第17話 激闘の末

 炎熱系の魔法は焱髄から受け取った魔法の改良である。

 その特徴は見えている炎ではなく、その周りにかなり高熱の層を纏っており、それが相手の皮膚を焼き、ダメージを与えるというものだ。

 しかし

(全然効かないな、あの爪多分そういうものを無効にする能力がついてる。)


 これが今までの爪との戦いで得られた情報である。

 無効にする能力がある以上、爪に防がれていては意味がない。

(意識外から当てるしかない、でも)

 懸念点があった、それは相手が大技を隠し持っている可能性だ。

 後出しされて負ける場合もある、とするならば

(わざと誘発させるしかない。)


 相手が勘違いするようにわざと隙を作るのは、この戦闘では至難の業だ。

 下手をすれば、ただ押し切られて負けることもある。

 それでも、決め手がない以上勝つためには必要だった。


 それから何回かの攻防が続いた。

 交差する槍と爪。

 先に息が上がったのは雪だった。

 槍を地面に刺し、息を整え「影止め」と小さく呟く。

 それを隙とみた相手が突っ込んでくる。


「おらぁ!!」


「おっと!」


 雪は槍から手を離し、急いで新しい槍を作って爪を弾く。


「おいおい、もう限界かぁ!?」


 そういって更に自身の爪を振るう。

 その回数はどんどん増していく。

 徐々に押し切られ、ついに


 ガキンッ


 槍が手元から弾かれる。

 瞬間、爪に込められた魔力が跳ね上がる。

 この隙を爪は逃さない。


「あばよ、黒竜爪こくりゅうそう!」


 竜の鱗をも貫通させるのに十分な魔力と鋭き爪の一撃が雪の体を捕えようとする。

 その直前で、雪はニヤリと笑い唱える。


「影戻り。」


 スルリと目の前の雪が消える。

 爪は雪を捕えることができない。


「なっ!?」


 先ほど槍を刺した地点まで影を介して戻った雪は、相手の背後を取っていた。

 がら空きの背中に向けて槍を構えて跳躍。

 渾身の一撃を叩き込む。

 しかし、ギリギリで気づいた爪に受け止められる。


「甘ぇよ!!」

「まだだ!!」


 雪はパッと槍を手放し、懐に着地と同時に潜り込む。

 そしてから更なる一撃を魔力と共に放つ。


影竜爪えいりゅうそう!!!」


 表情が驚愕のものに変わる。


 ズシン


 相手の胴体に重い一撃が入った。

 一瞬の沈黙の後、爪の魔装士は地面へと沈んだ。




 ―——

 ギルドで激闘の顛末を見届けた疾風が言う。


「無事終わったみたいね、私は行くわよ。」


 そういって疾風が席を立つ。


「見えておるのに心配性じゃなぁ・・・。」


 豪傑は酒を飲みながら相変わらず楽しそうだった。


「貴方は楽観的過ぎるのよ、酒ばっか飲んで・・・ハァ、私は寝るわ、何だか気疲れしちゃったわ。」


 おやすみと言って、雷帝も出ていく。


「豪傑。」


 秩序が呼びかける。


「おうよ。」


 そうして残った二人が話し始める。


「今回の件、魔装国の差し金だろうか?」


「うーん、それにしては短絡的な気もするのう。」


 少し考えて豪傑が続ける。


「うちを瓦解させたいならもっと良い暗殺者を連れてこればいいし、雪を狙うというのも変な話じゃなあ。そう考えると、魔装国じゃない国が主体で行ったんじゃろ。」


「とすれば、他の目的が」


「あるんじゃろうなぁ。」


 酒瓶を振りながら少し真剣な顔をしてさらに続ける。


「まあ何にせよ、少しきな臭いな。まだ一悶着はありそうじゃ。」


 そういって最後の一口を飲み干した。



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