第18話 イレギュラー
雪の家へと向かう疾風。
今回も勝った雪に対しては流石だと思っていた。
「早く、あの不届きものを捕まえなきゃ。」
雪を襲った魔装士を捕縛し「すいません。」ない
「!?」
バッと
突如聞こえた声に振り向き、距離を取る。
建物の陰から出てきた男は褐色の肌で、頭をまるめている。
まるで僧侶のような雰囲気がある。
(嘘、全然気配がしなかった。)
風の魔法を操る彼女は普段から周囲の空気に魔力を流していた。
もちろん、奇襲や変化にいち早く気づくためだ。
それに引っかからないということは・・・・
(相当な実力者ね。)
「すいません。」
もう一度男が声をかける。
「何ですか。」
懐の細剣を握りながら答える。
要件によってはここで戦わなければいけない。
「道をお聞きしたいのですが・・・。」
「急いでいるのでお断りいたします、衛兵にでも聞いてください。」
即答する疾風。
男の聞きたい答えではなかったのか、少し困った顔をしていた。
「そうですか。」
瞬間、ビリッと疾風の全身に鳥肌が立つ。
(すさまじい殺気・・・)
今度こそ、間違いなく自分と同格かそれ以上だと自覚した。
(いや、多分格上ね。)
殺すつもりなら最初に声を掛ける前に出来ていたはず。
とっくに勝敗はついていたのだ。
「ハァ・・・わかったわ。案内する、何処に送ればいいの?」
「物分かりが良くて助かります。リヴァイアサンという酒場なんですが、分かりますか?」
(雪の家と反対じゃない・・・)
キッと男を睨みつけて、やがてため息をつく
「リヴァイアサンね、連れて行くわ。ただし、着いたらすぐに別れるから。」
「えぇ、それで構いません。」
うんざりした顔の疾風に対して、男はにっこりと答えた。
―――
「ハァ・・・ハァ・・・。」
荒い息を吐きながら、雪は地面に座り込む。
(カートリッジを回収していてよかった。)
爪の魔装士がカートリッジを換えたとき、その残骸を影で拾っていた。
そこに残る魔力等を解析して自分が扱えるものへと変えていた。
あとは夜刻からもらっている魔法、自身の影を固定する「影止め」、止めた影に影の中を通って戻る「影戻り」を使い相手の背後をとっていた。
そして爪の魔装具を模した影を手に纏わせ、直前に見た黒竜爪を真似たものを放ったのだった。
(本当は後ろをとった時点で槍で倒せると思ったんだけど。)
相手の反応が異常なほど早かった。
流石は魔装国の名のある戦士といったところだった。
彼の技を真似ていなければ、決め手にはならなかっただろう。
そんな雪に声が掛けられる。
「えっと、おかえり。大丈夫?」
いつから覗いていたかは分からないが、大きな音を出し続けたこともあって、ノエルが家から心配そうに顔を出していた。
「大丈夫だよ、ただいま。」
よいしょと立って、紙袋を回収してノエルの方へと歩く。
「多分すぐにでも衛兵やギルドの人が来ると思う、これだけ派手な音を出したから。一旦家の中に」
帰ろうと言おうとして止まる。
彼女の近くに老人が居た。
ソレと目が合った瞬間、ゾッと鳥肌が立つのを感じ、魔力を最大限練る。
「影竜爪!!!!」
ズドンッと、さっきの三倍近くの魔力を注ぎ、特大の威力で打ち込む。
「ノエルッ!!」
「きゃっ」
そのまま近くの妻を引っ張り、腕に抱きかかえて距離を取る。
砂煙が晴れたとき
老人は片手を少し上げて無傷で立っていた。
(素手で受け止めたのか!?)
衝撃を受ける。
老人は抱きかかえられているノエルをじっと見た後、不気味な笑みを浮かべた。
月明かりが老人の顔全体を照らす。
雪はその顔に、もっといえば額の痣に覚えがあった。
「世界十二刻、捌・・・慈愛に満ちたもの、神父。」
・・・世界によって見出された十二の者、その一人であった。
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