1-11 奇妙な感じ

 結果から言えば、寝室はすぐに見つかった。


 廊下に出てすぐのドアを開けば、そこが寝室だったのだ。


 どうやらこのマンションは一人身、もしくはそれに準ずる少人数での生活を想定した住居になっているようで、部屋数は少なく、生活スペースもそれほど広くはない。

 だがそれにしても、と思う。


「寝室もガランとしてるな……」


 ドアを開け、明かりをつけると、寝室にもほとんどモノがなかった。

 ベッドと学習机、壁にはエアコン、そして申し訳程度にチョコンとしている鏡台。


 クローゼットはどうやら部屋と一体型になっているようで、他に家具らしい家具はない。


 まるで出来たてのモデルルームのような生活感のなさに、大福は奇妙な感覚を覚えていた。


 本当に、ここに華の女子高生が住んでいるのだろうか?

 そしてもう一つ、先ほど浮かんだ疑問が、もう一度首をもたげる。


「先輩、一人暮らしなのか?」


 家族の存在が感じられない。


 先ほどのリビングもそうだったのだが、家主以外の人間の存在を度外視したような雰囲気であった。


 玄関にも靴は少なかったし、同居人が存在しないような気がしたのだ。

 疑問を胸に抱きつつ、大福はハルをベッドに降ろす。


 疲労は感じなかったが、人一人をずっと背負っていた状態からの解放感はあった。


「……くっ、だがあの柔らかい感触は捨てがたかった……ッ!」


 まだ背中に残る温かみを惜しみつつ、しかしずっとハルを背負ってるままというわけにもいかなかった。


 涙を呑みつつ、大福はハルの靴を脱がせ、玄関へと向かう。




 チラリ、と確認するぐらいならバチもあたらなかろう、と思い、靴箱を開いてみた。


 だが、ハルが普段履く用のパンプスが一足あるだけで、他には何も入っていなかった。


「マジで一人暮らしなのか。……いや、それにしても」


 これほどに生活感を失くしている理由はなんだ?


 家具とは生活を豊かにし、より利便性を向上させてくれる。

 あって困るモノではないはずなのだ。


 なんなら、現代に生きるには必要不可欠と言っても良い。


 かつては三種の神器とまでうたわれたテレビ、冷蔵庫、洗濯機などはその代表格で、現在であればそれに加えて様々な生活家電がたくさんある。

 その程度の品ならば、秘匿會に言えば簡単に用意してくれそうなものなのに。


 心配になってキッチンを覗くと、冷蔵庫が低いモーター音を立てていた。


「良かった、一応冷蔵庫はあるのか」


 しかしレンジもオーブンもなく、食洗器など以ての外と言わんばかりである。

 ハルはこの部屋で、いったいどんな生活を送っているのだろうか?


 全く想像がつかなかった。


「おっと、任務は達成したんだ。長居は無用だぜ」


 人の家を探険するなんて下世話な趣味だ、と考えを改める。


 大福は適当に書置きを残して部屋から出ようとした。……のだが、当然メモ帳らしきものは存在しない。


「端末にメッセージでも送れば大丈夫かな……」


 手軽ではあるが、なんとも温かみは感じられないな、と思いつつ、大福が端末を取り出した時、ガタリ、と物音がする。


 今、この部屋で大福以外に物音を立てる存在と言えば、一人しかいなかろう。

 大福は寝室の方へと向かった。

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