第12話 帰り道

 長い時間をかけて向かった道を数倍の速度で戻る疾風は、その背中におぶられている雪に声をかける。


「雪、起きてる?」


「ん、起きてるよ。どうしたの。」


 少し眠そうな声で雪が返事をする。

 存外おぶられている状態は心地よく、眠くなっていた。


「今日の貴方カッコよかったわ、待っているノエルにも見せてあげたかったくらい。」


「冗談でしょ、あんなカッコ悪いところ見せられないよ、最後は助けてもらったわけだし。」


 今日の激闘を思い出しながら、やっぱり見られたくないと思った。

 ノエルならがっかりする事はないと思うけど、あんなギリギリな戦いでは、彼女の胃に心配で穴をあけてしまいそうだ。


「えぇー、まるで英雄譚の一節の様だったのに。」


「それは絶対ないですって。」


 強く否定した。

 英雄には程遠いし、恐れ多い。


 言われた疾風は少し考える素振りを見せてから言った。


「そうかしら、どんな英雄にも始まりがあるのよ、その始まりは結構泥臭くてカッコ悪い事も多いんだから。」


 言い返そうと思ったが、続く言葉に遮られてしまう。


「それに、見てた私達が興奮したんですもの、それくらいの価値があったのよ。」


 納得はいかない、けど・・・


「誉め言葉として有難く受け取っておくよ・・・。」


「うん、そうしなさい。」


 そこでいったん会話は途切れた。


(にしても、不思議な敵だったわね。)

 疾風は先ほどの鯨を思い浮かべていた。

(災渦の獣に黒鯨はいるけど、それと関係はあるのかしら。まさかとは思うけど、まぁ何にせよ調査を進めれば近々わかるでしょ。それよりもまずは帰って現状を伝えなきゃ)

 と思っていたところで、自身の魔力検知に複数の反応が引っかかる。


「盗賊かしら、雪」


 呼びかけられて起きた雪が「はぁい」と返事をする。


「この先に盗賊がいるっぽいから、寄っていいかしら。」


 大丈夫という声を聞いて、行き先を変える。

 盗賊にはすぐに接敵することとなった。


 ―――

「返してくださいよぉ、私は道に迷っていただけなんです・・・。」


「へへっ、悪いな嬢ちゃん、こいつは通行料としてもらってくぜ。」


 絵に見たような盗賊と、いちゃもんを付けられている女性がそこにいた。


「雪、せっかくだから私の魔法を見せてあげる。」


 そう言って、雪を降ろした疾風は盗賊に立ちはだかるのだった。


「そこの盗賊さん、遺言はあるかしら。」


 出ていくなり物騒な事を聞く疾風。


「あぁん、何だお前。」


 頭らしき男が前に出てくる。

 そして、疾風を掴もうとして


 スパっ


 空を切るような軽い音がして、男の腕が無くなっていた。


「う、あ、お、俺の腕が・・・」


 情けない声を漏らす盗賊頭。


「うるさいわね。」


 もう一度空を切る音がして、静寂が訪れる。

 そこで遅れて他の盗賊も理解する。

 目の前に居るのは敵だと。


「武器を!」

「逃げろぉ。」

「お、おい。」


 大パニックだ。

 それを疾風は意に介さず、ただひたすらに首を落とす。

 歯向かってくるものも、逃げるものも平等に。


「私の魔法はね、風よ。自身に使えばひたすら早く、他人に使えば鋭く早く首を落とすこともできるの。」


 数分後には驚いている女性と、無数の死体が転がっていた。


「あ、ありがとうございました。」


 助けた女性はそうお礼を言った。

 道に迷っていたところを、案内するといって騙されたらしい。

 気を付けてね伝え、彼女のものと言ったを返して道を教えて別れる。


 ―――

「疾風の攻撃魔法初めて見たよ。」


 また背負われて移動している時に伝える。


「今まで見せる機会がなかったからね、どう?」


「かっこよかった、一般魔法としての風は覚えているけど、極めていくとあそこまで早いんだね、まったく見えなかった。」


「ふふん、でしょ。伊達に疾風の名を冠してないんだから。」


 そう言う疾風は嬉しそうだった。


「そういえば、さっきの子だけど。」


 先ほど助けた女性、誰かに似てたよねと雪に話す。


「そう言われると・・・魔槍にちょっと似てたかも?」


「魔槍・・・確かに似てたかも、でもあいつ妹とか居ないって言ってたし気の所為ね、きっと。」


 なんて他愛もない会話をしているうちに、ギルドのある街に目と鼻の先まで来ていた。


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