は放たれなかった。正確に言えば集まる前に破裂したのだ。
「え?」
そしてそのままユウナはその場に倒れた。
「おい大丈夫か」
そんなユウナにウェルツが駆けつける。
「うう」
ユウナはうめき声を上げるが、目を覚まさない。
「おい目を覚ませ!」
「どうした?」
その光景を見てルベンも駆け付けた。
「目を覚まさない」
「医者を呼べ!」
ルベンはすぐに叫んだ。
「これは魔力の使い過ぎですね」
ユウナを診療した医師はそう言った。
「そうですか」
ウェルツはそれに対して神妙な顔でそう返事をし、軽く拳を自分の膝に叩きつけた。ユウナを今保護しているのは自分なのだ。
甘かったのだ。ユウナが絶好調だから何も言ってはいなかった。だからこそ、こんなことになるとは思っていなかった。
ウェルツはユウナの完成体実験に全部関わってきた。そんな自分だからちゃんとユウナの体調を管理できていたはずなのに。
ユウナの実践は後一日二日遅らせ解けばよかった。ウェルツにはそんな後悔の念が流れた。
「おそらく二日、三日寝てたら治ると思います」
「そうか」
「すまない俺の責任だ、俺たちが試験をしたから力を使いすぎたんだ」
「いや俺がすべて悪い、あの子の魔法が不安定なことを知りながら行かせてしまった、親失格だ、本当に」
「そうか」
そしてウェルツはユウナを抱えて、「ではここで」と言った。だが、それに対して、ルベンが「待ってくれ!」と叫んだ。そして、ウェルツが立ち止まったのを見て、
「あなたは試験受けなくていいのか」
と言った。
「いや、こんな状態になってしまったんだし」
と、ウェルツは抱えていたユウナをじっと見ながら言う。彼女を早く宿に帰して、そばで見守ってやらなければ。
「いや今日受けてもらわなくては困る」
「そういうもんなのか?」
「ああ、明日また戦うのは面倒だからな」
「そういう理由ですか」
それにルベンには依頼がたまっていた。どちみち、今日を逃せば試験は行えなくなる。ギルドの入会には副ギルドリーダー以上の推薦が必要となるわけだ。
「その子ならギルドのもので見ときますから」
と、医師が言ったので、ウェルツは納得して試験場にルベンと共に戻った。
「なるほどな、お前ユウナも合格だ」
「え、でもユウナは力のコントロールが……」
「そこはお前がちゃんと見といてやってくれ。あの子は化けるぞ、もう二度と倒れさせるんじゃないぞ」
「わかりました」
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