第9話 塔

 日が昇ってきたころ、塔の入口の扉の前に到着した。


「やっぱりここに居るわね。けど何というか気配が変なような・・・?」


「気のせいだろ、ほら開けるぞ。」


 古いが煌びやかな扉を開ける、そこには壁に描かれた様々な文字や絵、その奥には3m程はあるであろう、白い鯨のような堕獣が居た。


「頑張ってこい。」


 魔槍に返事をして、借りた槍を構え鯨との距離を詰める。


「●▼」


 何かを話した鯨は雪に猛突進してくる。


「わわっ。」


 反射的に回避する。

 めちゃめちゃ大きいわけではないが、かなりの威圧感を感じる。


本作成ブックメーカー!」


 虚空から本がふわりと現れる。


「『槍使い』」


 魔法名を口にする。

 持っている槍が少し軽くなり、身体能力が少し向上する。


「●▲」


 白い鯨の身体周りに魚が泳ぎ始める。

 水もないのにとは思うが、何らかの魔法だろうと思考を一度打ち切る。


「行くぞ!」


 地面を蹴って肉薄、槍で一突き。

 ヒラリと躱されるが、その方向に一閃。

 白き巨体をかする。


「ふっ!」


 一度槍をひっこめて跳躍。

 さらに上から一閃。


 手ごたえはない。

 見えない壁に槍が阻まれていた。

(空間魔法?それとも)

 思考中、鯨が口を開く。

 魔力が練られるのを感じ、急いで横に回避した。

 髪先を空気の塊が通る。


(空気系の魔法か!)

 不意に身体の周りを泳いでいた魚が雪めがけて突っ込んでくる。


「おっと。」


 それらを斬り、時には避けて対処する。


(ふぅ、何とかなってる。)

 確かな実感をもって、槍をしっかりと握りしめる。

 そして再度鯨に、突っ込んでいく。


「何とか戦えてるじゃない、凄いわ!」


 疾風がキャッキャとはしゃぐ。


「ふんっ、あれくらい当然だろ。」


「いやでも雪は」


「それでもだ、元々を考えたら堕獣くらい」


「二人とも、雪が頑張ってるんです、しっかり見ないと。」


 言い合いを始めた二人を王狼が止める。


「ちっ。」


「むむむ。」


 二人とも不満そうだった。


 ―――

 一方雪は、槍をふるい続ける。

 魚の連撃が止まり、鯨の攻撃が止んだ小さな隙に、技を打ち込む。


「三段槍。」


 刺し、斜めに引き、槍を半回転させて魔力を乗せて斬撃を放つ。

 魔槍の稽古を元に作り出した技である。

 雪の本制作ブックメイカーは元々が優秀な魔法だが、使い手のセンスに依存する。

 新たな技をポンポン作れる雪はセンスの塊なのかもしれない。


 斬撃は鯨に浅くはない傷をつける。

(この調子なら問題なく狩れる。)

 そう思い戦闘を続ける。


 傷をいくつか付けていた時だった。

 鯨が歌のようなものを唱え始める。


「やばっ。」


 鳥肌が立つのを感じて、その場から身を引き、防御魔法を使う。

 瞬間、身体に強い衝撃を受ける。

 さっきまで居たところは大きく削られていた。


「余波でこの威力かよ。」


 まともに食らっていたらと考えるとゾッとする。

(空気の圧縮と爆発かな、凄い威力だ。)


(というか強くなっていないかこいつ)

 初めに相対したときよりも魔力量が跳ね上がっている。

 背中を冷たい汗が走るのを感じた。



「ねぇ、あの鯨ほんとに堕獣?堕天くらいの強さはある気のだけど。」


 優勢であった雪が徐々に押されているのを見て疾風が言う。


「ふむ、最初は堕獣くらいでしたが・・・、何かの要因でレベルが上がるタイプでしょうか。」


「堕天も、堕獣も関係ねぇよ。倒せないならそこまでだろ。」


 時間は正午を越えていた。

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