第34話 狐の舞踊と剣の乱舞
「「痛たたたた」」
ところ変わって水瀬姉弟は逃げるのが他の人よりも遅く、比較的近くでビルの倒壊に巻き込まれていた。
というのも多少なりとも被害が軽減してくれることを考慮して三水を攻撃を防いだ
しかし、それはほとんど意味をなさず焼石に水であった。
「危なかった」
「危機一髪」
瓦礫や破片によるかすり傷はあるが大きな怪我はなく、砂埃で体が汚れている程度であった。
『……ザザ…七菜…風間……無事か…ザザザ…』
彼らの耳についているインカムに純から通信が入るが砂埃によるものなのか通信状況が悪い。
「純。私たちは無事」
『わか……一旦ご…ザザ……よう』
「いや、先に行っといていいよ。こっちは時間がかかりそうだ」
お互いの無事を確保し一旦合流しようとしたが風間が周囲に人の気配を多数、それも悪意を持った者の気配を感知していた。
「《下ろし風》」
風間が
全員が胸元に三水と同じようにイデアの隣人の紋章をつけている。
おそらく近くに潜んでいたのであろう。
『…ザザ…敵……か…』
「人数は多いけど俺たちだけで倒せるから大丈夫だ。それより先にアジトの方にいっといてくれ」
『…ザザ…わか……気をつ……よ……ザザ…』
その言葉を最後に純からの通信は切れる。
「たった二人で俺たちを倒せるとか随分大きく出たじゃないか?なぁ!」
彼らの会話を聞いていた一人の男が、自分たちをだったの二人で簡単に倒せるとこともなげに言われたことに腹を立てながら
自分の攻撃を全く避けようとしない二人に男はさっきのは虚言だったと確信し顔を歪めた。
だが岩石が二人に当たる直前、七菜香の水の
「何いってるのおじさん。そんな貧弱な
「そんな貧弱な
水瀬姉弟にとってさっきの
「
「
七菜香を周辺には水が舞い、風間の周りには強風が吹き荒れる。
突然上がった存在力に周りにいたイデアの隣人のメンバーは顔に動揺し、顔に恐怖の表情を浮かべている者もいた。
「ごめんね。急いでるからさっさと終わらせるよ」
「時間がないからすぐに終わらせる」
水と風の濁流が彼らに襲いかかる。
〜〜〜〜〜
『…ザザ……ザ…』
さっきまで水瀬姉弟と通話をしていた純は、烈火と雷華の避けた先とは真逆のビルを挟んだ反対側に避けていた。
「急ごう…《俊獣脚》」
純はその場にしゃがみ込み手足にベージュ色の毛を纏った獣のものへと変形させていく。
そのまま純はものすごい速度で走り出した。
目の前にある瓦礫なども爪を使い、ほぼノンストップで最短距離を駆け抜けて行った。
〜〜〜〜〜
招き猫アジト前
三水が純たちに襲いかかったころ、招き猫にもイデアの隣人による襲撃が行われていた。
各々が自由に行動しているイデアの隣人と違い、招き猫は巧みな連携により彼等の襲撃を迎撃していき、一進一退の攻防が繰り広げられている。
そんな戦場を招き猫アジト内から見下ろす二人の男女。
一人は招き猫のリーダー猫屋奏恵。
そしてもう一人の中肉中背の男が招き猫の副リーダー
「戦況はどう」
「膠着状態です。ですが、ある一点だけ押されています」
「…あそこね」
奏恵も晃の見ていた方に目を向けるとそこでは一人の老婆が猛威を払っていた。
その場から一歩も動かず、周りに水球を浮かべながら向かってきた人を次々と撃ち抜いている。
「私が相手にするわ。全体の指揮は任せるわよ」
「分かりました」
普通の戦闘員では荷が重いと判断した奏恵は自分が戦うことを決断し、晃に指揮を委ねてカラ婆の方へ向かって行った。
『お前ら!向かって右前方で姉貴が戦う!そっちに近づくんじゃねぇぞ』
招き猫のメンバーの頭の中に直接晃の声が聞こえる。
二葉晃は〈念話〉の超能力者。
通常時は〈念話〉と頭の回転の早さを駆使して招き猫の運営のサポートをこなしている。
そして今この場では、戦況を俯瞰しながら離れた所にいる相手に命令することでリアルタイムに戦場を動かしていた。
そんな様子を見ながら奏恵はこの戦場で劣勢に立たされている場所、カラ婆のいる所に来た。
「随分と悪趣味なのね」
「カッカッカッ。潤っている肌を見るとどうも嫉妬にかられてのう」
そんなカラ婆の周辺には何か小さいものに貫かれた招き猫のメンバーの死体が転がっていた。
そして、彼らが若ければ若いほど体の傷跡が多くなっていた。
「婆さんなんだから家でゆっくりと死になさいな」
「誰がババアだって?わしゃまだまだ現役じゃ!」
「それは失礼したわね。ならここで引退させてあげる。黄泉でゆっくりするといいわ」
奏恵の瞳孔が細長くなり、頭には三角形の耳ができ、腕や脚が真っ赤な体毛に覆われた鋭利な爪の生えた獣のように、そして全身に銀色の体毛が生えていき、飴色の髪が銀色へと変化していった。
「猫屋奏恵。
「知っているのね」
「当たり前じゃろ」
奏恵は新宿の外界にある三大グループの一つ『招き猫』のトップである。
もちろん彼女の
彼女もそのことはもちろん自覚しているので厳重に隠蔽していたが、それでも完璧に隠すことはできていなかった。
「で、なんでここを襲ったの?こんなに仲間を引き連れて」
「上からの命令じゃ。ここを潰せとな」
「
「カッカッ。そこまでは教えんよ嬢ちゃん」
「なら、吐くまでボコボコにしてあげる!」
「やってみな小娘が!
カラ婆の周辺に浮かんでいた水球がひと回り大きくなり、さまざまな軌道を辿りながら奏恵へと放たれて行った。
〜〜〜〜〜
烏の饗祭アジト前
ここも招き猫と同様にイデアの隣人の襲撃を受けていた。
烏の饗祭は招き猫とは異なり、隊列を組んだらせず各々が自由に迎撃をしており、混戦状態になっていた。
そんな混戦のなか、ぽっかりと空いた場所があった。
剣崎浩志と籠尾徹が向かい合っている空間である。
籠尾は両腕に無骨な籠手を嵌めており、これまでの戦いでついたのか両方とも真っ赤な血で染まっていた。
対する浩志はまるでその辺を散歩していたかのように手ぶらの格好で佇んでいる。
お互い自由に戦っていた中、強者の気配を感じ取った徹が浩志へと突撃したのだ。
「お前が剣崎浩志か?」
肌に感じる突き刺すような存在感から徹は彼が烏の饗祭のリーダー剣崎浩志であるという確信を半ば抱いていた。
「そうだ。そういうお前は?」
「俺か?俺はイデアの隣人の幹部、籠尾徹だ」
「で?イデアの隣人が
徹からの戦意と呼べる様な気迫を受けながらも浩志は顔色ひとつ変えず徹へと話しかけていた。
「ここを潰せという命令だ」
「そうか、死ね」
脱力し切った状態から一瞬で目を見張るような動きで徹の懐に入った浩志はいつの間にか手に持っていた剣で右下から逆袈裟斬りをする。
徹はそれをバックステップで下がりながら籠手を前に持ってきて浩志の攻撃を防御する。
「剣の
「《執拗な隠者の縄》」
徹は背後から迫ってきた黒い墨の縄を左手を裏拳することで弾き飛ばした。
「副リーダーの
徹が振り向いた先には右手を徹の方へと突き出した硯の姿があった。
猫屋奏恵と同様、彼らの情報もある程度探られており、知られている。
「そういうお前は鉄、いや籠手か?」
「そうだ。俺は籠手の
主張するように拳を合わせて籠手を鳴らす徹。
「硯、お前は何人か連れてあいつらのアジトへ行け」
「大丈夫か?」
「この程度なら俺一人で十分だ」
浩志はさっきの手合いで自分だけで問題ないと判断して硯に別行動を命令した。
硯もまた、心配でなく確認の意を込めて聞き返し、大丈夫だということでこの場から離脱して行った。
「
徹は浩志の余裕そうな表情を見て苦肉の策ではなく本当に自分が取るに足らない相手だと思われることに憤慨し、
籠手が変形していき、無骨だったものがより重厚に、より鋭利になり、肘までしかなかった籠手が肩の方にまで伸びていった。
殴られればさっきとは比にならないくらいのダメージを負うだろう。
「その自信叩き潰してや……」
しかし、気がつくと自分の顔の横を剣が通り過ぎ、頬に切り傷がついていた。
浩志の方に目を向けてみると彼の両手に剣を持ち、背後にも二本の剣を浮かべている。
「何を叩き潰すって?」
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