第7話 李徴の名声
それから李徴の名声が広がるのはあっという間だった。
もちろん、詩の素晴らしさはあるとしても、それを虎となってまで作り続けたという事実が、人々の興味をひいたことは間違いない。いったん火がつくと、人気は燎原の火のごとく広がって、たくさんの業者が李徴の詩集を争うように出版し、それがまた飛ぶように売れた。
李陵の妻の清書した、言わば「直筆本」は、驚くような高値で売買された。
こうして、李徴の妻の元には、驚くような大金が舞い込むことになった。袁傪も、悪徳な連中から李徴の妻を守るため、いろいろと手を尽くしていた。
そんなある日、李徴の妻が、子どもを連れて、袁傪の家を訪ねてきた。
「今日は袁傪様にお願いがあって参りました」
まっすぐな澄んだ眼が美しい。
「お金が出来たので山林を買いたいのです」
「さ、山林ですか」
「この街の郊外に適当な場所はないでしょうか」
「すぐにはわかりませんが、西の方にはまだ開けていない土地がいくらでもあるでしょう。でも、急にどうしたんです」
「李徴、夫を連れて参りたいと思いまして」
「李徴を? 本気ですか?」
「もちろん本気です。私は、毎日、今、夫が人喰虎としておそれられているのかと思うといても立ってもいられない気持ちになります。助けたいのです。幸いお金も少し出来ました。全部、李徴のおかげです」
「確かに、助けられるものなら助けたいですが、でもどうしようと言うんですか」
「虎にとって食べ物が豊かな山林を買って、そこへうつすんです。そして塀で囲んで万が一にも人を襲ったりはしないようにしてあげたいんです」
「なるほど、人を襲ったら、襲う方も襲われる方も不幸ですね。それはいい考えだ。山林はわけなく手に入ると思います。ただ問題は、李徴をどうやって連れてくるかですが」
「一日に何時間か人間に戻ると言っていましたよね。その時に説得するしかないでしょう。私が自分で参ります。きっと説得します」
「わかりました。そうと決まれば急ぎましょう。人間に戻る時間がどんどん短くなっていると言っておりました。それに、人喰虎のままでは、人間に、退治されるおそれもありますからな」
山林を手に入れ、塀で囲むよう手はずを整えると、二人は李徴のいる商於に向かった。
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