第13話 毒殺のサーシャ

 疾風達がギルドに戻る少し前のお話。

 ギルドではとある事件が起こっていた。


 ―――

 毒殺のサーシャ

 暗殺者として、彼女は優秀で異例な実力者だった。

 暗殺者とは、身を隠し、痕跡を隠し、ターゲットの守りが薄くなったところで行動し、仕事を瞬時に終える、そういうものだ。

 しかし、彼女は違った。

 その一切を隠さない。

 けれどターゲットは必ず仕留めていた。

 周りの者も気づかぬうちに。


(今回依頼されたターゲットもいつもと同じね。)

 ギルドの建物内に入った彼女はそう思っていた。

 を使用する彼女は、あらかじめ用意しておいた魔導具を使う。

 使用後、そこには彼女と瓜二つの人がいた。

 簡単な意思疎通が取れる人形の魔導具である。

 単純なカラクリだ、いつもこうやって欺き、仕事を終える。

 今回もすぐ終わるだろう。


「じゃあ、彼の前に立ちはだかってね。」


 と人形に指令を出して、自身は透明になる。

 予定通り人形は廊下に居たターゲットに近づいた。

 ターゲットは「ここは関係者以外立ち入り禁止だよ、迷子かな。」なんて呑気に聞いている。

(さて、じゃあこの毒を彼の皮膚に刺すだけね。)

 そうして、毒の塗った針を用意する。

 それを首に刺そうとして、彼と目が合った。

 動きが止まる。

(見られた!?いや、透明は解除していない、たまたまね、さっさと終わらせ)


「お嬢ちゃん、毒殺かい?それはちょっと甘いんじゃないかなぁ。」


 男は毒針を躱して、話しかける。

 そうして手に持った短剣で切りかかるが、手ごたえがない。


「あれ?逃げられた?」


「貴方がのんびり話しているうちにね、バカなの?」


 事の一部始終を見ていた、金髪の長い髪の女性が角から出てくる。


「えぇ、つれないな。・・・頼んでいい?雷帝。」


 彼女が答える前に遠くで雷が一つ落ちた。

 そのまま彼女は何も言わずに立ち去った。



(やれやれ、面倒な事が持ち込まれているな。多分、他にもいる。)

 そんな当たりをつけるが。


「まぁ、何とかなるだろ。各々に対処してもらおうか、仕事溜まってるしな。」


 そういって執務室に戻っていく。


「坊の家の方にも一人隠す気がないのがいるな、本当なら助けに行くべきだろうが勝てるだろ、たまには男を見せてもらわないとな・・・例え今が本調子じゃなくとも。」


 そう独り言を述べて彼は仕事に戻った。


 ―――

 毒を避けられた瞬間、毒殺のサーシャは瞬時に離脱していた。

 そのまま離れた路地裏まで一息に逃げていた。

(冗談じゃない!化け物じゃないの。)

 簡単な任務だと侮っていた。

 まさか自分のやり方が失敗するとは夢にも思っていなかった。


「とりあえず、この街を離れて」


 そこから先の言葉を彼女は話すことはなかった。


 ほどなくして路地裏で、焼かれたような女性の死体が見つかる。

 それは毒殺のサーシャと一部で恐れられていた暗殺者によく似ていたという。

 確かに彼女は異例で実力者であった。

 しかし、あくまで実力者で、その上澄みでは到底なかった。

 そのうえ、慎重さも欠けていた。

 傲慢にも、彼女は今までと同じやり方をした。


 その代償は・・・。

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