第8話 槍

 あの後抗議したが、魔槍に押し切られてしまった。


「大丈夫、大丈夫!せいぜい堕獣クラスだろ。何とかなるって。」


「堕獣クラスとか数えるほどしか討伐してないし、そもそも誰かの手伝いくらいしか・・・」


 そういう雪を、忌々しく見る魔槍。

 やがてため息をついた。


「はぁ、分かった。雪、今誰の魔法を持ってる。」


 聞かれた雪は自分の手持ちとなる魔法を魔槍に伝える。


「そうか。」


 そう言って頷いた魔槍は、槍で自分の指を軽く切る。


「ほら、本出しな。オレ様の魔法をやるよ。」


「わわっ、本制作ブックメイカー!」


 雪は急いで本を出し、そのページに彼の血を染み込ませる。

 すると、本が淡く光り、何かの模様が刻まれる。


「魔槍、でもこれって・・・。」


「必要だからやっただけだ、とやかく言われることはねぇよ。あと、稽古つけてやるから、堕獣と戦う時にはそれも活かしな。」


「ありがとう、魔槍。ちなみに槍は・・・。」


「作れば・・・いや、オレのを貸してやる。」


 いつも口は悪いけど、彼はとっても優しいのだ。

 前々の事件からそれは知っている。

 ほんとに口は悪いけど。


 後、申し訳なくて言えなかったが、自分の本制作ブックメイカーは魔力を注ぐだけで覚えることができる。

 流石に半殺しにされそうだから言わないでおこう。



 ―――

 夜が更けてきたころ、魔槍との稽古が始まった。


「じゃあ稽古を始めるぞ。」


「これ使っていいぞ」と彼の槍を渡される。


「え、でも・・・」


「あのときのとは別物だ、それに今更気にしなくていい。」


 魔槍の性格からして本心だろう。

 有難く、槍を借りる。


「うん、ありがとう。」


「あっ、でもそれもかなり良い槍だからな、今度は壊すなよ。」


「わかってるって。」


 笑いながら返答する。


「じゃあ先生、使い方教えてください。」


「おうよ。」


 そうして数時間にわたり稽古をつけてもらった。



 ―――

 魔槍に稽古をつけてもらって驚いたことがある。

 彼の魔法、『槍使い』はかなりシンプルなものだった。

 実際使ってみて分かったが、この魔法は槍の扱いを早く覚える、取り回しが良くなるなど、ちょっとした能力向上以外何もなかった。

 ゆえに、魔槍という人物の凄さに驚いた。


 ギルドの団員として数字をもらっているという事は、それだけで実力の高さを証明することになる。

 魔槍はその実力の高さを魔法の力ではなく、彼自身のセンスで磨き上げて、ギルドでの地位を手に入れている。


(それに、彼は本来の魔槍を持っていない。)

 それなのに、この地位に居続けること自体が鍛錬とセンスの塊なのだろう。


「あとは性格がもっと優しければなぁ・・・。」


「なーにぼやいてんだ、そろそろ着くぞ。」


 ハッとして顔を上げる。

 例の塔だ。


「それじゃ、私と魔槍は昨日と同じく周囲の探索、貴方達はこの塔の周辺の調査をお願いね。」


 そう言って別れる。

 時間はお昼近くだった。


「ふむ、確かにここの中には堕獣クラスが一匹居ますね。」


 しばらく塔の周辺を調査した後、王狼が顎を撫でながら言った。


「しかし、何というか、少し気配がおかしいというか、何というか・・・うーむ。」


 そう言って、また考え込んでしまった。

 特に雪の意見を求めたわけでは無かった。


 そうして夕暮れに戻ってきた疾風達と合流して、前日の野営地まで戻ってきた。


「今日の成果を伝えるわ。」


 疾風が切り出す。


「ここはね、元々街だったみたい。しかもかなり古い街ね、少なくとも今の八、いや九大王国ができる以前のものよ。」


「あぁ、オレも大体同じ意見だ。」


 魔槍も同意する。


「なるほど、古い街ですか。それも太古の。」


 王狼も納得していたが、信じきれない顔をしている。

(古い街か・・・)

 言われてみれば、そんな気もする。

 九大王国以前のものであれば、どの地図にも載っていない事も納得ではあるが。


「それと昨日も伝えたけど、やっぱり遺跡に魔物はいなかったわ。いるのは、例の塔の堕獣のみね。色々な疑問はあるけど、明日塔の中に入ってみようと思うわ。」


 全員異論はなかった。


「約束通り、堕獣とは雪に戦ってもらうけど、それもいいよな?」


 魔槍が再度確認する。

 ・・・出来れば忘れていてほしかった。


 そのあとは軽く話して、魔槍に稽古を付けてもらって終わった。



―――――――――――

補足:

雪の使える魔法『本作成』は認めてもらった?相手の情報を取り入れることで、その魔法を創造することができるらしい。

近しい魔法に、創造、模倣、物真似といったものがあるが、それらとは別種の魔法として扱われている。

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