第10話 鯨
おかしい・・・
それが確信に変わったのは、正午を過ぎてからだった。
ヒット&アウェイを繰り返し、討伐も見えていたはずが、どんどん防戦一方になっている。
鯨の魔法の威力も魚の数も、よく見れば種類まで増えている。
「絶対おかしいよね!?」
明らかな変化に叫びながら、戦う手は止めない。
というか手を止めたら死ぬのだ。
槍と己の肉体を動かすことに命をかけて、ぎりぎりやり過ごしている。
しかし、避けきれない攻撃が、雪の傷を増やしていく。
「ねぇねぇ、流石に助けに入った方がいいんじゃない?結構な強さに変化してるわよ、あの鯨。」
心配そうに疾風が言う。
その手には自身の獲物を持ち、いつでも加勢できる状態だ。
「いや、まだいける。」
魔槍が否定する。
そういう間にも危なっかしい攻防は続く。
いや、もはや防戦である。
勝ち目は薄い。
話している間にも傷は増えていく、間一髪で。
「ねぇ!!」
雪が死んで、自分たちは見てただけ、ではあまりにも酷い。
雪の妻にもなんていえばいいかわからない。
「次、直撃したら助けていい。オレも助ける、それでいいだろ。」
「もうっ!!」
疾風は今にも飛び出しそうな顔をしていた。
「ふむ・・・」
横で観戦している王狼も疾風と同じ気持ちではあるが、魔槍には何か考えがあるのだろうか。
そう思いながら、戦場を俯瞰するが、やはり雪の勝ち目はほぼないように見えた。
これでは直撃するのは時間の問題だろう。
戦闘時間もかなり長いことを踏まえると、かなり頑張った方だろう。
(雪には悪いが、すぐに助けることになりそうだな。)
―――
雪は防戦一方だった。
(くそどんどん強くなってる)
正直耐えているのも奇跡だと思っていた。
相手の攻撃を避け、弾く。
攻撃をする隙はほとんどない、あったとしても体力的に厳しかった。
魚の突進を捌く、鯨の攻撃を避ける、魚の攻撃を・・・・その繰り返しだ。
しかし
「あっ」
ついにその時はきた。
魚の突進を捌ききれずよろけてしまう。
次の鯨の尾による攻撃、これは弾けないと悟る。
迫る尾を前にして、雪は・・・
―――
稽古中の事だった。
「いいか、オレの魔法の事は分かったな。そのうえで言うがお前にこの槍は扱えない。こいつは扱い手を認めない限り、その性能を制限する。まあもし、認められれば、第一解放くらいはしてくれるかもな。」
魔槍は休憩するかといって、その辺に座り込む。
「これ以上は戦いの中で、磨くしかねぇよ。戦って戦って、そん中で槍に認められる。そしたら、力を貸してくれるかもな。まっ、頑張れよ。」
(槍・・・)
「雪、私はね、貴方が帰ってきてくれればそれでいいんだよ。だからどうか・・・」
(あれ、ノエルの声だ。けど、こんな会話したっけ、でもそうだ帰らなきゃ。)
かえるんだ!
その瞬間意識が現実に戻る。
最後の力を振り絞る。
間一髪、尾をギリギリで避ける。
(帰りたい!)その願いに槍は答える、続く言葉は自然と口から出た。
「第一解放、羽化!」
槍の刀身が朱く燃えた。
思わず見惚れるほど綺麗な朱に染まった槍は、見事なカウンターをきめる。
鯨の尾を大きく抉った。
鯨の眼が怒りに染まる。
口を開けて特大の魔法を放とうとする。
(あっこれは流石に無理かも)
そう思う雪に「よくやった雪、お前の勝ちだよ。」すぐ横まで来て言い放った男、魔槍は雪から槍を取り上げる。
「●▼▲」
そのまま、鯨が放った今までで一番大きな空気球を弾く。
「悪いな鯨、槍が雪の事認めた以上、お前じゃもう役不足だ、消えてくれ。」
既に日は傾きかけていた。
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