第36話銀髪の狐と黒髪の麗女
奏恵に向かって伸びてくる幾重もの髪の束を避けていく。
すると、髪が分裂して避けた奏恵を追尾していき、それを避けたとしてもまた分裂して追尾していきだんだんと奏恵の逃げ場がなくなっていく。
「アハハハ!避てけテばっかじゃいつマデ経ってもワたしに勝てナイわよ!」
奏恵を追尾している髪は数十、数百とだんだんと増えていき、ついには360度髪に覆われ、奏恵の逃げ場がなくなるほどまで増えていった。
「《
奏恵は自身の周りに炎の
すると麗美の髪は過剰なほど炎に触れないように退いていった。
その隙を見て奏恵は髪の包囲網から脱出していく。
「よクモ!ワたしの髪を燃やソウとしたわネ!」
麗美は奏恵が火の
包囲から抜け出した奏恵は麗美から離れた後一息つこうとして
「っ!」
すぐにその場から離れた
奏恵は先ほど自分がいた場所をよく見てみると、光の反射で何かキラキラと光っている一本の髪の毛に気づいた。
奏恵が一息ついた瞬間を見計らって一本の髪の毛が彼女の背後から伸ばされていたのだ。
「チッ!惜しイわネ!」
麗美は不意打ちで狙ったものが不発に終わったことに悪態をつく。
さらに麗美から離れ、周りの気配に最大限気を配りながら奏恵は今後の行動について思案していた。
(相手の手数が多すぎる。おそらく髪の毛一本だろうと捕まるのは危険ね。一瞬でも捕まろうものなら他の髪も絡みついて負けてしまう。立ち止まったり防御をするのは悪手だわ)
髪の毛一本だろうとそこにはかなりの存在力が込められている。
たかが一本の髪の毛であれば数秒で切ることができるが、数秒あれば相手は大量の髪で自分を拘束するだろうことも、もしそうなったら負けること奏恵は理解していた。
それに防御しようにもそのまま絡め取られまうのは目に見えているため避けるしかなかった。
だがそうなると自分の攻撃するタイミングがなくなってしまう。
麗美の攻撃を避けることはできるが、奏恵の
しかし、近づくとなると相手の攻撃の密度が上がり避けられなくなる。
そのため奏恵はとにかく手数が欲しかった。
『姉貴!周りの奴らはあらかた終わった!そっち手伝おうか!?』
ちょうどその時晃から念話が来る。
『そうね、俊敏に動ける攻撃型と遠距離型の出来れば火の
『分かった!すぐに向かわせる!』
念話の超能力は基本的に超能力者から相手への一方通行でしか話せないが、晃の念話はある一定のパスが繋がっている時には相手から晃へと念話が可能になっている。
これは内界の念話の超能力者もできないことであり、彼が鍛錬の末習得した技術である。
(クソ!下手ニ突っ込んだらワたしの髪が痛ムじゃナイ!)
奏恵が晃と念話をしていた頃、麗美は奏恵に対して悪態をついていた。
炎に当たろうが麗美の髪は焼けることはない。
そのまま強引に突破して奏恵を拘束することも可能であった。
しかし、麗美は炎の
麗美は髪が痛むことを極端に嫌う。
そのため髪が痛む炎は出来るだけ避けたかったのだ。
(あいつハ攻め手ヲ欠いてイル!ならこのママ攻めテいけばワたしが勝ツ!
麗美は気づいていなかった。
以前の麗美ならば髪が痛む可能性があるならばすぐに撤退していたはずである。
なのに、麗美は
その後も麗美が攻め、奏恵が避けていく展開が続いた。
時折奏恵が炎の
右から来た髪の束を奏恵が下がることで避けると奏恵が先ほどまでのいた場所を通り過ぎた後、左右と上の三つに分裂して奏恵を追尾する。
それも避けようとした奏恵だが、左足に違和感を感じ、見てみると数本の髪が巻きついていた。
「っ!まずい!」
「つゥかまえタァァァ!!」
すぐに髪を断ち切ろうとするがすでに遅く、麗美はさらに奏恵を拘束するために前方が真っ黒になるほどの髪を彼女に向けて放っていた。
「《
「《
奏恵は前方に向かって巨大な火を放ち、それに髪が当たるのを嫌った麗美は拘束するのを諦めて壁に向かって叩きつけた。
奏恵が叩きつけられたコンクリートの壁はその衝撃で崩れてしまう。
常人であれば身体がはしゃげて死んでしまうような衝撃であったが、奏恵は
しかし、衝撃だけは体に響いており、すぐには体が動さことができないでいた。
「くっ!」
「しぶトいわネ!安心なサイ。ゆっくりと殺シテあげるカラ!」
奏恵に向かって髪が伸ばされていく。
彼女もそれには気づいていた、が叩きつけられた衝撃でとっさに体が動けないでいた。
そんな時、横から大量の火が放たれ髪に着弾する。
「あアああ!ワたしの髪が!」
麗美が突然横から放たれた火で自分の髪が燃やされたことで慌てていた所に四方八方から放たれた火が彼女自身に当たりあたり一帯ごと燃やしていった。
「姐さん!大丈夫ですか!?」
麗美が燃やされている中、一人の男が奏恵へと駆けつける。
その男は奏恵が頼んだ増援の一人である。
彼以外にも麗美を取り囲むようにして増援は配置されていた。
おそらく晃が念話で指示していたのだろう。
「ええ。ちょっと衝撃で立ちくらみしただけだから大丈夫よ。…それより、まだ気を抜いちゃダメよ。あいつはまだ生きている」
体の中の衝撃も収まり元の状態に戻った奏恵は、燃えている麗美を見て警戒を解いている増援の人たちに向けて注意を促した。
「どうしてです?流石にあの状態で生きているとは思えないのですが」
男は奏恵そこまで警戒することに疑問を感じていた。
増援としてきた彼らは招き猫の中でも腕利きを選んで送られているため、彼らの放った火の
もし、この攻撃を耐えたとしても全身大火傷で勝負は決まったようなものだと思っている。
しかし、奏恵は感じていた。
炎の中にいる麗美の存在力は全く変わってないことに。
炎の中から現れた黒髪があたり一帯を薙ぎ払い、増援の人たちに襲いかかった。
増援の人たちも奏恵の忠告を聞いていたので誰も喰らうことなく回避していく。
「フザけるな!髪だけでナクワたしの美シイ体まで燃やすナンテ!」
薙ぎ払いの勢いによって火が消え、中から麗美が出てきた。
彼女はその表情こそ怒りで満ちており、火傷をしているものの戦うのには問題ない状態であった。
「なっ!」
「あまり効いてないだと!?」
「どうなってやがる!」
これには増援の人たちも驚きを隠せなかったのか狼狽えている。
そんな中、奏恵だけはさっきの攻撃が効かなかった理由を思案していた。
(さっきあいつが言っていた
「そんなに狼狽えなくていいわ。思ったより効いていないだけで十分効果はある。気負わずに攻めて行けば負けることはないわ」
奏恵の発破によって狼狽えていた彼らも落ち着きを取り戻し、意識を切り替えていった。
対して麗美は相手に増援が来たことにイライラしていた。
(人ガ増えやがっタ。クソ!他の奴ら全員負ケタのか雑魚が!面倒くさイ!)
麗美は焦っていた。
イデアの隣人に所属していた時、
さらには力を与えて貰い一歩先の力まで進めることができたことに
今回の初仕事も他の二人よりも早く確実にこなしてみせると意気込んでいたにも関わらず奏恵を殺すのに手間取り、あまつさえ増援まで来てしまったことでだんだん焦りが募っていった。
『いつまでかかっている』
「あ、主様!も、申し訳ありマセン!あと少シ、もう少しデ終わりマスので!」
そんな時、突然麗美の頭の中で誰かの声が聞こえる、その声は大人の男性との小さな少女の声とも取れるような様々な声が重なったような声だった。
その声を聞いた瞬間、麗美は途轍もない慌てようでその声の主に向けてなのか必死に謝っていた。
そのな様子を見ていた奏恵たちは、突然謝り出した麗美に怪訝な表情を浮かべていたが、何か良からぬことが起きているのではないかと警戒をさらに強めた。
『遅い。もういい、本気を出せ』
「エ?いや。ワ、ワたしは手を抜イテなんていまセン!すぐに終ワラせますノデどうか!ドウカァァァァァァ!アァァァァァァ!!」
麗美が絶叫したと同時に彼女は頭を掻きむしり始め苦難の表情を浮かべだし、目や耳、鼻から血を流し始める。
そして、体がまるで作り変えられていくかのようにボコボコと脈動し始めた。
そのような異様な光景に奏恵たちも手出しできなかった。
いや、突然の出来事に動けなかった。
その後、頭を掻きむしっていた麗美はいちどビクンッと痙攣した後死んだかのように脱力したあと、バッと顔を上げるとそこには先ほどの麗美とはかけ離れた狂気に顔を染めた彼女の顔があった。
「オマエラヲコロス!」
その後放たれた存在力は、奏恵たちですら恐怖するほど濃く、強大であった。
「《
麗美の髪がまるで大津波かのようにあたり一体に広がっていく。
奏恵たちも退避しようと動こうとするが髪の動きがあまりに速かった。
彼女ら全員が髪に捕まってしまう。
「ぐっ!」
その後奏恵を捕らえた髪は容赦なく彼女を締め上げていく。
いくら
奏恵はそのまま意識を薄れさせていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます